第23話

 魔物出現との知らせを受けて向かった先は、前回の魔物が出現した場所とは違い、私たちが住む地域により近い場所だった。

「ユウリの予知夢で警戒はしておったが、こんな場所に出てくるとは」

 

 神官たちが驚いていた。

居住地区に近すぎる……いまだ居住地区に侵入されたことはないが、このままではいつ侵入されるか。

「とりあえず確認スキャンするよ」

 

 今回の魔物もそれほど大きくはなかった。

もしかしたら生きていた時と同じ大きさで転生してきたのかしら?

体中を赤いとげでおおわれている。

口元からは牙がのぞいてる。

 

 「属性は火。弱点はおなかみたい」

ユウリが言った。

「それからこんなことを考えている。〈アイツメ。エモノヲトリニイッタノニ、モドッテコナカッタトコロヲミルト、マンマトテンセイニセイコウシヤガッタナ。オレノホウガサキニキテイタノニ。オレモキョウコソユウシャニテンセイスルンダ〉だって」

 

 「あいつって、もしかしてこのまえ滅したあの魔物のことなの?」

「多分ね。自分たちの所に戻ってこなかったから、きっと転生に成功したと思ってるんだよ」

 

 戻らなかったのではなく、戻れなかったんだけどね。

そんなこと、教えてはあげないけれど。

それよりも、今回の魔物は火。


 「ぐおぉぉぉぉぉ」

低い吠え声。

吠え声をあげる口の中に、ちらっと炎が見える。

結構距離があるのに、熱波を感じるわ。

 

 どんな攻撃してくるんだろう?

みんなを守るには、どうしたらいいだろう?

 

 魔物と対戦するのはまだ二度目。

万一を考えて神官や魔法師たちがうしろに控えている。

私の力が及ばなかったときは追い払う役目を担ってくれるという。

 

 逆に魔物から彼らを守るという手間が増えてると思うんだけど、私。

魔物だけに集中したいなぁ。

……違うって。

私が頼りないから、みんながいるんじゃない。

 

 火だから水……ケアスオーノ様の力を借りるんだけど。

まずは。

アクア

 

 シュゥゥゥゥゥ

地面から水を霧状に吹き出し、みんなの前に水のカーテンを作る。

もちろんユウリにもその中に入ってもらう。

これで、少々の攻撃からならみんなを守れる。

 

 魔物の上体が大きく後ろに反る。

口も大きく開けているから、きっと火を吹きだすつもりだわ。

「水」

攻撃に備え、力を貯める。

 

 ゴォォォォォォ!

予想通り、口から炎を吹いてきた。

「はあっ!」

 

 炎が吹きだされるとと同時に両手を前に突き出し、手のひらから水流を放つ。

魔物との中間地点で炎と水流とがぶつかる。

激しく水蒸気が上がる。

 

 少しずつ水流が魔物にせまり、とうとう本体を直撃した。

「ぐわっ」

魔物が叫び声をあげてよろめく。

 

 「水」

魔物がひるんだ隙に、今度は魔物の身体を水流のうずで覆った。

水流に阻まれて、吐いた炎は私たちには届かない。

みんなを守っていた水のカーテンを解除リセットする。

 

 「魔物が疲れてきたようだよ。炎の威力がおちている」

水流の内部を確認し続けてくれたユウリが言った。

「水。そして変異ミューティション、氷の槍へ」

 

 私は氷でできた長い槍を手にする。

魔物を包んでいた水流をリセットする。

水流が消えたと知った魔物が、さらに炎を吐こうと大きくのけぞる。

 

「やあっ!」

手にした槍を思い切り投げる。

グサッ!

 

 槍はねらい通り魔物のおなかを貫いた。

「ぐ……ぅ?」

不思議そうにおなかに刺さったものを魔物が見つめる。

 

 一本では、効かなかったのかしら?

もう一本……私が氷の槍を作ろうとしたとき、ドスンと音を立てて地面に倒れ動かなくなった。

 

 槍の周囲が黒くなっている。

黒い部分がだんだんと体中をおおい、すべての赤いとげの先まで黒くなった。

「終わった?」

 

 しばらく見ていても動かない。

と、シュゥゥゥゥゥゥという音とともに煙が上がり、魔物は煙とともに消えていった

 

 「今度も、うまくいったね」

ユウリが言ってくれた。

「うん、ありがとう。スノウウロア様の話だと五体だったよね。まだあと三体、いるんだね」

 

 「そうだね。でもユーリとぼく、ふたりでなら立ち向かえるよ」

ユウリがにっこりと笑う。

「そうだね、ふたりでなら」

私も笑い返した。

 

 ……ユウリの笑顔、好きだなぁ。

いまさらながら、そう思う。

「ぼくもだよ」

 

 「え?」

「ううん。なんでもない。さ、帰ろう」

 

 それから数日後。

いつも通りに授業を受けていると、神官が教室に駆け込んできた。

「た、大変だ。魔物が……魔物が」

 

 いつも物静かな神官たちなのに。

その中でも今日駆け込んできた神官はひときわ動作が静かだったと記憶しているのに、いったいどうしたんだろう?

 

 「魔物が現れたんですね。今日はどこにあらわれたのですか?」

ユウリが神官に聞いた。

「魔物があらわれたのは……森のはずれで、場所に問題はないのだが。今日は二体同時に出現したんだ!」

 

 二体同時に!

今まで、そんなことなかったのに。

私とユウリは顔を見合わせてうなづきあい、教室をあとに走り出した。


 

 

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