堕獄罪科
南雲紫苑
序章
───何故、こうなったのだろう。
ただ、普通に暮らしていただけなのに。
「俺は、何もしていない……!!してないんだ……!!信じてくれよ……頼む……誰か……」
薄暗く、ジメジメとした部屋の中で男は叫んだ。しかし、絞り出すような悲痛な叫びは誰にも届かない。
あぁ、もう駄目なのだろうか。
叫ぶのを辞め、男はぼんやりと鉄格子の
何度訴え、叫んだだろう。自分は無実なのだと、犯人は他にいるのだと。だが、その度、返ってきたのは心無い罵声と、暴力だった。
それでも、訴え続けたのは唯一信じてくれていた家族が居たから。
───だが、無理なのだ。どうしようもない現実が、そこにはあるのだ。
男は疲れ果てた男はゆっくりと目を閉じ、床にある硬いマットレスに身を投げた。
どうせ、自分にはもう時間などないのだから。
「ごめん、ごめんな───」
辛い、苦しい、哀しい。様々な感情が男の中で湧き上がる。
涙が溢れ出て止まらなかった。唇を噛み締め、必死に嗚咽を堪えた。
静かな夜に微かに響くのは、ひたすらに謝罪の声で。それは、空が白んでくるまで続いた。
やがて、男のいる独房に複数の看守がやってきた。
手錠を掛けられ、外に連れ出される時その男は無表情だった。全てを諦め、希望も何も持たない死んだような目をしていた。
「何か、言い残すことは」
看守が男に問う。
「───」
男は一言、看守を見ずに呟いた。消え入りそうな掠れた声で。
あまりに小さくて聴き取れ無かった看守が、再度問い直したが、男は首を横に振った。何でもないと。
その後、看守に深々と頭を下げ、誘導された場所へと進む。ゆっくりと、死へと繋がる道を。
───そして一瞬の苦しみに支配された後、男の意識は完全なる闇へと沈んだ。
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