第9話


「……こ、こんな小国の学園ごときの教師が!!!」


「ふむ、そんな小国の学園ごときの教師に手も足も出ず、言葉しか吐けない身では入学は許可致しかねるな」


 どこか、この国ではないのであろう国の御曹司らしい人間が騒いでいるのを眺めながら、ライルはため息を付いた。

 人数が集まれば程度の低い人間もまた集まる。


 それに同調する人間、興味無さそうにする人間、様々な反応だが、ライルとしては今の試験内容通りであるのであればと少し身体の筋を伸ばしていた。

 筆記試験の後で少し身体が強張っているものの、問題ないことを確認していく。

 少なくとも今のを見る限りだと、先程のスラム街のごろつきを相手にするのとはわけが違うのは間違いないようだった。


「なぁ、自分は随分余裕そうやな。もし一人なんやったら、三人一組ってことやし組まへんか? なぁ、あんたも反対意見はないやろ?」


「あぁ、そっちの彼が許諾してくれるとありがたく思う」


 その声に振り向くと、確か東方の民族衣装だっただろうか、緑地に袖部分に特徴的な刺繍が見え流る衣服に身を包んだ細身と、その隣では北方でよく使われる革鎧に身を包んだ分厚い胸板が目に入る。

 つまりはどちらもライルよりも頭一つ背丈が高いということだったが、それよりもその二人にはライルは見覚えがあった。


「ふふ、余裕ってことは無いけどね。あの皇国の盾直々とは思わなかったし。ただ、流石に手加減はしてくれると思うし、実技ってことならとりあえず準備をね。そして、改めてさっき駅前では助かったよ、僕はライル、僕で良ければよろしく」


 ライルがそう言うと、東方風の衣装の青年が破顔する。

 その笑みがどこか軽薄に感じるものの、ただ、漂う気配には嘘は無かった。

 緑色の長髪を後ろ手に縛り、気さくそうな気配と共に話しかけてきつつも油断はなく、あちらで騒いでいる人間達に比べたら余程信用がおけると判断する。信頼できるかどうかはわからないが、少なくとも駅前で助けてくれる位には親切心と余裕があって。

 おそらくはそれを判断に入れて声をそれぞれかけたのではないかとライルは思考を巡らせた。


「お、話が早いんは助かるわ、ワイはロール・クライフ。東の方の島国の一つの出身や。そんでこっちの寡黙そうなのがヴォルフ。つってもちょっと前に声かけたばっかなんやけどな」


「よろしく、帝国出身のヴォルフガング・フォン・ヴォルフェンという、ヴォルフで構わない」


 周囲でもそれぞれ組み合わせがまとまろうとしている。

 何故こういう状態になったかと言うと、先程声を荒らげていた人間にも端を発するのだが。


「よろしくね。まぁ随分と乱暴な振り分けではあったけれど、結構ありなのかな?」


 先程の試験内容と結果にそう思ってライルが呟くと二人も同意するうに頷いた。


「……ふふ、そうだな、効率的と言えるのかもしれん」


「まぁ、あの辺のアホみたいなんと一緒にされたくないって意味やとそうやなぁ」


 簡単に言うと、随分と人数が多くなったものを絞るために、先程から文句を言われている大柄な男性が試験の一貫として、ちょっとした行為をしたのだ。



 ◇◆



 カヅキ・メディスは呆れていた。

 目の前にはかなりの数の蹲った少年たち、そこから立ち上がったものもいるが、随分と乱暴なことだ、と思いながら周りを眺める。

 もうこれで立ち上がった連中は既に合格でも良いのではないかと思うが、隣のある意味親代わりとも言える大男はそんなつもりは無さそうだった。

 まぁ確かにまだ少し多い。仕事をするのは面倒だが。


「ふむ、今年はいつもに増して希望者が多いの。卒業生諸君も名が売れて来ていて嬉しいことじゃが、玉石混交とはよくいったものか、それにしても優秀よ。見よカヅキ、


大人気おとなげねぇ」


 何をしたかというと、ある意味では何もしていない。

 だが、最近は平和な世の中である。かつての騒乱を経験したものなどほとんどいないだろう。


 そんなところに、戦場に慣れたものでも一瞬身体が止まるような濃密な殺気をぶち込みやがったのだ、この老人は。


 そしてこう言い放ったものだから、文句も出ている。


「……さぁ立つが良い。三つ数える間に立ち上がれぬものは、不合格とする!!!!!」


 今目の前で吠えている人間は、腰が抜けて10数えるほどでようやくよろよろと立ち上がったものだった。ちなみにお付きの人間達はほとんどが座り込み、気を失っているものもいる辺りで程度が知れる。だが――――。


(やり過ぎなんだよなぁ、本当にこの爺さんは)


 そして、カヅキが内心でぼやいている間にも話は進んでいく。


「よし、そして、まだ数が多いのでな、三人ずつの組を許す、その後はワシか、ここにいるカヅキとの1対3の模擬戦により合否を言い渡す。そうじゃな、今いる人間の半分ほどになると思うてくれ」


 そこからの文句、というわけだ。

 実力不足で不合格なことには何の異論もないが、ちょっと文句を言いたくなる気持ちもわかる。尤も、そこでこの国を低く見るような物言いをしている時点で、同情の余地は無いが。


 そして、そんな中でふとカヅキは目を留めた。

 黒髪の少年が先程のことが無かったように屈伸などをしている。


(なるほどな、あれが…………)


 事前情報は入っていた。

 仕事ではなさそうだという方が調べの理由では会ったが、それ以上にカヅキにとっては気になる意味がある相手だった。

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