私立武装学園 番外編

ラムロト

第1話 赤龍の日常


「はぁ~…本当にあの馬鹿な弟がよ…」


ここは、クルシス大陸の自然豊かなドルク帝国の中にある軍の一室だ。


壁一面に、大きな窓が並んでおり、反対側の壁には歴代の隊長クラスの男達の写真が飾られている。


その部屋の真ん中に扉から奥まで赤い絨毯が1本敷いてあり、その先に長方形の長い机に、偉そうな椅子。そこに軍服を着た赤い瞳の20代後半程の男が椅子に腰掛け、深くため息をつき机に肘をかけた。


「すまぬ…ワシが付いてながらを止めることは出来なかった」


その男が肘をかけている机に、立ちながら座る形で、もう1人男がいた。


その男の年の瀬は分からない。何故なら、その男は全身が包帯をぐるぐる巻きにしており、目と口の部分だけ空いている不気味な男だった。

そしてその言葉使いも、古くさい言葉を使っており若いのか年寄りなのか見ただけでは分からない。


軍の1人だとは思うが、軍服等は着ておらずボロボロの布地を羽織っており、あまりその辺の規定は無いのかもしれない。


コンコン…


扉がノックされる。

赤い瞳の男が声を掛けると、その扉からまた新たな男が入ってきた。


黒い髪を肩まで伸ばしたロン毛の男。綺麗な顔をした黒い瞳をしている。年の瀬も20代半ばのこの男も軍服を着ており、まとめた紙の資料を両手に持って部屋に入ってきた。


黒龍こくりゅうどうだ?上の爺さん達は納得出来たか?」


部屋に入ってきた男――黒龍は、1度頭を下げると、手に持っていた資料を読みながら答える。


「はい。忘れられた都『プリム』での塔の崩壊については、老朽化が原因であの大地震で崩壊したことになりました」


「そうか…」


赤い瞳の男がひと言だけ短く返答をする。

まずは1つ問題が片付いたのに安堵したのか、机から肘を外し椅子にもたれ掛かり大きくため息をついた。


「良かったのぉ。あの塔を破壊したのがバレたら、あやつは国家反逆罪で死罪…いや牢に幽閉されて、死ぬまで軍で使われてた事だろうな」


不気味な男も安堵したのか安心したため息をつく。


「いや…そこじゃねぇよ如月きさらぎ!確かに、そこも問題だったが今抱えてる問題はそこじゃねぇんだよ!」


赤い瞳の男が机を叩いた。

大きな音が鳴り響き、机に座っていた不気味な男――如月は一瞬、驚き肩を震わせ赤い瞳の男を見た。


赤龍せきりゅうよ落ち着くのじゃ。あやつの『りゅうのろい』の事じゃろ?」


赤い瞳の男――赤龍は首を横に振る。


「違うんだよ!それもあるが…なんでアイツは、修学旅行のお土産を俺に持ってこないんだよ!」


今まで深刻そうな空気が流れていた一室で、時が止まったかのように如月、黒龍が動きを止め目を見開き赤龍を見た。


「アイツ…『お兄ちゃんいつもありがとう』って言いながら、お土産渡してくるかと思ってたのに、俺にお土産持ってきたの雪音ゆきねだけだ!よく出来た妹だよ!」


赤龍が嬉しそうにドンドンと机を叩く。


「悪いがそのお土産…ワシも貰っておるぞ」


「私も貰っていますね」


赤龍は叩いていた手を止めて2人がいる方を見る。

自分だけが特別にお土産を貰っていたと思っていた赤龍が今度は目を見開き動きを止めた。


「多分じゃが、兄妹きょうだい全員にお土産を買ってきたと思うぞ。なんか、よく分からないキャラクターのキーホルダーじゃったな」


如月が懐をガサガサとあさり小さなキーホルダーを出した。出した拍子にチャリっと小さな音が鳴る。

それは、よくある観光地に売られてる様な物で、『プリム』を擬人化させたかの様なキャラが嬉しそうに手を広げている物であった。


「私も同じ様な物ですね」


黒龍もまた懐を漁ると同じ様なキーホルダーが出てきた。

2人ともがらでは無いが、大事そうに持っていた。


「は?ふざけんなよお前ら!俺は、小さなお菓子だったぞ!なんでお前らが一生手元に残るもので、俺が食べたら無くなる物なんだ!お前らそれを寄越せ!俺が大事に保管してやるから!」


