罰ゲームで学園一のクール美少女に告白したら、なぜかOK貰えました。
@smallwolf
第1話『罰ゲーム告白』
「好きです。俺と付き合ってください」
告白。
それは自分の『好き』という想いを相手に伝える行為。
相手に『ごめんなさい』と振られるかもしれない。
自分の想いが儚く散ってしまうかもしれない。
そんな想いを抱きながらも決死の覚悟で挑むものが告白。
今にも心臓がドキドキで壊れてしまいそうだとか。
そういうのが告白なんだと俺は思う。
だというのに。
俺は同じクラスの『クールで大人な魅力がある』と評判の
理由は分かっている。
とても……とてもくだらない理由だ。
俺が高橋さんに告白しているというのに、全くドキドキしていない訳。
それは、これが罰ゲームの告白だからだ。
俺は別に高橋さんの事が好きじゃない。
だからといって嫌いでもない。
普通だ。
彼女にとっての俺もそんな感じだろう。
なにせ、今まで話したこともないんだから。
ゆえに、この告白の結果は既に決まっている。
俺は彼女に振られるだろう。
そうして俺たちは今まで通りの『同じクラスに所属しているというだけの異性』という関係に戻る。
だからこそ、俺は彼女の『ごめんなさい』という告白の返事を待つだけで良くて。
「ちょっと失礼するわね」
「……はい?」
言うなり高橋さんが俺へと近づいてくる。
そうして間近まで迫った彼女はいきなり俺の前髪をその手で上げた。
「高橋さ――」
「黙って」
いきなり俺へと触れてくる高橋さん。
というか、なんでいきなり前髪を上げた?
俺はいつもあまり目立たないよう前髪で自分の目を隠すようにしているのだが、それが
まぁ、どうでもいいか。
間近で見る高橋さんは落ち着いた感じで綺麗な人だなと思ったが、ただそれだけ。
彼女のこの行動の意味については分かりかねるが、俺と高橋さんの関係はこれっきりだろう。
俺は改めて彼女の『ごめんなさい』という告白の返事を待ち。
「いいわよ。付き合いましょう、私たち」
「………………はい?」
だからこそ、俺は驚いた。
絶対に帰ってくるはずのないOKという返事が彼女の口から飛び出してきたから。
★ ★ ★
高橋雪菜。
彼女は俺と同じ
成績は学年で毎回トップ。
そのうえ容姿も優れているという、誰もが認める高スペック女子だ。
深い藍色の瞳と、長く綺麗な栗色の髪が特徴的な少女。
いつも教室の窓辺の席で何かしらの本を読んでおり、その姿が神秘的だからと他のクラスから見物客が来るくらい人気の彼女。
そんな彼女が今、なぜか俺の隣を歩いている。
なぜかって?
それがなんと彼女、俺の彼女さんになったらしいんですよね。
何を言ってるのか分からないって?
大丈夫!
なにせ俺もいまだになんでこうなったのかよく分かってないからなっ!
「………………」
会話はない。
学校の誰も居ない教室。そこで俺は彼女に罰ゲームで告白をして。
それで「付き合いましょう」というあり得ない返事をもらって。
「それじゃあ帰りましょうか水野君。それともこれからデートでもする?」
「え。あ、いや……」
「ああ、ごめんなさい。デートはいきなり過ぎたわね。それじゃあ普通に帰りましょうか」
という会話を最後に俺達の会話は途切れた。
気まずいとは感じていない。
ただ、こうして一緒に同じ道を歩いている今も不思議だった。
彼女はなぜ俺の告白を受け入れたのだろうか? と。
少なくとも客観的に見て俺と高橋さんは釣り合っていない。
片方は学園で人気のクール美少女。容姿と内面のスペックは最高峰のもの。
もう片方は特に学園で目立ってもいない標準スペックの男子高校生だ。
俺と彼女との間で以前から交流があったとかであればまだ分かる。
既に何度か話していて仲良くなっていたとか。
そういうエピソードがあれば釣り合っていないなど関係なく交際するという事もあるだろう。
だが、俺と高橋さんは今まで話したことすらなかったはず。
交流なんて皆無だ。
だからこそ分からない。
彼女がどうして俺の告白を受け入れたのか。
そう疑問には思っていても、しかしその疑問を口に出すのは少しためらわれる。
なにせ告白したのは俺自身なんだからな。
その俺が「どうして俺の告白を受け入れたんだ?」と聞くのは高橋さんに対して失礼じゃないかと思ってしまうのだ。
だって、それを聞くという事は相手の俺に対する好意を疑っているって事だし。
いや、実際に疑っているんだけどね?
