第22話 意外な反応
────やっちまった……。
つい怒りに任せてこの国の王子をぶん殴ってしまった。
そしてその勢いのまま、無理やり王子の頭を下げさせたのだ。
────これは家門断絶の危機……?
冷静になってみれば、如何に自分がとんでもないことをやらかしたのか……さすがの私も理解出来た。
きっと王族に手をあげた罪で極刑は免れないだろう。
ちなみにバカ王子は慌てた護衛に連れられて退場して行った。護衛も黙って見てないで王子を止めてくれよ、と思ったけれど、やっちまったもんは仕方がない。
そして王子が退場してからそのままお茶会は終了・解散かと思っていたけど、何故か全員がテラスの席に戻って来ている。
「「「「「「………………………………」」」」」」
しかし誰一人として喋らない。
やはり先ほどの暴走は子供達の心に深い傷跡を残したのかもしれない。
このまま沈黙し続けても仕方がない。とりあえずお茶会の雰囲気をぶち壊したのは私なのだ。それに王子に謝罪させた手前、私本人もけじめとして皆んなに謝罪せねばならない。
「……えっと、さっきは驚かせてしまって申し訳ありませんでした。でも私は後悔していません。もう皆さんとは会えないかもしれませんが──」
「──俺、感動した」
「──へ?」
私の罪が問われ、大罪人となればもうこうして皆んなとは会えないだろう。だからお茶会を台無しにした謝罪をし、別れの挨拶をしようとした私の言葉は、クロヴィスの呟きで止まってしまう。
「ミシュリーヌはすごいんだな!! こんなちっさい体でリュシアンをやっつけるなんて!! あの重心が乗ったゲンコツパンチにはシビれたぜ!! さすがは竜殺しの娘だ!!」
「……僕も驚いたよ。まさか王子の護身用守護結界をああも簡単に破壊するなんて、宮廷魔術師も腰を抜かすんじゃないかな」
「ボクは天啓を授かったような気分だよ!! ミシュリーヌ嬢のゲンコツに神の雷を幻視したね!! まさに正義の鉄槌だよ!!」
「私も胸がすく思いです。ミシュリーヌ嬢のお言葉に感銘を受けました。いくら王族とは言え、ベアトリスが大切に育てたバラを……っ! こんな暴挙は許されません!」
──きっと私の暴走に皆んなドン引きして、二度と関わりたくないだろうと思っていたのに、返って来た言葉は正反対のもので。
「あ、あの……っ、わたくしもミシュリーヌ様が怒ってくださってとても嬉しかったですわっ! 目の前でバラをちぎられてとてもショックで……! でも何も出来ないわたくしの代わりにミシュリーヌ様が……っ。わたくし、胸がとても熱くなりましたわ……!! こんな気持ち、初めてです……っ!!」
ベアトリス様が頬を染め、潤んだ瞳で私を褒め称える。こんなベアトリス様の表情を、ご尊顔を拝めるなんて本望だ。人生に悔いはない。
……ってホントに人生詰んでるんだけど。
しかし極刑になったとしても、私は最後まで堂々と胸を張っていようと思う。暴力は確かに良くなかったけれど、それでも私に後悔は一切ないのだから。
「皆さん、有難うございます……!」
私は心から皆んなに感謝した。この世界に転生して五年、この世界でも短命だったけど、最後に良い友達が出来て本当に幸せだったと思う。
「俺ももっと体を鍛えるぜ!! ミシュリーヌに負けていらんねぇ!!」
……いや、私は普通の幼女ですから。ライバル認定は勘弁してください。
「……守護結界の脆弱性がこんな形で顕になるなんて……まだまだ改良の余地があるね」
……そんな守護結界とか原作になかったんですけど……初耳なんですけど……。
「改めて神の威光をこの身に感じたよ! これは新たな聖女の降臨かもねっ!」
……え? この世界聖女とかいたの?! 私にとって聖女はベアトリス様一択ですけど?
「父上に今回の件について、問題点を提起してみます。王族にもそれ相応の罰が与えられるよう法改正を進めなければ」
……法改正て。なんだか話のスケールが大きくなって来たぞぅ?
