他人の言うことは

 私は農業に関しては、全く経験がありません。

 先祖代々農業に従事したものがいないという、非生産的な家系に生まれました。

 土に触れたのは、小学校の授業でじゃがいもを作ったという経験しかありませんでした。


 奥さんは家庭農園をやりたいと、ずっと言っていたのですが、転勤のサイクルが早かったということもあって、ずっと夢をかなえることはできませんでした。


 姉のご主人、つまり私の義兄が会社員をやめて故郷で農家を継ぐという話になり,奥さんはうらやましがっていました。

 それが私が農業を始める遠因になったのは、不思議な因縁のような気がします。


 そのつてがあったおかげで、新規就農に向けてのハードルは割と簡単に超えてしまいました。

 県が募集した新規就農者の研修も、義兄が話を持ってきてくれたものでした。


 ということで農業を始めたのですが、右も左もわからないことだらけ、そもそも脇芽が何かということも知らなかったのですから。

 何もかもさっぱりわからないので、無知無能扱い、兄の農園のパート人たちにもさんざん馬鹿にされました。


 結構プライドは傷つきましたが、それだけに尻尾を巻いて逃げる気にはなりませんでした。やられたことはやり返す、見返すというのが私の生き方だったこともあります。


 取りあえず一年の研修を終えて、農家としてスタートしました。

 もちろん初年からうまくいくわけはなく、奥さんが、姉のところのパートをすることで生活費を稼いでくれました。


 借りた畑で作業をしていると、いろんな人が声をかけてきます。田舎で新しい人間は珍しいのでしょう、いつも誰かが話しかけてくれました。


 冷やかしの人は話を話せていればいいのですが、困るのは、農作業に関してのうんちくを述べる人です。


 悪気はないのでしょうが、こういった人は自分の狭い範囲の知識がすべてと思うことです。

 アブラムシが出たら、何を使え。興梠ならこれを使え、除草剤なら何々だ。

 はあ、そうですか、調べてみたら我が家の作物に登録がない。どうやら農薬ならば何でも使えると思っているようです。


 よく先輩の話を聞きなさいとか、地元の人の言うことをとか言われます。

 確かにその通りということもあります。天候や直売所のルールなんかはその通りでしょう。

 しかしこと栽培方法に関しては、あまりお勧めしません。


 水や日当たりを含めたロケーション、土壌、何から何まで違います。実際太陽の出る方向に気が一般あるだけで作物の出来は変わります。

 風の通り道があれば、苗やマルチは影響を受けます。風に乗って虫もやって来ます。


 篤農家と呼ばれる人たちの畑は、それこそ百年単位で耕されてきています。石もなければ、雑草の種もない。本人たちは意外とそのことに気がついていません。なのにそれを前提に話をするのです。正しいこともあるけれど、私には使えない知識も多くあります。


 人の話を、鵜呑みにしないことも大事です。





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