Q. 座敷牢の奥の好奇心は何を殺したか

板久咲絢芽

1. 前提条件の提示

――他所者よそものなんか、ただじゃ仲間に入れてやんねーぞ。

――ああそうだ、試練をクリアしたら入れてやる。

――俺んの蔵の地下から、なんか取って来るんだよ!



「い……た……」


あいつら、本気で蹴り落としやがった。

階段を後転を繰り返すように転がり落ちた先が、コンクリだったらとぞっとする。

幸い、少し意識を飛ばす羽目になったが、感触的には少し踏み固められた地面だったようだ。築何年だとか何代続くだとか知らないが、あのクソ野郎の家がこの蔵にロクに手を入れないままにしてくれてて助かった。

それでも痛いし、たぶん、頭のどこかを切ったと思う。

何も見えないが、ひたいから右目のあたりにかけてが濡れている。


「おや、気が付いた?」


闇の向こうから声がしてびっくりする。

まさか他にも、と思ったが、あいつらが言う他所者よそものは今のところ僕と僕の家族だけだ。


「ああ、人間は暗いと見えないんだっけね」


ちょっと待ってね、とその声の主はこっちの入れたいツッコミを封殺して、すぐに暗い中に灯りがともった。


「最初、驚いたよ。君、転がり落ちて来て、ぴくりとも動かないで血を流してるんだから。まさか、当代はこれ食うの? とも思ったけど、何も言われないし」

「……」

「おでこ切ったんだねえ。それは大変だ。何か血止めできるもの、あったかな」


がさがさと何やらあたりを探る音がする。

まばゆまだらあかりに慣れてきた目が真っ先に見たのは、空間をへだてる格子だった。

ゆらゆらとどこか揺らめくのは、どうやら光源が揺らぐ火であるからのようだ。つまり電気は通ってないと見ていいだろう。


「うーん、これでいいかな? こっちへおいで」


するりと格子の間から出て来たたおやかな白い手が、おいでおいでと手招きする。

うようにそちらへ近付くと、途中から床の感触が土から板のそれへと変わった。


「えいっ」


近寄ると、がっとすごい強さでひたいの、恐らく出血部分に何かが押し付けられた。

止血として間違ってはない、はずなのだが。


「ぎゃあ!」


痛い。というかこれは何、なんか肌触りがちょっとがさがさする、そりゃ痛い。というかそんなぎりぎり言いそうなほど押し付けないで。


「あれえ?」


おかしいなあ、と言わんばかりに眼の前の格子の向こう側で首をかしげて、手を引っ込めるのは、つややかな長い黒髪の、一言で言うなら美人だ。ただ、黒黒としたつぶらな目はその少し可笑おかしな挙動に反して、得体が知れないほど深かった。

服は、和装だ。もうすでに黄ばんでいる古い白い振り袖を引きるように着付けている。


「何か、間違った?」

「ええと、まず勢いが、手当のそれじゃないです……」


最近殴られ慣れてはいるけど、不意打ちで殴られたかと思った。


「あー……初めてだった、から?」

「あと、押し付けてきた紙みたいなの、何ですか? がさがさしてて、痛い」

「これね、もう読まない古い本のページ」

「ヤバい菌とかついてそうなんでやめてください。せめて、ティッシュとか……」


そこまで言って、こんなあからさまな座敷牢に、そんなもんある訳なさそうだ、とようやく思う。

ん、座敷牢? たぶん蹴落としたあいつもこれ知らないな?


