俺が幼馴染に振られて慰めてもらうだけの話
蜂谷
第1話
人間とアンドロイドの境目がなくなって五百年、今ではアンドロイドは当たり前のように人権を持ち、人間と同じように暮らしている。
アンドロイドの体は定期的にバージョンアップされ、一定の年齢から成長するにしたがって大きくなり、古い型番になった者は、故障と共に廃棄され、記憶の入ったメモリーチップはリセットされる。
そしてそれは人間の寿命とおおよそ変わりがない。
まるで人間と変わらないように過ごしている彼ら、しかし人間にとって煩わしい嫉妬や嫌味、負の感情を持たないことから、アンドロイドと付き合い、結婚することが当たり前になっていた。
そんな世界に俺は住んでいる。
そして俺には可愛い可愛い幼馴染がいる。
長い黒髪で、少し垂れ目でおっとりとしている、小動物みたいな子だ。
幼稚園の頃に結婚しようね、なんて約束をした仲だ。
今日も朝の登校は彼女と一緒だ。
俺は玄関の前で彼女が来るのを待っている。
「ごめん健介、寝坊しちゃった~」
「奇遇だな、俺もだ。ちょっと俺の方が早かったかな」
「健介はいつも遅いもんね~」
「お前は人のこと言えるか!」
ベシッと頭に軽くチョップを入れてツッコむ。
ああ素晴らしい、なんて幸せな空間だろう。俺、
◆◇◆◇
俺には前世の記憶がある。
世界がアンドロイドに受け入れられる前、むしろアンドロイドの人権を無視していた時代だ。
俺も例に漏れず、反対をしたものだ。
なんせ俺よりもいい男が人権を持つ!?
そんなの許せるはずがない、ただえさえ俺の近くに女なんていないのに。
高校生ながらそんな拗らせ方をしていた俺はデモに参加した。
「アンドロイドに人権を与えるなー」
「人間が人間らしく生きるための道具にしか過ぎないぞー」
「人が人足りえるのは心があるからだー! アンドロイドに心はあるのかー!」
なんだかご高説を垂れているが、基本的にここにいるのは弱者男性、女性に見向きもされてていない者の集まりだ。
俺も例に漏れてないのが寂しい。
俺達のデモの行進は続いていく。
そして国会近くまで来ると、警察とのもみ合いになった。
普通デモは許可を得て行うものなので、問題はないのだが、どうやら境界線を超えて国会の中に入ろうとしたものがいたらしい。
俺は真ん中くらいにいたので、その当時の状況は伝聞でしか覚えていない。
しかし目の前の人が倒れてくると、それに同じく俺も倒れてしまう。
その後は悲惨だった。
ドミノ倒しが起きたのか、俺の上にはどんどん人が伸し掛かり、圧迫される。
俺の最後の記憶は苦しい、死ぬ、おおよそ悲惨なものだった。
◆◇◆◇
そんな俺は例に漏れずアンドロイドが嫌いだ。
義務教育で教わるアンドロイド講習なんて聞くにも堪えず、ふて寝したし、極力アンドロイドの情報は入れないようにしている。
それでも耳に入ってしまうことがある。
今のアンドロイドは生殖も可能なのだ。
人工子宮によって人間を妊娠できる。
人口卵子に人口精子、俺は思わず吐いた。
何気持ち悪いことに力を入れてやがる。
人間とアンドロイドが相容れるわけないだろ!
いや、世論が大多数で俺が異端なのか。
それは俺の前世のせいだ、俺は悪くない。
そんなことより今世では人間といちゃいちゃしたい。
そう心に決めている。
「いってらっしゃい、健介様」
「ああ、いたんだ、いいよ見送りなんて」
俺は自分のところにいるメイドロイドに声を掛ける。
うちにいるメイドロイド、メイは俺が十歳の頃に来た。
ちょうど俺の教育に余裕がもて、母親が仕事に出かけるというので心配した親がわざわざ持ってきたのだ。
はた迷惑な話だ。
それ以来、基本的にメイは俺と共に生活している。
まあご飯も作ってくれるし、掃除もしてくれるから家政婦として考えるなら悪くない。
話もユーモアに飛んでいて飽きさせない。俺は心を許しかけている。
しかし決定的な壁がある。
彼女がアンドロイドということだけ。
これはもう俺に染みついた業と言っても過言ではない。
アンドロイドというだけで、今まで普通に話をしていた相手が急にダメになる。
こればかりはしょうがない。そういうものだと我慢するしかない。
メイに返事をしていると、礼子から忠告を受けた。
「もう~そっけないんだから、嫌われちゃうよ?」
「いいんだよ、どうせそういう感情は持たないんだし」
「そういうものかな~?」
幼馴染の河合礼子は、俺の言うことをよく聞いてくれる。
昔からのろまでよく人にぶつかったり、怪我をすることも多々あった。
その度に俺が世話をしていた。
懐かしいなあ。
大きくなってからはさすがにそんなことは起きない。
礼子も成長したってことだろう。
しかし、礼子もいい年になったのに色恋沙汰には興味がないのか、そういった話をしたことは一切ない。
俺と二人でいるから満足している?
これはもう俺のこと好きなのでは?
中学校も三年生に上がって、そろそろいい感じじゃないか?
俺はそんなことを考えながら、礼子との登校中の話に花を咲かせていた。
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