赤木は人気者
吉田を先頭にした集団の後ろについていく来栖さんの後ろについてく俺。
堂々と歩いているので特に隠れる必要もない。
でも段々と
そして今は使われていない音楽室へと入っていく。
ドアが閉まるのを確認して、俺はそっと扉へと近づき聞き耳を立てる。
どうやら何やら言い合って、いや一方的に吉田がしゃべっているのだろうか。
「どんな手を使って赤木と仲良くなってるの?」
「……赤木君とは別に仲良くは」
「じゃあ何で一緒にお昼ご飯食べてるのよ、私だって食べてないのに!」
「……じゃあ吉田さんも一緒に食べる?」
「―――はあ!? 何言ってるの? そんなの無理無理、恥ずかしいじゃない」
「……でも、勇気を出せば、上手くいくかもしれない」
「なら、アンタが誘いなさいよ、私は待ってるから」
「えっ……それは、ちょっと」
「なによ! そっちが提案したんでしょ!」
うーん、そうかそうか。
嫉妬ってやつかな?
薄々気づいてたけど吉田ってやっぱり赤木のこと好きなんだな。
赤木は人気がある。
男女共にだ。
当然モテるし、吉田もその一人だ。
別にそんなに遠巻きに見なくても吉田なら普通にいけると思うんだけど、どうやら意外と初心らしく、好きな相手には積極的にはいけないらしい。
可愛いところあるじゃん。
まあ俺がそれを知ったところでどうしようもないが。
来栖さんに援護を求めるかあ。
それはちょっと無謀というか、無理無茶というか。
ただえさえ彼女は自分のことで手一杯なのだ。
赤木ともまともに喋れていないのに、その上吉田も付いてくる?
というか俺はその空間にいなきゃいけないの結構辛いんだが?
俺の存在忘れてない?
「とにかく! アンタが誘うまで待ってるから。早めに誘ってよね」
「……うん」
やべ、こっちに吉田達が向かってくる。
というか取り巻きいる必要あった?
めっちゃ圧がかかるだけでむしろ逆効果だったと思うけど。
そんなことより、この場を去らなければ。
俺は身を屈め、見つからないようにその場から消えようとした。
「あ」
「あ」
俺の高身長が仇となった。
ドアの窓越しに吉田と目が合う。
「アハハ……」
「―――っ! あんた聞いてたでしょ!」
走ってこっちに駆け寄ってくる吉田から逃げるように俺はその場から駆け出した。
やべえ、どうして軽率なことをしてしまったのか。
いや俺はちょっと来栖さんが心配だっただけで、決して人の恋路を知ろうとしたわけではなないんだよ?
誰にでもなく言い訳をしながら、なかなかの速度でダッシュをして教室へと戻ってきた。
俺が急いで教室に入り、椅子に座ると鈴木が話しかけてくる。
「長かったな、うんこか? なんで汗かいてんだよ」
「ああ、ちょっとな。出が悪くて」
「汗かくほどか?」
「ちょっと腹痛くて」
正確には胃が痛い。
知らなくてもいいことを知ってしまった。
ルーイのこともそうだけど、俺は何かやってしまったのだろうか。
いいことも悪いことも起きすぎな気がする。
俺はただ平穏に暮らしたいだけなのに。
しばらく後に吉田達が教室に帰ってきた。
俺を一瞥すると、めっちゃ睨んできた。
『しゃべったら殺す』
そう言葉にせずとも伝わってきた。
はい、不肖田臥、黙秘させていただきます。
さらに後に来栖さんが入ってきた。
少し落ち込んだような感じだ。
まあ慣れないことをしろって言うんだからな。
うーん、しょうがないか。
本当に、本当はしたくないけど、俺がいくか。
目立ちたくは、ないんだけどなあ。
ボケ―っとしながら授業を聞いていると、授業の終わりを告げるチャイムがなる。
すなわちお昼だ。
今日は赤木は……来ないか。
俺はすこしほっとした。
赤木が来ないなら誘う必要はないからな。
俺が安心していると、ふらふらと吉田に近づいていく来栖さんの姿が見えた。
ま、まさか。
待つんだ! 今日はいいんだ。赤木はいない。無理に誘わないで!
「……あの吉田さん、お昼ご飯一緒に食べ……ませんか?」
吉田が何言ってんだこいつって顔してる。
違うでしょ! 赤木がいるときに誘いなさいって意味だよ!
ほら吉田が来栖さんの肩を掴んで耳元で何か言っている。
多分赤木がいるときに誘えってもう一度言ってるんだろうな。
来栖さん、がはっとして驚いている。
それがどういう意味なのか、ちゃんと理解してる?
赤木君と仲良くなりたいから誘ってねって意味だよ?
それを理解したのか来栖さんが親指を立ててむふーとした顔をした。
意外と表情豊かなんだよな、全然顔笑ってないけど。
「折角だけど、また今度誘ってくれる?」
吉田がそう断ると、来栖さんも「分かった」と言って下がっていた。
そして当然のように俺の席に近づいて弁当を開く。
もうそこ指定席だね。
俺も慣れてきたので黙々とお弁当を食べた。
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