「きん……あー、この本に書いてあったやつだね。見えない小さい生き物が、他の生き物の中で育って増えて、時には殺しちゃうやつ。すごいねえ」


そう言って示された本は、古い、けれどあくまで戦後レベルの文庫本だ。

よくよく見てみれば、思ったよりも広い座敷牢の中の古いたたみの上には和綴わとじから文庫まで、多くの本が無造作に散らばったり、積み重ねられたりしている。

寝起きできそうな布団のようなものはない。


「てぃっしゅ、は他の本にちらっと書いてあったなあ。ハンケチーフみたいなものなのかなって思ってたんだけど、どんなの?」

「あの……」

「なんだい?」

「ちょっと、その」


推測される情報量が多い。多過ぎる。

その上で、ここまでフレンドリーなひとなら。


「整理、させて、ください」

「……いいよー」


一瞬納得したようにうなずいて、にぱっと笑顔が返ってくる。


「あなたは、なんですか?」

「なんだろうねえ? わかんない!」


元気だけが大変よろしいお返事である。


「人、ではない?」

「たぶん? えーと、がここに入ってから……十八人は家のあるじ、変わってるよ」


さらっと言ってるけど、それってつまり十八世代はまたいでるってことかな。江戸時代の初め頃とかそれよりちょっと前、ぐらいか。


「ええと、人を、食べたことあるんですか?」

「あるよ? えーと、いち、にー、さん……いっぱい? 当代はそれが普通って言われたから」


雲行きが怪しいなあ。この家の過去。


「じゃあ、なんでこんなところに?」

「化け物が力のある人の家の地下に飼われるのは普通って言われたから」

「……他に、ここで何が普通って言われて、何をしてきましたか?」

「え? えーと、初めは、ああそう、白い着物の、ああこの服ね、白無垢しろむくって言うんだっけ、女? 女の子? が出されてね。その子そっくりになって、全部言う事聞くのが普通って言われて、で、そっくりになったららないから、その子を食べてー、後は言うこと聞いて、足を開いてー」

「察したのでストップで」

「えー、いいの? この後何代目か忘れたけど、あるじに身体だけ男になれって言われて似たようなことして、そのままなんだよねー」


チョロい。何このひと(人じゃない)チョロくてめっちゃ利用されてる。

そして、僕を文字通り蹴落としたあいつらはマジでこれを知らない。先祖のごうがあらゆる意味で深い事を知らない。


「本当はね、家のあるじ以外と話すのも普通じゃないって言われてるんだけどね?」


格子の横にちょこんと体育座りして、こちらを見ながら小首をかしげる動作にやたらぞくりとした。

乾く前の墨溜すみだまりのような目が、少しだけ細められて僕を見る。


「でも、家のあるじっていうのが最近来ないからさー、つまらなくって、つまらなくって。昔は頻繁に来てくれてたのに。あ、君がそうじゃないのは一目でわかるよ、君はあの血は引いてない。で、普通じゃないなら、今まで通り、君を食べるべきなんだろうけど、それを一言も言ってくれないし、最近は本もくれないし。ここでじっとして本読んでるのが普通って言ったのに、読み飽きちゃったし」


