第9話

 光柱の中の空間は、ふたりで立っているには十分な広さがあった。

「だれも、いない。ぼくたちだけ?」

ユウリが不思議そうに言う。

私も、不思議だった。

声はこの中から聞こえてきたのに。

 

 「その空間は、そなたたちを我らのもとへ運ぶためのもの」

急に声が聞こえた。

「今より転送するゆえ、しばし待つがよい」

 

 高いところから落ちるような、それでいて引っ張り上げられるような不思議な感覚があった。

握ったままだったユウリとつないだ手に、力が入る。

 

 ふ……と、不思議な感覚が消えた。

光の柱も消えている。

とても広い。

窓がなく、ランプもないのに明るい場所。

 

 「まいったか」

目の前で声が聞こえる。

姿は見えないけど。

 

 「姿が見えないと、不安か?」

ユウリとふたりでうなずくと、声の主はふうっとひとつため息をついた。

……神様もため息をつくなんてこと、あるのね。

 

 「仕方あるまい。そなたたちは魂で姿を見ることはできないのだったな」

そう言い終わった瞬間、目の前にひとつの姿が現れた。

 

 見上げるほど大きな背丈。

やせ形で手も足も長い。

暗灰色の長い髪を後ろでひとつに束ねている。

肌の色が浅黒く、目つきが鋭くて鼻が高い。

唇は薄くて、耳が少し尖ってる。

 

 「改めて自己紹介しよう。俺の名はメールス。導き及び伝達を司る。そなたたちが言うところののひとりだ」

 

 「あ。あのっ、ぼくは……」

「知っているさ、ユウリ。そなたたちを呼んだのは誰だと思っているんだ?」

「あ……そうでした」

 

 「それから……そなたたちに助力してくれる神たちの紹介をしておこう。ここにつどっている以外にも神は大勢いるが、今回はドラヴァウェイに関わる神だけ呼んでいる。おい、みんなもそれぞれ姿を現さないと認識してもらえぬぞ」

 

 メールス様がそういうと、彼の後ろにいくつかの姿が現れた。

 

 「簡単に紹介すると、左から風神スロオイアス、火神ヘイスト、水神ケアスオーノ、大地神アイガータ、夢神ロケイース。そしてここには来られていないが父神スノウクロア様と母神テラネーア様、祖神ポロアス様とがいらしゃる」

 

 神話の中の神々が、目の前にいる!

そう思っていると水神と紹介された神が口を開いた。

「メールス、さすがにそれは簡単すぎるだろう?俺たちにも自己紹介くらいさせてくれ」

 

 そして私たちのほうに向きなおり、自己紹介を始めてくれた。

「俺は水を司るケアスオーノという……自己紹介といっても名前しか伝えるものはないけどね」

 

 メールス様ほどではないが、かなりの長身。

体つきはふつう……。

薄青色の髪の毛は短くそろえられ、目も穏やかそうな青い色。

口元は微笑んでいるように見える。

 

 「わたくしは大地を司るアイガータですわ。自己紹介しないと覚えてもらいにくいんですもの。まずは名前だけでも……ね」

 

 あまり背は高くなく、ふっくらとした体つき。

背中まで波打つ茶色い髪に浅黒い肌。

少したれ気味の優しそうな大きな目……瞳の色は黒。

あまり高くない鼻にふっくらした唇だ。

 

 「あたしは火を司るヘイスト。ふうん……かわいいぼうやだね」

 

肩までのストレートの金髪がキラキラと輝く。

真っ白な肌、女性としては背が高くほっそりとした体つき。

気が強そうな大きくてつり気味の目には赤い瞳。

 

 「ぼくは風を司るスロオイアス。そうかな?ヘイスト。ぼうやだけじゃなく、彼女も可愛いよ」

 

 ふわふわした黒髪は額にまわしたバンドでとめてある。

アーモンド形の目に金色の瞳。

がっしりした鼻とおおきめの口。

どっちかというと小柄で太めだ。

 

 「私は、夢を司るロケイースと申します」

 

 最後に自己紹介した夢神は……フードつきのマントを頭からかぶり、姿を確認することができなかった。

紹介された神々の中では一番小柄だった。

 

 「もう、よいか?」

メールス様が言った。

「さっそくだが、ユーリ、ユウリ。そなたたちには今紹介した神たちと修練してもらうこととなる」

 

 「まずはユウリ。そなたはロケイースのもとで予知夢と透視の精度を上げよ」

「は、はい!」

 

 「それからユーリは……まずは俺が指導しよう。まだ神秘力オーラが不安定だからな。アイガータとならまだしもヘイストでは負けてしまうだろう」

「は……い」

いや……神様と勝負しても勝てるはずないと思う。

というか勝負するの?

 

 だけど、ユウリと離れ離れで修練しないといけないんだ。

学校みたいに一緒にって思ってたから。

……さびしい。

 

 え?さびしい?

そんなこと、今まで思ったことなかったのに。

学校でも家でも、私はいつもひとりで大丈夫だったじゃない。


 

 大丈夫。

私は、大丈夫。

きっと、やり遂げられる。

 

 私はユウリと顔を見合わせた。

そして繋いだままだった手を離し、声をそろえて言った。

「よろしく、ご指導願います」

 

 他の神たちの姿は、いつのまにか見えなくなっていた。

 

 ユウリはロケイース様とともに、右側のドアから出て行った。

ドアが閉まる直前、私のほうをふりかえり小さくバイバイと手をふってくれた。


 

 

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