挨拶
「どうしよう……学級委員になっちゃった……」
うん、ルーイちゃん、身バレするようなことは簡単にしゃべらないようにね。
聞いてるのが俺だけだから問題ないけど、そのうちこの子ポロってしゃべっちゃいそうで怖い。
ていうかVtuberやってんだからせめて設定守ってくれ。
・《モブ》狐人の学校ってどんなところ?
「……はっ!え~とね、獣人がいっぱいいる学校? かな? 皆をまとめるの大変なんだよ~」
そうだね、学校も多種多様な人間がいるってことを考えると一種の多民族国家だね。
まあ今どき設定なんて合ってないようなものだから、強要はしないよ。
でも身バレだけは気を付けてね、ホントに、すでにバレてるし。
・《モブ》身バレは気を付けてね~
「うん、気を付けてる。でもいるのモブくんだけだし、大丈夫かなって」
ドキン!
そんな、俺を一人の人間として認識してくれるなんて。
は、恥ずかしい。
顔が熱くなるよ、本当に。
視聴者は相変わらず1、でもいいんだ、俺とルーイがいるから。
「それじゃあゲーム再開するね」
頑張れ~、最近のルーイはそこそこしゃべり慣れてきたと思ってる。
初めて配信をした時のように無言の時間はあるけど、少しずつ、ほんの少しだけどしゃべることに苦手意識がなくなってきたように思える。
これが現実でも反映されればいいんだろうけどなあ。
でも俺だけが知っている来栖さんの顔を皆に知られるのもなあ。
悩ましい。
このままの関係を続けていくのか、もっと人気者になるようにしていくのか。
ま、俺程度のモブにそんな大それたことは出来ないから、精々何かのお手伝いが出来たらいいなって感じ。
次の日、朝登校していると、下駄箱で来栖さんとばったり出会った。
「お、おはよう!来栖さん」
「……おはよう、田臥君」
同じ学級委員として親睦を深めるチャンス!
しかも俺はルーイとは何回も話をしている。
コメントでだけど。
「今日もいい天気だね!」
「……そうね」
だから語彙!!
テンプレートしか返答できないのか俺は。
確かに良い日だけど、サクラが散り始めて肌寒い冬が消え去りそうだな。
そういえばいいじゃん?
さすがにそのままいうのはクサすぎる。
ていうか、よく考えれば俺が来栖さんと話すことすら慣れてないじゃん。
やっぱルーイとは違うよー助けてルーイ!
その後の大した会話も出来ず、教室へと着いてしまった。
「……それじゃあ」
うん、じゃあね、ばいばい。
来栖さんは自分の席に向かい座っていった。
またスマホ見始めた。
何見てるんだろう。
覗くのは失礼だから出来ないし、動画かな? 音楽かな?
イヤホンつけてるし、何か聞いていることには違いない。
自分の配信見直していたりね、ハハそんなわけないか。
「おはよう!見てたぞ~来栖さんと一緒に教室まで来てたじゃん、仲良くなった?」
「全然、気の利いた会話の一つもできなかったよ、仲? 良くなったら奇跡だよ」
俺に配信を勧めてくれた鈴木が声を掛けてきた。
お前のおかげで今の俺はこれでも余裕をもって対応できるんだぞ。
ルーイの事を知らなかったら、まじで高嶺の花すぎてしゃべろうなんて少しも思わなかったわ。
ありがとう鈴木
そんな朝のHR、先生から来週にある健康診断の話が出た。
そういやまだだったな。
俺は去年は180㎝の65キロ、ひょろひょろのがりがりだ。
未だに身長は伸びているので、体重は分からないけど身長はまだ伸びそうだ。
この時期になると露骨に女の子たちは断食を始める。
今更一週間やそこら変えたところで体重は変わらないというのに。
ありのままを受け入れよ。
それが
来栖さんを見ると、とても絶望してる顔をしている。
何か困ることあるのかな? 意外と出不精で体重があるとかかな?
制服のせいで胸が大きいと太ってるように見えるし、もしかしたら隠れ肥満なのかもしれない。
ちょっと失礼なことを考えながら、朝のHRを終えた。
次の授業が終わって、移動教室に行こうと席を立つ。
その前の黒板を見ると、来栖さんが必死に前の授業の文字を消そうとしていた。
まだこの高校では黒板にチョークの普通の学校だ。
最近ではホワイトボードやデジタルディスプレイを導入している学校もあるようだが、うちの学校にはない。
日直は誰だ?陸川か、この学校には珍しく、不良だ。
別に暴れたりするわけではないが、金髪ピアスで風紀を乱し、宿題もやってこないし今日みたいに日直の仕事もさぼったりする。
しかたないな、俺は黒板消しを持って来栖さんの手の届かない上の方を消してあげる。
「あ、ありがとう……」
「いやいや、来栖さんも困ってたら頼ってよ、同じ学級委員だろ?」
だろ? だって。
ちょっとカッコつけちゃったじゃん。
来栖さんの背が低くてよかった。
とても顔なんか見れない。
なに俺はルーイに向かってしゃべる感じで話しちゃったんだ。
反省反省。
あくまで俺は
俺はさっさと黒板を消すと、「じゃあね」って言ってその場をそそくさと去った。
「……ありがと」
小さいけど微かに聞こえた彼女の声に、ドキドキした。
やっぱ可愛い!
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