ぷう、と唇をとがらせるその様子は子供みたいだ。

あきれを隠しながらその顔を見ていると、すっとまた格子の間から腕が伸びてきて、形を確かめるように僕の顔の輪郭をなぞる。


「君、他にも何かに言いたいこと、ありそうだね?」

「……あなたは、利用された、だけですよ」


そう言うと、僕の右目がそのてのひらおおわれて、それから手が離れる。てのひらは真っ赤な僕の血で染まっていた。


「それねえ、最初の女の子の、死にぎわの言葉」

「……その後に、あなたが強要された行為が何か、知ってますか?」

「んふふ、最初は辻褄つじつま合わせてたんだろうねえ。でも、十代目あたりかな、そのあたりから、書物に頓着とんちゃくしなくなってね。だから、知ってるよ」


少し可笑おかしそうに笑って答える口振りは軽い。


「叶わない欲望を、みんなそろって似姿ので満たしてたんだ。でもそれが普通で、人間の好きなこと、なんだろ?」

「……僕の知る普通では、ないです」


その僕の言葉を聞いて、ふむ、と考え込むように濡れた手を口元に添える。

触れた部分のくちびるべにを塗ったように赤く染まった。


「……僕から見れば、何もかも普通でない、です」


もし、これがこの村で普通だったのだとしても、最近越してきたばかりの他所者よそものの僕には、これを普通じゃないと言い切る権利があるはずだ。

それなら、とまだらべにを塗ったようなくちびるが、弧を描いて言った。


「君は、に、普通を教えてくれる?」

「……わかりません」

「何故?」

「あなたが普通を求める理由がわからないから」


長い睫毛まつげふち取られた目がしばたかれる。


「だって、人は普通じゃないものを怖がって、普通なものは好きなんだろ?」

「……あなたは、人が好きなんですか?」

「うーん、嫌い、ではない、よ? ……触るとすべすべして生温かいところも、こうしてお喋りできるところも、本に書いてあることみたいな面白いことを考えつくところも、そうだね、好きなのかも。味も悪くないし」


そこで味の話を出されたくはなかったかな。


「ねえ」

「はい」

「外にはもっと本がある?」

「はい」

「外にはもっと人間がいる?」

「はい」

「外には、他にみたいな化け物はいるかな?」

「それは、わかりません」

「正直だね」

「下手な嘘ついてバレて怒られるのは嫌ですから」


というか、このひと(人じゃない)の戦闘力とかわかんないけど、さっき殴られたと思ったしな、素の力は人間よりあると考えていいんじゃないかな。


「ふふふ、いいなあ、好きだな、それ。あ、君は、おいしいのかもしれないね?」


まだらに染まったくちびるを舌なめずりして、それから僕の血に濡れた手も、本当に美味しそうにめる。

もしや僕、死ぬのでは?


「うん、おいしい」

「……僕、食べられます?」

「んーん、食べないよ」


からかわれているのだろうか。いや、からかうだけの能力がこのひと(人じゃない)にあるのかは謎。チョロいし。


「そういえば、君はどうしてここに来たんだい? 状況と話しぶりを考えたら、放り込まれたんだろ?」

「まあ、文字通り、蹴落とされたんですが……僕、この村の外から、引っ越して来たんです」


ふんふん、と相槌あいづちを打ってくれる姿に少しだけほっとした。家族以外がちゃんと話を聞いてくれたのが久し振り過ぎる。


「父親の仕事の都合で、丁度近かったのが、この村で……だけど、いざ引っ越してきてみたら、家や車に嫌がらせされるし、中学校だって、みんな、僕のこと他所者よそものって言って、事あるごとに、殴られたり、蹴られたり……今日のこれも、その一環です」

