第2話
───私は、夢を見ていた。
なんで夢とわかるかって?
それは、魔物と向き合っていたから。
魔法が使えない私が魔物と向き合うなんてことはありえない。
魔物はいつもは森の奥深くに住んでいる……らしい。
めったに私たちが住む地区に近寄ることはないけれど、それでもたまに現れては獲物……私たちね、を
何のために?
食用にしているのか、奴隷として使っているのか。
さらわれて戻ってきた人がいないから、それもわからない。
奴らが現れた時は魔法で撃退するしかない……普通の武器は効かないから。
だから……私が魔物と向き合うなんてことはありえないのだけど。
それよりもっとありえないのは───となりにユウリがいること。
ユウリも、魔法は使えないはず。
なのに、なぜ?
目の前の魔物がゆらりと立ち上がり、私たちに襲いかかって来た!
「!!!」
襲われる寸前で、眼が覚めた。
リアルな夢……。
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせているとドアがノックされてメイドが入ってきた。
ちょうど起床時間だったようだ。
「おはようございます。タオルと朝食をお持ちしました」
そう言って部屋の中央にあるテーブルにお盆を置き、そそくさと部屋を出て行こうとした。
そのうしろ姿を見送りながら、ふと彼女の右足に違和感をおぼえた。
「あの……あなた、右足……」声をかけた私をふりかえった彼女は言った。
「右足が、なんだというのです?」
「いえ、なんともないならいいわ。ごめんなさい」
私に呼びとめられ、声をかけられたのが不快だったようで、ドアが荒っぽく閉じられた。
べつに引きずっていたわけでもないのに、どうして右足が気になったのだろう?
私は疑問を抱えたまま、学校に向かった。
テストの結果は……百点満点の九十八点だった。
机も筆記具も、先生からランダムに与えられるからカンニングは不可能。
満点だったのはユウリひとり。
私が二位。
九十八点は私ひとり。
先生は、自動採点での算出だからしぶしぶ私の点数を認めてる。
ユウリは「残念だったね、あと一問で満点だったのに」とにこやかに話しかけてくる。
「ありがとう」ひとことだけ返事をして、席に戻る。
ほんとうは、満点が取れる内容だったけれど……わざと一問間違えた解答を書いた。
もしも満点なんて取ったら、なにを言われるかわかったもんじゃない。
意地悪されたり、悪口を言われるのがイヤなんじゃない。
そりゃ、楽しくはないし嬉しくもないけれど。
なにより、そんなくだらないことに時間を割かれるのがイヤ。
それでも、学校から帰ろうとしたらクラスの女子が三人、私の前に立って邪魔をした。
「ちょっと、一緒に来てくれる?」
「あの、そこに立たれたら帰れないんだけど?」
「うるさい。いいからついてきて」
「何の用事?ここで聞かせてくれてもいいでしょ?」
「いいから、デキソコナイは私らについてくればいいのよ」
はぁ。
めんどくさい……。
連れて行かれた場所は、人気がない校舎の裏だった。
彼女らの話は“いつものごとく”。
私が九十八点とったのが生意気だとか、いい点でユウリから声をかけてもらったのが気に食わないとか。
そう、思うんだったらちゃんと勉強すればいいと思うんだけど。
「……話はそれだけ?用がすんだなら、私は帰るわ」
ひと通り私の悪口を言って気が済んだのか、口を閉じたまま私をにらみつけている三人に告げた。
その言い方が気に食わなかったみたい。
「なによ、その目。デキソコナイのくせに生意気よ!」
そう言ったのは、ユウリに声をかけてもらったことを一番なじってた……たしかカリナって名前だっけ。
「ねえ、そんなにテストでユウリに声かけしてもらったのが羨ましいの?だったらあなたも高得点、取ればいいじゃない。あ、でもたしか今日のテスト、あなた六点だったわね」
「───うるさいうるさい!なによ、あんたなんて!」
図星をさされて逆上したカリナは、私を思い切り突き飛ばした。
私は突然のことによろめき、後頭部を校舎の壁にぶつけてしまった。
ゴツッ!
そして、そのまま意識を失っていたようだった。
……どのくらい、意識を失っていたんだろう。
「ユーリ?ユーリ?」
肩をゆすられて、私は意識を取り戻した。
私の名前をちゃんと呼んでくれる人。
そんな人は、ひとりしかいない。
目を開けると、案の定そこにはしゃがんだユウリの姿があった。
心配そうに私を見下ろしている。
「どうしたの?こんなところで。大丈夫?起きられる?」
どうやら私は頭を打った後、ずるずると崩れ落ちて地面の上に横になっていたようだ。
「大丈夫。ありがとう」
片手をついて身体を起こす。
ズキッ。
頭に痛みが走る。
「痛っ!」
手をあてると、こぶができているみたいだった。
……出血してなくて、よかった。
「頭、痛むの?ちょっと見せて」
ユウリはそう言うと私の返事もまたずに後ろにまわり、傷口を確認しているようだった。
こぶの上をそっと手がなでている。
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