第17話 焦りと望み

 寝床に戻った俺達は昼まで眠った。


 そして目が覚めた時、ポチは出掛けていたようだ。


 パワーレベリングで自身の成長は感じている。しかし、シロの助力を得ている状況ではオーガの集団に勝てるとは思えない。


「うーん… もっとペースアップしたいな。強力な魔術か魔法が使えれば…」


『主殿、私は復讐を急いではおりません。あまり無理をなさるような行動は…』


「でもなぁ… 俺からすると現状はファンタジーな世界なんだ。こう、お手軽に無双出来るように強くならないかなぁ?」


『お手軽にですか…?』


「そうだ。神様に会ってチートもらって、最強!みたいな?」


『はぁ…。神様ですか…。小さいころ、山の麓に遺跡があると両親から聞いたことがあります。なんでも太古の神を祀っていたとか。詳しくは知りませんが…』


「遺跡?そこに行ったら神器とか落ちてないか?」


『神器ですか? 聞いたことがないですが…』


「今まで度々都合よく物事が進んでたからな。今回も見つかるやもしれん。何も行動しないよりマシだ。今日は遺跡に向かう。距離はどれぐらいなんだ?」


『おおよそですが、ここから約1日ほどの距離でございます。ただ…山の麓は、サイクロプスやグリフォンなどの領域となります。我々では少し厳しいかと…』


「ヤバくなったら逃げたらいいじゃねーか。」


『サイクロプスは体躯が大きく緩慢な動作ですので退避は可能と思いますが、グリフォンは俊敏な動作で飛翔します。出会えば戦闘を余儀なくされると思いますが大丈夫でしょうか?』


「シロでもグリフォンは厳しいのか?」


『はい。恐らく対抗するのは困難かと…』


「他に手段は無いのか?」


『ケンタウロスの協力があれば、遺跡に到達することは可能かもしれません。彼らには野蛮な一族と穏和な一族が存在します。穏和な一族で文化的な上位種が生息していると聞いたことがあります。その上位種に相談をして協力を得られればですが…』


「彼らに協力を得るのは難しいのか?」


『はい。彼らはこの場所の何処かで暮らしていると聞いておりますが、それ以外は聞いたことがなく、閉鎖的に暮らしていると推測されています。その中に名を持つ不死身の進化種がいるとか…我らオーガの一族にまで話が伝わるぐらいです。信憑性は高いかと思われます。ただ、彼らと出会い説得出来ればの話ですが…』


「そうか…厳しそうな内容なんだが深部の連中に追い回されるよりマシだな。ケンタウロスってどこに生息しているか噂程度でもいいから知らないのか?」


『噂でよければお答えします。浅部と深部の境に彼らの集落が存在すると聞いた事がございます。』


「浅部と深部の境?中層か?と言うことは、この近くか?」


『いえ。この付近である可能性は皆無ではありませんが、違うかと。密林は広がっております。どこかの浅部と深部の境だとお考え下さい。この周囲は、すでに数時間圏内の深夜探索をしております。彼らの生活痕跡などは見掛けなかったので他の場所かと思います。』


「そっか…じゃあ今日は彼らの集落を探す準備をしようか。必要なものは食料と水と塩だな。食料はパパイヤと肉で何とかなる。塩は手持ちが少ないな。水は小川から離れるから厳しいな…」


「そうだな…水筒を… あのキャリーバッグの外側はプラスチックだったな。それを解体してシロの火焔で加工して水筒作れるか…?」


「よし、行動方針が決まった。今日は小川に沿って海の方まで戻る。シロは葉っぱを使って塩作り。俺とポチはキャリーバッグを取りに行く。」


『きゃりーばっぐ??ですか?』


「まぁ、実物を持ってきた時に説明する。」


 俺達は小川沿いに最初の拠点(以下浅部の拠点)へ向かった。途中ゴブリンやスライムと何度も遭遇したがシロに手出し無用と伝え俺が一人で戦った。夕方、浅部の拠点に到着したので、食事の準備をする。しかし手持ちの食料がパパイヤしか無い。


『主殿、少し宜しいでしょうか?以前から頂いてるこの果実(パパイヤ)は見たことがありません。とても貴重な食材と推察いたします。密林から採取しているようですが、どの様な方法で果実を発見しているのでしょうか?』


「は?そこら辺に生えてるだろ?適当に密林に入ったら、いっぱい有るじゃねーか。」


『いえ…私は見掛けた事がありませんが…』


『ワイも見たこと無いでしゅ。いつも主がフラっと密林に入って持ってきてるでしゅ』


「はぁ?? めっちゃ生えてるって。そこまで言うなら付いてこい。」


 彼らが変な事を言うので、さきほど発見したパパイヤの木まで連れて行く。しかし、そこにパパイヤの木は無かった。場所を間違えたかと思い、周囲を探したがパパイヤの木は見当たらなかった。