「なるほど、の事知らない子供が君を放り込んだのか……殴られたり蹴られたりって人間はとっても痛いんだろ?」


まるで自分にとっては大した事ないというような物言いだ。実際そうなのかもしれない。


「……痛い、です」

可愛かわいそうに。そうして他所者よそものいじめるのは、普通じゃないんだろ?」

「……普通では、ないですね」

「やっぱり、君に当代の普通を教えてほしいな」


すい、と格子越しに顔を寄せられる。

黒い底のしれない井戸のような目が、その奥に好奇心をたたえて、僕を見ている。


「君の普通の方が、少なくとも当代では本当だろう?」

「まあ、それは、たぶん……」


格子の間から、またするりと手が伸ばされる。

一本、二本、三本――


「……腕、増えるんですね」

「あ、できるかぎり人間の姿でいよーってしてたから忘れてたんだけど、君が欲しいなって思ったら増えちゃった」


あは、と笑われるが、笑い事ではない重要事項だと思う。

そして顔だけでなくて、肩とかまでつかまれてる。いや、確保されてないかな、これ。そして関節無視して、軟体動物みたいになってる腕もあるんですが。


「それなら、この格子抜けるのも楽なのでは?」

「むしろ楽に壊せると思うよ?」


確定したな。このひと(人じゃない)、人間よりもパワーある。


「ね」

「はい」

を連れて逃げなよ」


提案の形をしているけど、こうして、何本もの腕に確保されて、身動きが取れない、ましてこのまま外に出れば、また殴る蹴るが待っている僕には、実質おどしにも近い。


「あなたを連れて行ったら、どうしてくれますか?」

「そうだねえ。彼らのをお返しするよ」


ロクな事にならないんだろうな、というのは予想がついた。それこそ、命の保証もないだろう。

だけど――


「それは、いいですね」


僕だって人間だ。理不尽な事をされれば、怒るし、恨む。

いびつに口の端が持ち上がるのを他人事のように感じた。


「あれ、これって普通?」

「いえ、普通ではないです。でも、誰だって、憎い相手の不幸は喜ばしく思ってしまう。普通の、考えなだけです」


僕は聖人君子ではない。だから、この村に対して、怒っているし、恨んでいるし、憎んでいる。

母さんの顔を日に日にかげるようにした、父さんが日に日に口をかなくなるようにした、この村は――大っ嫌いだ。


気がつけば、ぱきん、という音の後に、ごとん、という音がして、格子についていた戸板が綺麗にはずれて倒れた。


蝶番ちょうつがいを壊せば、戸は簡単にはずれるからね」


するりと僕を拘束していた腕が離れていく。

最後に、さらりと頬をでられた。

初めて立ち上がったそのひとの背は僕よりも高くて、身体が男だというのは本当なのだろう。

さりさりと古い畳を踏みしめて歩く音を立てながら、格子の向こう側からこちら側に出てくると、立ち尽くす僕の頭を、止まりかけてるひたいの血が付くのもいとわずにさらりとでた。


が戻ってくるまで、ここで、このまま待っておいでね」

「あの、僕の母さんと、父さんは」


火を見るよりも明らかに、流血沙汰になることが確定しているのだ。そこに巻き込まれないかだけが、心配だ。


「大丈夫、わかるよ。さっき血をめたもの。だから、安心して待っておいでね」


冥冥めいめいとした目を細めて、優雅と呼ぶには血なまぐさい笑顔でそう言って、そのひとは僕が転げ落ちた階段に足をかけると、その服装にもかかわらず、素早く駆け上がって行ってしまった。



――緊急ニュースです。

――〇〇県✕✕村で、大量殺人事件が発生しました。

――警察は――



「戻ったよ」

「……おかえりなさい」


ひどい匂いにむせそうになるのを我慢しながら、そう返した。

にこやかな顔にはまったく返り血はないが、黄ばんでいた白い着物は、特に袖が、真っ赤に染まっていた。


「いやー、当代のあるじになんでお前が外に出てるんだって言われちゃった。そもそもどうしてがここにいたかちゃんと伝わってなかったみたいだし。としてもなーんだまだ生きてたんだー、たまには顔出してよーだったし」


