彼の伝説
カービー国王は、だだっ広い大広間を何度も往復しながら事態の打開策を練っていた。
「ふうむ。これほど同時に異世界からの来訪者が現れるとは。これは一師団を率いて迎え撃たねばならぬか。いやしかし、やつらは不思議な力を備えているに違いない。まともに戦えば、多くの犠牲者が出るのは間違いないだろう。ここは、あの男に任せるべきか。だが、彼一人にはあまりにも荷が重たすぎる。やはり、死を覚悟で全員で立ち向かうべきか。嗚呼、一体どうすれば良いのだ」
「父上!!」
大広間に息子のイーグル王子がやってきた。
「父上。何をそんなに悩んでおられるのです?国の平和を脅かす来訪者など、我等、城の者たちで討てば事足りるでしょう。悩むことではありませんよ。父上、私は前々から思っておりましたが、スノーホワイトなどというあの男を何故父上は信用しておられるのですか」
「そうか。お前はスノーホワイトが初めてこの地に現れた時、国外に遠征中だったな。やつの伝説をお前はまだ耳にしておらぬか」
「伝説?」
「あれは五年ほど前の事だ」
国王は真剣な顔つきで語り始めた。
「南の海に近い平原にあるカリク村に、ジュウタと名乗る男が現れた。その男は殺したいと念じただけで人を殺せるという恐ろしい力を持っていた。ジュウタはその力で村の腕っぷしの強い男たちを次々と殺し、女子供を支配下に置こうとしたが、そこへある男が現れた。男はジュウタに恐れることなく戦いを挑み、そして勝利した」
「ちょっと待ってください」
イーグル王子が口を挟む。
「なんだ?話の途中だぞ」
「待ってください。ジュウタは念じただけで人を殺せるのでしょう?その男は死ななかったのですか?」
「それを今から話そうとした所だ。まあ黙って聞くがよい」
国王は話を続けた。
「その男にはジュウタの力が通じなかったのだ。ジュウタがいくら念じても、男は倒れなかった。そして男はあっという間にジュウタの首をへし折り、殺してしまった」
「まさか、その男が」
国王は小さく頷いた。
「そうだ。スノーホワイトだ。やつは村人に名前を尋ねられたとき、そう名乗った」
「なんと••••••‼」
「やつの伝説はそれだけではない。人を陥れ悪事を働き、己を転生者と名乗った令嬢とその配下の者十人を、手から出した氷柱一本で殺した。氷柱で、だぞ」
国王は自分の頭を刺すような手振りで語った。
「スノーホワイトは自身も異世界からの転生者だと言っていた。だが、彼はこの国の者を殺めたことは一度もない。やつは悪事を働く異世界からの来訪者を抹殺するためだけに自分の力を使うのだ。以来、来訪者が現れる度に赤の狼煙を上げて彼に伝えることが決まりとなり、我が国の平和が保たれているという訳だ」
「では父上、我々は彼に大恩があるのではありませんか」
「そうだ。この国の安泰をもたらしてくれた彼に我々は報いなければならない。わしは褒美に土地と使用人、そして女を与えると言ったが、彼は一切を断った。彼は住むべき家と仕事があればそれだけでいいと言ったのだ」
「なんと謙虚な」
「だからわしは、海辺に家を作ってやり、来訪者を始末する度に報酬として金貨を与えることにした。だが、今回ばかりは彼だけにやらせる訳にはいかん。我々も彼に力を貸さねば!」
「そうしましょう父上。彼を騎士団長にした騎士団を作るのです。彼を騎士団長にすれば、兵たちの士気も上がりましょう。彼への恩返しにもなります」
「よし、お前はわしの書状を持ってスノーホワイトのもとへ行け。ダモスも連れて行くがよい。あやつも昔は騎士団の一員として腕を振るった男だ。きっとホワイトの力になるだろう」
「は!」
イーグル王子は早速、ダモス公爵を連れてホワイトの家へ向かった。
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