「ミシュリーヌ様のために、わたくし頑張ってバラを育てますわっ! こ、子供のように愛情もたっぷり注ぎますわっ!!」
……ベアトリス様にたっぷり愛情を持って育てられるバラが心の底から羨ましい。また生まれ変われるなら、神様を脅してでもベアトリス様にお世話されるバラになりたい。
「えっと……まあ、ほどほどにね?」
中には不穏な言葉が混ざっていて、正直カンベンしてください、って思ったけど、めっちゃイキイキと、目を輝かせる子供たちのやる気を削ぐようなことを言うのは躊躇われた。
それにきっとこの子達なら、この国を正しい方向に導いてくれる──そう信じられるから。
帰宅の時間になり、楽しかったお茶会も終了となった。
「じゃあ、次は俺んちな!! 絶対来てくれよな!!」
皆んなは別れを惜しむように、次の約束を交わす。
クロヴィスのお屋敷に私はきっと行けないだろうけど、食べたいって言っていたドラゴンをモチーフとしたクッキーだけは、届けたいと思う。
「ミシュリーヌ様、また是非お越しくださいね。わたくし、もっともっとミシュリーヌ様と仲良くなりたいのです……っ!!」
私が馬車に乗ろうとした時、ベアトリス様が駆け寄って、私にぎゅっと抱きついた。
「……………………っ、ベアトリス様……っ!! わ、私も……っ!! 私ももっともっと、仲良くなりたいです……っ!!」
一瞬、昇天しそうになったけれど、私は気合いで抜けかけた魂を元に戻し、ベアトリス様の御神体を抱きしめ返す。
昇天しかけた時、ちらっと花園が見えたけど、私にとっての天国はベアトリス様の腕の中なのだ。そりゃ何としても蘇りますわ。
はたから見たら、美しい少女たちの深い友情を感じる感動シーンだと思う。だけど片方は今にも鼻血を噴き上げそうな、デレデレ顔の邪悪な幼女だ。
(ほわぁ〜〜〜〜っ!! な、なんじゃこりゃぁ〜〜〜〜っ!! めっちゃ細いのにすっごくやわらけぇ〜〜〜〜っ!! 美少女は骨格も綺麗なの?! しかもめちゃ甘い良い匂いぃ〜〜〜〜っ!! 体臭まで芳しいとか、やっぱり人間じゃないでしょ!! 天女なの?! 水密桃なの?! 禁断の果実はここにあったんや……!!)
もはや私の脳内は一杯一杯で、パソコンでいうところのCPUの処理が追いついていない状態だ。そもそもメモリが足りていないし、HDDの容量も少ないので、一刻も早く自分自身をアップグレードしなければならない。
じゃないとベアトリス様の動画が超高画質の8Kで、声がハイレゾで保存出来ないではないか。
いつまでもいつまでも、ずっとこのまま未来永劫、永久に抱き合っていたかったけど、無情な悪魔の御使である逆ハーカルテットが、私とベアトリス様を引き剥がしてしまう。
「お前らくっつきすぎ! ずるい!!」
「……一人だけ叡智を授かるつもり?」
「独り占めはダメだったら! 愛は平等に分けないと!」
「兄としても看過できませんね」
何故か逆ハーカルテットから非難轟轟だ。
だけど、私にとってこれがベアトリス様との最後の抱擁になるかもしれないのだ。
それなのに更に追い打ちを掛けるなんて、正に悪魔の所業だと思う。
皆んながベアトリス様を好きなのはよくわかった。だけどベアトリス様はオーレリアンと結ばれる運命。残念だけど、シャルル以外の逆ハートリオに望みはないのだ。
……世界はなんと美しく、残酷なのだろうか。
「その目なんかすっげーむかつく!」
「……哀れみの目で見るのはやめて欲しい」
「慈悲を施されている気分なんだけどっ!」
「ミシュリーヌ嬢、みんなをいじめないでください」
「い、いじめてませんからっ!! 私は皆んなに頑張って欲しいだけですからっ!!」
きっと皆んなの初恋は叶わないだろうけど、頑張って新しい恋を見つけて幸せになって欲しいと思うのは、紛れもない本心なのだ。
「ミシュリーヌ様の思考がちょっとズレているような気がしますけれど……。そんなところも素敵ですわっ!!」
「え? す、素敵っ?! わ、私が?! えへへ! すっごく嬉しいです!!」
ベアトリス様に褒められてデレデレの私を、今度は逆ハーカルテットが温かい目で見ている。
でもこんな時、嫉妬するのではなく、自身もベアトリス様に褒められるような人間になれば良いのに……全く困った子猫ちゃんたちである。
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