第10話
私はメールス様に連れられて左のドアから出た。
半円形の通路を歩いて進んでいく。
メールス様も私も、無言で歩いていった。
そういえば、家を出てからかなりの時間がたったと思うのだけど、おなかも空かなければ眠気も感じない。
ここはそういう不思議な場所なのかしら?
「ここは、そなたたちが住む場所とは違う場所にあるからな」
メールス様が言った。
「違う場所、ですか?」
「うむ。そなたは先ほど『かなりの時間がたったと思う』と考えただろう?それは間違えてはいない。そなたを家より連れ出してから、そなたたちの世界で言えば丸一日経過している」
「丸一日!」
「それはそうであろう?ここは神が住む国ぞ。そなたたちが住む地とはかなり離れておる……それこそ天と地ほど」
「じゃあ……ここで何日も過ごしたら、戻った時には何カ月も、ううん何年もたってるということになるのですか?」
「それは、ない。これよりそなたが修練する場所は“時の進みが違う場所”だからな」
「時の進みが違う?」
「うむ。スノウクロア様が直々にお作りくださった空間だ。その中でたとえ数年、もしくは数十年修練に時間がかかったとしても、こちらの世界では時間はさほどすすんでおらぬ」
時の進みが違う……それはそれで不思議な場所なのだろうけど。
今、何気なく言われた言葉が気になるわ。
数年もしくは数十年って……。
「
神様だから当たり前だけど、頭の中が筒抜けって、なんだかなぁ。
「慣れるしかないぞ……ここだ」
金属でできているらしい銀色のドアが目の前にあった。
装飾どころか取っ手もなにもないドア。
メールス様がドアに触れると、すっと音もなくスライドして開いた。
すたすたとドアの向こうに行くメールス神に続いてドアをくぐると……
───そこは壁も天井もない空間だった。
「え?外に出るのですか?」
「外ではない。ここも室内だ。ここがスノウクロア様がお作りになった修練の間である」
薄水色の空?しか見えない空間。
振り返ると、今通過したばかりのドアも見えなくなっていた。
「ここで、なにをすればいいのですか?」
「魔物を滅する訓練だ」
「魔物、ですか?」
「そうだ。神官を通じて伝えたであろう?そなたの使命はこの世界を守ること。そのために魔物を滅すること」
それはそうなんだけど。
「じゃあ、武器を使うのですよね?魔物を滅するって、戦うってことでしょう。武器は?どんな武器なのですか?」
武術なんて、少しも習ってないけれど。
でもなにも武器を持たないまま戦うなんて、ありえない。
「形ある武器は、ない」
「なん……ですって?」
「そなたの
神秘力。
その言葉も聞いたけれど。
学校で試してみたけどちいさな小石ひとつ動かせなかったじゃない。
「メイドの怪我を予見したことと、花をよみがえらせたこと。それらも神秘力によるものぞ」
たしかに、そんなこともあったけれど。
あれは無意識におこったことで、私がやろうと思ってやったことじゃない。
「それを、そなたの意思で自在にコントロールできるようにすることが、修練の目的だ」
自在にコントロールって。
どうやったら出せる?かわからない力なのに。
必死に覚えた呪文を唱えても魔法が使えなかった私に、いったいどんな方法があるというの?
「呪文は、そなたの神秘力には不要のものだからな。助言ができるとすれば、神秘力は念ずる力で発動する、といったことくらいか」
念ずる……。
心の中で祈ること、よね。
いったい何を、どうすれば?
「ためしに、この小石を動かしてみるがいい」
メールス神が空中から小石を取りだし、地面に置いた。
小石って言うけど……学校で動かそうとしたものよりも、ずっと大きい。
小さな石も動かせなかったのに。
いきなりこんなの……。
「動かせぬ。出来ぬと申すか?まだ何もしていなかろうに」
「っ!……」
確かに、そう。
まだ、なにも試してない。
「……できないとは、言わないわ。魔法も使えない、学校の成績も悪いデキソコナイだけど。やれるだけやって、それでもできなくて。神様たちやユウリから『もう、無理だ。あきらめろ』と言われるまでは、言わない!」
「気概はあるようだな。よかろう。では早速、と言いたいところだが」
そう言ってメールス様は私に近寄り、空中から取り出したモノを手渡した。
白くて小さな粒。
「これは、なんなのですか?」
「栄養剤、といったところだ。そなたらは定期的に栄養と休養とを摂らぬと生命の維持が難しい生き物だからな。このまま口にするがいい」
白い粒を口に入れる。
口の中に爽やかさが広がる。
「それから」
目の前にベッドが現れた。
「しばしの間、休むがいい。修錬は休息の後だ」
「私、眠くなんか……というか、ユウリは?ユウリはちゃんと寝られているのですか?」
「ユウリが行なうことには、予知夢の精度を上げることもあるのだぞ。
それもそうだ。
でも、私は眠くなんかないんだけど。
そう思いながらベッドに横になった私は、一瞬で眠りに落ちたようだった。
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