その真っ赤な指先に肉のかたまりのようなものがこびりついているのに気付いた。

素手でこのひとは何をして来たんだ。


「つかぬことをうかがいますが」

「なんだい?」

「その手で、何をどう……?」

「顔をぐっとつかむでしょ? ぎゅっとするでしょ? ぶしゃってなるでしょ?」


実演して見せるように、がっと手を前に出して、そのままぐっと強くにぎりしめる。

まるでトマトをつぶしたかのような言い草だ。トマト(比喩)だなこれ。


「ふふふ、面白かったよ。あ、君をいじめてた子達はねー、ちびってたね……よく考えると君の方が度胸あるよね、ほんと」

清水きよみずの舞台から放り投げられたみたいなところあるので……」

「腹をくくるしかなかったと」


まあそういう事である。でも、ひたいの止血事件の衝撃で諸々もろもろ吹っ飛んで、こいつ思ったより馬鹿かなと思ってしまったのもあります。


「ところで、なんですけど」

「なんだい?」

「あなた、名前とかってあるんですか」

「呼び名は……コレだったよー」

「指示代名詞かあ……」


呼び名が困るなあ。あとは――


「あの、性自認、とかは」

「せい、じにん……?」

「あなたとしては自分自身は男なんですか、女なんですか?」

「わかんない!」

「本当にそこ、元気良いですね……」


何故、こうも無駄に元気がいいのかは謎である。


「……外は、阿鼻叫喚ですかね」

「そうだねえ、この格好だと一発でお縄かな?」


まあ、そんな猟奇ホラーまっしぐらな格好なら、少なくとも職質ルート一本でしょうね。


「うーん。正直、猫とかだと、家族に説明して連れ込みやすいんですけど」

「そしたら、着物脱ぐの手伝ってくれる?」


帯ほどいて、と背中を向けられて、確認しながらしゅるしゅると帯をほどく。古いものだが、たぶん良いものだ。

この家の先祖の業の深さに、花嫁さらいもあるんじゃなかろうかと思う。

とりあえず帯をほどいてやると、後は手慣れた様子で帯留やら帯揚おびあげやら、腰紐やらを投げ捨て、前をくつろげたかと思うと、溶け落ちるように崩れて、ばさりとその場に血濡れた着物が落ち、その下から四足歩行の獣が姿を現してこちらを振り向いた。


「……」

「どう? かわいいでしょ」


ああ、しゃべれるんだあ。あとその黒くて深いブラックホールみたいな目は変わらないんですね。

僕はその前にしゃがみこんで、言葉を失った理由を告げる。


「それ、猫じゃなくて、犬ですね」


どうみても見事な黒柴です、ありがとうございます。


「ね、ネコもくだから広義のネコ……」

「食肉目の別名ですね」


大枠過ぎる。というか、どういう本を読み漁ったのか。

僕はよいしょ、と黒柴を抱きかかえる。


「出る? 外、だいぶ血まみれだけど」

「でも、出ないわけにもいかないでしょう」


なんだろう。こうして抱き上げると、なんか、違和感がある。

ぶよぶよし過ぎというか、生ぬるいというか、意外と重いというか、水っぽいというか。これほんとに筋肉で動いてる?


「それはそうなんだけどさ」

「……すみません、意外と重いので、人の形になってもらっていいですか?」

「重かったかー。いいけど、どういう人がいい?」


正直それは僕としては、どうでもいいんだよな。


「どうでもいいです。一応、あいつらが変なことしてなければ、たぶん入り口横に僕のかばんあるんで、同じぐらいの体型になってくれれば体操服貸せますけど」

「ああ、あれ君のかばんか。本当にどうでもいいのかい?」

「はい。僕はあなたに強制する気はありません。今は他者に何かを強制することは、よっぽどのことでなければない世の中なので」


今までの反応から、普通を盾にすれば、言うことは聞いてくれると踏んで、そう言うと、黒柴は右前足を口元に持って来て首をかしげた。悩んでいるらしい。


「とりあえず、僕は一旦荷物取りに上に上がります。流石さすがに出てすぐは大丈夫だと信じてますからね」


そう言って階段を登って、開け放されたままの扉からそっと顔の上半分だけ出してみた。

新鮮な空気を吸って、鼻がすっかり血腥ちなまぐささとほこりっぽさの混ざった空気に慣れて麻痺していた事実に少しげんなりする。

正味、十四の子供が慣れてはいけないものだろ。


すぐそばに落ちてたかばんを引っつかんで、取って返して、ほこりっぽさと血腥ちなまぐささにき込んだ。

その背中をでる手があった。


「大丈夫?」

「げほっ、あれ、ごほっ、元の……? げふっ」


背丈は僕と同じで髪も肩口で切りそろえられている。

けれど、顔の造作は最初に見た時と一緒だった。


「やっぱり長年コレだったから、馴染んじゃって」

「げほっ……そういうものなんですね」


かばんから体操服の上下を取り出す。大量の足跡で汚れているし、下着もないけど、全裸よりは絶対マシ。


「よごれて、げほっ、ますけど、どうぞ」

「……これ、どう着るの?」


そこからかあ。まあそこからだなあ。

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