赤龍の口から小さな火がボッボッと出てくる。とりあえず身近に居た如月が持っていたキーホルダーに手を伸ばすが、如月はサッとそれを避ける。


「兄さん落ち着いてください。多分、私と如月はお菓子なんて食べないと思ってこう言った物にしてくれたんでしょう」


黒龍はフォローを入れつつも、手に持っていたキーホルダーを取られまいと、すかさず大事そうに懐に忍ばせた。


「いくら赤龍と言えども、コレに手を出したらその机ごと爆砕ばくさいするぞ」


ギロリと赤龍を睨みつける。

2人とも柄でも無いキーホルダーだが、妹から貰ったと言うだけで本気で大事にしている。


「くそ!なんで俺だけあのクソ甘いお菓子だったんだ雪音!胃がもたれて3日くらい何も食えなかったんだぞ!毒殺されたかと思ったのによ!」


赤龍が両手でドンっと机を叩き顔を突っ伏した。


「あー…兄貴ぃ雪音泣いてるぞ」


突然トビラの方から女性の声がした。

赤龍は声がした方を見ると、赤い髪が腰まで伸び、筋肉のついた胸や腹にサラシを巻き暴走族の特攻服みたいな物を着た女が携帯を片手に扉を開けて立っていた。


皐月さつき!お前いつからそこにいた!と言うより、誰と通話してやがるんだ!この場所は携帯電話の使用を禁じてるって何度も言ったよな!」


赤龍の瞳がギロリと女――皐月を見る。

赤龍は血が上ると瞳孔どうこうが蛇の様になる。その目で見られたものは萎縮いしゅくしてしまい身体が硬直してしまうが、皐月は慣れてるのか特に何も感じない。


「いや、雪音と通話してたんだけど、なんか赤兄あかにぃのだけ特別に『プリム』で材料買って家で手作りしたお菓子だって言ってるぜ?」


そんな大好きな妹の手作りお菓子を毒呼ばわりした事をまさかの本人に伝わってしまう大ハプニング。

如月はヤレヤレとした仕草をすると、机から離れ数歩 歩くと、足元から影の渦が現れ姿を消していく。

黒龍もこんな兄をどうしようも無く頭を抱える。


「おい待て…そんなつもりじゃ無いぞ!最高に美味しいお菓子だって伝えてくれ!今までに食べた事ない史上最高の物だって雪音に伝えてくれ!頼む!」


先程までの勢いは無くなり、産まれたての小鹿の様な目で皐月を見る。


「いや、使用禁止って言うから電話切っちゃったぜ?」


そんな皐月の言葉に絶望という闇が赤龍に伸し掛るのと同時くらいに、今度は机がカタカタと音を立て震え始めた。

息が締め付けられるような感覚。幻覚だろうが身体中を蛇が絡んでくるような感覚が赤龍に襲いかかってきた。


「あー…妹泣かせたからな。あいつの遠距離殺気すげぇなぁ」


普通の人だったら失禁したり白目を向いて気絶するレベルの凄まじい殺気が、物体を通り越し赤龍に降りかかる。


これは夢であって欲しかった。

大好きな妹に弁明をしに行く為に、この向けられた殺気を出している本人の所に行く事に気が重くなっていく。


「まぁ、頑張って謝罪してこいよ。アタシこれから睦月むつきと飯食って来るから」


手を上げてさっさと部屋から出ていく。

黒龍もそれを見て皐月に付いて出ていった。


見放された赤龍の叫びがいつまでもドルク帝国に響き渡る―――――



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