クラスではクールで通っている彼女が底辺Vtuberをやっているのをモブだけが知っている

蜂谷

モブとは

 突然だが、俺はいわゆるモブである。


 ゲームとかそういう比喩じゃなくて、人生という世界におけるなかでもモブだ。


 だからと言って、別にボッチじゃないし、かといってスクールカースト上位に入るような人間でもない。


 あだ名もそのまんまモブ まあこれは田臥茂枝たぶせもえの由来から来ているので、現実でモブとして虐められているわけではない。


 それに今の生活も気に入っている。


 学校に行って勉強して、友人と他愛無い会話をして、帰ってはゲームをしたり、配信を見ながら勉強をする。


 部活は当然帰宅部。


 サッカー部や野球部、バスケ部といった陽キャの集まる集団には恐れ多くも手を出すことはできない。

 そもそも俺は運動神経がよくない、体そこそこ動かせるのだが、球技のようにそれプラスの要素を足されると途端にポンコツになる。


 なので陸上部に誘われたこともあったが、辛そうな練習を見て、とても無理だなと断った。




▲▽▲▽





 話は変わるけど、うちの学校には何人か女帝と呼ばれる人気のある女の子がいる。


 うちのクラスにいる来栖瑠衣くるするいもその一人だ。


 彼女は物静かで、声を聞くことすら余りない。

 

 授業で先生に差されても、板書して終わらせるくらい徹底している。


 髪は吸い込まれるような黒で染まり、なにでトリートメントしているのか俺には到底想像出来ないほど綺麗だ。


 一度彼女をじっくり見た時があって、まつ毛なげーなーとか、唇プルプルじゃんとか、意外と胸あるな、なんてしてたら、目が合ってすごく睨まれたのを覚えている。


 怖かった。


 でもやっぱ女帝達と呼ばれるほど彼女は美しかった。


 皆も近寄りがたいのか彼女は一人でいることが多い。


 昼食の時間になっても、一人で弁当を食べている。


 俺はいつもの面子でワイワイしながら楽しくやっている。


 来栖さんも本当は皆の輪に入りたいのかな?


 俺がそんな気遣いをしても、どうせ無駄だなと思い、馬鹿騒ぎに戻っていった。




▲▽▲▽



「今日は進路希望の回収の最終日だぞ~。忘れずに出せよ」


 担任の先生が一週間前に渡した紙に進路希望を書いて出すように言ってくる。


 俺? 俺はもうとっくに出した。


 地元の大学、自分の成績でちょうど入れるような大学だ。


 特に目標とかはないし、家から出て一人暮らしするのもなあって思ってる。


 そりゃ憧れがないとは言わないけど。


 だから第二志望には都内の大学を希望しておいた。


 俺だってそういう希望を持ったっていいじゃん。モブだって生きてるんだぞ。


「よし、連絡事項は以上だ、皆気をつけて帰れよ」


 先生の言葉に軽くはーいと答える。

 皆も反応しているあたり中々先生との仲はよかったりする。


 雰囲気の明るいクラスだな。


 あ、来栖さんも珍しく何か言ってそう。


 何にも聞こえなかったけど、パクパク口を動かしてた。カワヨ


 下校はいつものメンバーで、と思ったところで、教室に忘れ物をしていたのを思い出した。

 今日体育で使った体操服を持っていない。


 明日でもいいが、臭いの残しておくのいやだなあ。


 俺は「ちょっと待ってて」と友人たちに言い、自分の教室へと向かった。


 夕日が赤く、窓に明かりがさす夕刻、教室に入ると、一人だけぽつんと座っている人がいた。


 来栖さんだ。


 珍しいな? 読書かな?


 俺は気になりながらも自分の体操服を取りに席に向かう。


 ガタッと俺の足が誰かの机にひっかかり、来栖さんに俺のことを気付かれしまう。


 突然の俺の登場に驚いたのか、来栖さんが驚いてこちらを見ている。


 目が合う。


 うっ、きまずい。


 沈黙が場を支配する。


「はは、ちょっと忘れものしちゃって。来栖さんは何してるの?」


 返事はないだろう。彼女が人と話すところを見たことがない。


「……進路希望を書こうと思って」


 しゃべった!! てか声綺麗だな。


 顔もよくて声もよくて、性格も、いいんだろうな。


 成績もいいし、天は二物を与えるんだなこれが。


 折角の会話に少し下心を出しつつ、会話を続けようとする。


「へえ~、俺は地元のT大学にしたけど、第二志望はK大学にしたよ。都会に出てみたくってさ」


 半分嘘である。

 別に都会に出てみたいわけでもない。

 一人暮らしはちょっと憧れるくらいだ。


 それに学力を相当あげなければ上にはいけない。


「そう……」


 んっ、短い!!

 さすがに話題が普通すぎたか?

 でもまあモブにしちゃあラッキーだろ。

 なんたって女帝とお話出来たんだからな。


「貴方は、苦手だけど自分のやりたい事と、好きじゃないけど出来る事、どっちを優先する?」


 急に来栖さんが哲学的な話をしてきた。

 哲学か? 違う気もするけど。


 難しい質問だね、俺には得意も苦手もない。

 運動は球技が苦手だけど別にやりたいことでもない。

 好きじゃないけど出来る事、なんだろう。


 とにかく来栖さんはその二択で進路を迷っているのだろう。


 こういう時は自信をもっていくべきだ! とどっかで見た気がする。


「俺は、苦手だけどやりたい事かな。好きでもないことなんて、結局長く続かない、俺達はまだまだ若い、長い人生何が苦手なのかなんてわからないだろう?」


 ちょっといい感じに言ってみたけどどうかな?

 興味湧く?


「そう……ありがとう」


 うーん塩対応。

 まあそうだよね、モブの意見なんてthe普通だから。


「参考に、してみるね」


「役に立ったならよかった」


 そうこうしているうちに時間が経っていた。

 まだ友人を下で待たせている。

 俺は急いでその場を去ろうとした。


「それじゃあ、またね」


 コクリと頷いた来栖くるすさんを見送り、下駄箱で待っているであろう友人達の元へ向かう。


 何故だか胸がどきどきするのを感じた。


 女子と話すの緊張するな―!

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