「うん?? 無いな… 変だな?さっきはココにパパイヤの木があったんだがな。」


『主殿、私は果実を食しておりますので存在を疑ってはおりません。ただ…初めて見る果実のため、入手方法が気になっただけです。』


『無くなったら主が取りに行ったらいいんでしゅよ』


「ポチ! お前食って寝てるだけじぇねーか!少しは役に立て!この穀潰しが!」


『うわ~ん。酷いでしゅ。ワイも探索して耳跳ねを探してるんでしゅ』


「じゃあ、はよその耳跳ねとやらを持って来いや。」


『今はアレがコレで時期が悪いでしゅ。明日から頑張るつもりでしゅ。』


「おまえ、ニートの言い訳みたいだな。」


『ニーソで血ぃ吐け??ってなんでしゅか?』


「なんやねん。そのフェチ絶頂興奮な状況は…もうええわ…」


 ポチと会話するとグダグダになる。なので適当に切り上げて一人でパパイヤの木を探しに向かった。


「あれ? やっぱりパパイヤの木あるじゃねーか。もしかして俺しか採れないのか?たしかにレアな回復アイテムっぽいしな。多めに何個か持って帰るか。」


 パパイヤを採取して浅部の拠点へ戻り、シロ達にパパイヤ採取の状況を説明したが、彼らはあまり深く聞いてこなかった。この日は、明日の準備のため、深夜の戦闘はせず早めに就寝した。


「あ゛~、よく寝た」


 シロとポチは、すでに起きていた。


 今日の行動を彼らに伝えて、二手に分かれる。塩作り(シロ)とキャリーバッグの取得(俺とポチ)だ。昼食用としてリュックにパパイヤを詰めて出発する。もちろんシロの昼食用にも一つ置いていく。


 ポチと話ながら進み、キャリーバッグの草むら付近が近付いた時、その場所に馬のような生物を発見した。キャリーバッグを掴んで調べているようだ。


「おい。ポチ。アレってケンタウロスじゃないのか?なんか気持ち悪いヤツだな…。人か馬かハッキリしろや…」


 ケンタウロスも俺達に気付き、キャリーバッグを持ちながら、コチラの様子を伺っている。シロとの会話を思い出し、ケンタウロスの上位種のことを聞こうと話し掛けた。


「おい。お前は喋れるのか?」


『…ああ、問題無い。』


「お前はケンタウロスって種族の魔族なのか?」


『我はケンタウロスではあるが、魔族では無い。神の眷属である。』


「そうか、悪いがその箱(キャリーバッグ)は俺のだ。返してもらうぞ。」


『そうじゃったのか、不思議な物を発見したので調べていたのだ。』


 まずは目的のキャリーバッグを返してもらう事に成功した。そして遺跡の事と上位種の事を聞いてみる。


「すまんな。あとちょっといいか?」


『何じゃ。人間の子よ。』


「深部の山の麓にある遺跡って知ってるか?」


『ああ、あの場所は神殿じゃ。ティターン神族を祀っておる。』


「ティターン神族? なんだそれ?」


『人間には〝タイタンの一族〟と言った方が理解できるかの?』


「タイタンなら知ってる。あのデカイやつだろ?」


『そうじゃ。この島はティターン神族のクロノス様が眠る場所である。』


「ここはやっぱり島なのか…」


 遺跡の事を聞き出そうして、会話の内容からこの場所が〝神の眠る島〟であるとの情報を得た。不思議と納得をした。過去の様々な現象はその影響だろうと考える。それと同時にこの島からの脱出や人に会う事が困難な事も理解してしまった。


「色々とすまないが他にも聞いていいか?」


『ふむ。いいだろう。』


「神殿に神器とかあるのか?」


『なぜだ?』


「俺はどうやら地球と言う他の世界から飛ばされてここに来たみたいなんだ。このままだと、生きていくのが難しい。だから何か力が欲しいんだ。神器とかがあれば何とかなりそうな気がする。だから神器や武器などが欲しいと思ってる。」


『貴様の話を聞くと、神殿から神器などを盗み出すと宣言しているように聞こえる。神の眷属である我が答えると思うのか?』


「いや…違うんだ。神器がただ欲しいのじゃなく、生きていくための手段として神器に望みを掛けている。ここが島と聞いた以上、もう他に手段はなさそうだし…」


『ふむ…貴様の望みはどうであれ、神殿にはクロノス様に認められし存在しか立ち入る事は出来ん。人間の子が認められるとは思えん。同情はするが定めとして受け入れるが良い。』