ともかく、そんな失礼な事、俺には出来ない。
そんな事したら
だから――
「高橋さんの家もこっちの方なのか?」
俺は自分の中の疑問を押し込めて。
彼氏として彼女に接することにした。
「ええ、そうよ。奇遇ね」
「そうだな。なんだか運命的な物を感じるよ」
「そうね」
そう言って静かに同意してくれる高橋さん。
正直、そうやって頷いてくれるとは思わなかった。
いきなり運命なんてものを持ち出して。
自分でも少し臭かったなと思っていたから。
「しかし嬉しいな。高橋さんとは今まで話したことがなかったから。告白しても普通に振られるんじゃないかと不安だったんだ」
嘘だった。
告白を受け入れてもらったのは事実だけど。
それで俺は嬉しいなんて全然思っていなかった。
そもそもの話、告白しても振られるだろうと確信していたからな。
そういう意味では不安すら感じていなかった。
「私も。水野君に告白されるだなんて思ってもいなかったから驚いたわ。人生で一番驚いた瞬間ね」
真顔で淡々と語る高橋さん。
本当だろうか?
それとも俺と同じように嘘?
少なくとも俺の目から見て高橋さんは驚いているようには全然見えなかった。
そう内心疑っていると。
「ねぇ水野君。手を繋ぎましょう」
いきなりそんな提案を高橋さんは口にした。
「手?」
「私たちは恋人同士でしょう? ならば手を繋ぐのが自然な流れじゃないかしら?」
そう言って手をこちらに向かって差し出す高橋さん。
とても小さな手。触れたら壊れてしまいそうなくらい小さくて白い手だった。
「それは……。そう……だな。繋ごうか」
一瞬、あの人の顔が脳裏に浮かぶ。
俺の大事な人。
瑠姫姉の顔が。
だけど。
『いい、拓哉。女の子に恥かかすんじゃないわよ? 男の子たるもの、常に紳士で居なさい』
他ならないその瑠姫姉に教えられた事。
俺はそれを忠実に守ってしまう。
だから俺は高橋さんに恥をかかせないようにと、彼女と手を繋いだ。
初めて触れた高橋さんの手。
とても冷たかった。
「水野君の手は暖かいわね」
「高橋さんの手は冷たいな」
「そうよ。私は体も心もクールで冷たいの」
少し返答に困る。
そんなことないよと言う程、俺は彼女について知らないし。
「そういうクールな所が高橋さんの魅力なんだと思うぞ」
それでも俺はそんな風に彼女を
実際、高橋さんはそのクールで大人っぽい所が魅力と誰かが言っていたからな。
間違いではないだろう。
「そうなのかしら? 自分じゃ分からないわ」
「実際、高橋さんは『クール美少女』って感じで男子に人気だし。俺とは別の男子に告白される事もあったんじゃないか?」
「そうね。何度か告白されたわ」
やっぱりか。
別に驚く事でもなんでもない。
客観的に見てそれくらい彼女は魅力的なんだ。
「全部『興味ないわ』って断ったけどね」
「へぇ……」
そうあいづちを打ちながら俺は考える。
興味がないから高橋さんは今まで男子の告白を断っていたと言う。
それはつまり、逆を言えば俺の告白については興味があったから受け入れてくれたという事なのか?
その後も他愛のない会話を俺と高橋さんは続けた。
そのまま俺は家路を辿って……遂に自分の家の前まで辿り着いてしまった。
隣には今も高橋さんの姿。
帰る方向が同じだからと俺は彼女と一緒に下校した訳だが、家の前に着いた今も彼女は俺の手を放す様子はない。
「ここが水野君の家?」
「あ、ああ。そうだけど……」
「そう。それじゃあここまでね」
そう言って。
彼女は俺の手を放し。
「それじゃあ水野君。明日から宜しくね」
「お、おう。こちらこそよろしく」
最後にそう言って。
高橋さんは俺達が来た道をそのまま折り返してどこかに行ってしまった――
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