「あぁ…やっぱり無理なのか………」

「ん?ちょっとまてよ…」


『なんだ?』


 俺はケンタウロスの言葉を聞いて絶望した。

 島のため脱出する方法が無い。

 遺跡(神殿)にも入れない。

 仮に入れたとしても、神器を盗む輩とコイツに判断されたなら今すぐに殺されるだろう。だが、俺はある事を思い出した。そう、様々な不可解現象の事を。


「なあ、その神さんに認められたら神殿に入れるんだな?」


『そうじゃ。』


「その神さんに認められるって、具体的にどういう事なんだ?」


『神の恩恵を受けることを差しておる。』


「具体的に知りたいのだが、その神の恩恵って何?」


『例えるなら、生命の危機に瀕したとき恩恵を感じる事が出来るだろう。クロノス様の恩恵を拝謁賜ったことは無いが、神事的な回復や〝奇跡の実〟を発見したりすると聞く。』


「奇跡の実ってどんな物なんだ?」


『奇跡の実を食すると身体強化や回復の効果があると言う。そしてその実は神聖を帯びているので誰でも気付くと聞く。』


「〝奇跡の実〟ってコレの事か?」


 俺はリュックからパパイヤを一つ取りだした。


『なっ!貴様!これをどこで手に入れた。返答次第では容赦せぬぞ!!』


「まぁ落ち着け。横の密林に入ったらいっぱい生えてるだろ?それを何個か採っただけだ。」


『適当な事を抜かすではないか。ならば今から体一つで密林に入り、その〝奇跡の実〟を採ってみよ。』


「別にいいが、本当だったらどうすんだ?」

「あー 神の眷属に脅されて怖かったなー。神の眷属が脅迫なんてするんだなーー。すごい怖かったなーーー。神の眷属なのに怖い人なんだーーーー」


『むむ。もしだ、もし真実ならば神殿まで貴様を連れて行ってやろう。だだし…貴様が〝奇跡の実〟を持ってこれなかった場合は…』

『クククッ』

『この従魔も含めて貴様達を跡形も無く消滅させてやろう。束の間であるが時間をやる。それ以上は待たぬ。』


『えぇ!!!! ワイも殺されるんでしゅか!! ワイ関係ないでしゅ!』


『もう遅い。これは決定事項だ。神の眷属を拐かわした事、後悔するがよい。』


「ポチ大丈夫だ。ちょっと行ってくる。リュックはここに置いとく。」


 俺はリュックを地面に置き、横の密林へ入った。30秒も経たないうちに奇跡(パパイヤ)の木を発見した。〝奇跡の実(パパイヤ)〟を一つ採りケンタウロスのところへ戻った。


「おい。これでいいだろ? これが〝奇跡の実〟なんだろ?」


『貴様、どこかに隠していたのではあるまいな!あまりにも早すぎる!』


「なら、お前が密林に入って納得いくまで探してみろ。それかもう一回、採りに行ってもいいぞ。」


『貴様達、ここで少し待て…。我が密林に入り不正が無いか探してみよう。もし〝奇跡の実〟を隠しているのを見つけたなら、即座に貴様達をギタギタの八つ裂きにしてやる。』


「ふん。つべこべ言わんとさっさと行け。お前もう悪人言葉になってるぞ。」


 ケンタウロスは納得出来ないのか、奇跡の実が隠されてないかを探しに行った。

 俺達はその場で1時間ほど待たされた。そしてケンタウロスが帰ってきた。


『………。』


「おい。なんか言うことは無いのか?」


『我の名は〝ケイロン〟医術、猟術、武術、予言術の賢者である。』


 コイツは非を認め謝る気が無い。と判断した俺は言葉で反撃を行うことにした。


「んで?その予言が出来るケイロン様は、この状況をどう判断するんだ?」


『…神殿まで連れて行ってやろう。』


「その前になんか言うことはないのか? んん? 嘘をついてないことは理解しただろ? しかも俺は〝神の恩恵〟を賜ってる者なんだろ?」


『ふむ。すまぬ』


「は? 何が?」


『だから「すまぬ」と言ったのだ。』


「だから何が? 何が何に「すまぬ」なんだ?」


『貴様の言葉に対してだ。』


「あ゛? 頭下げて言えや!平身低頭で謝罪しろや!!」


『我は神の眷属。人間の子に下げる頭は無い。』


「チッ… もうええわ。ほな神殿に案内しろや。」


 あまり責め立て、案内の約束を反故にされるのを恐れた俺は、ある程度(クレーマー)で諦めた。



 ------閑話------


「おい。馬人間。お前って何歳なんだ?ジジィにみえるけど。」

『ふっ…人間の子よ。我は不死身ぞ。歳なんぞ覚えておらん。』

「そっか、じゃあジジイなのか。」

『む。それは困る。せめて〝イケおじ〟にしてくれんかの?』


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