第4話 トイレがない
第1階層で魔物が出てきたのは驚いたけど、それ以降は出てこなくなり、探検が一番進んでいた第8階層にたどり着くことができた。
しかし……やはり臭い。1階層から臭かったが、下に行くに連れてその臭さが倍増しになっていくようだ。魔物が多いから当然魔物のウンコも多いってことなんだろうけど……
「あれ? レナさん、あれは?」
レナさんのライト魔法のおかげでダンジョンの中は明るい。床やくぼみに置かれているものもすぐに見つけられる。
そこにあるのは壺みたいなものだった。手に持てるサイズだが、入り口は布が覆われて縛られて封印してある。
「ああ、あれは――」
「もしかしたらお宝かも! やったー! さあゲットだぜー!」
レナさんの静止も無視して、あたしは一目散に駆け寄り、さっと壺の蓋の紐を解く――
「…………おええええええええええええぇぇぇぇぇぇ」
一瞬、あたしの意識が飛びそうになり、ギリギリに耐えた次に来たのはものすごい吐き気だ。その原因は壺の中から飛び出した悪臭を超えたなにかだ。
「それ、以前に入った冒険者たちのウンコとオシッコよ」
「はあ!?」
あたしは大きく深呼吸しながら仰天してしまう。なんでウンコの壺がこんなところに放棄されているんですか!?
レナさんはあたしのバッグを指さして、
「あなたのもあったでしょう。携行式トイレ」
「あー」
あれか……そういえば、レナさんに聞けばいいやと思って忘れてた。
しかし、ここで緊急事態が起きる!
「う」
「レナさんどうしたの?」
心配そうに見つめるレナさん
かなり強い腹痛だ。ダンジョンに入る前に食った串焼き肉に当たったか、それともウンコの匂いであたしのウンコも刺激されたのか?
あたしはお腹を抑えつつ、
「ト、トイレ……漏れそう」
それを聞いたレナさんは安堵のため息をついて、
「まだ敵も来てないし、この先は掃討してないエリアだから敵も増えるはず。いい機会だから今のうちに済ましておきなさい」
「わ、わかりました」
あたしはバッグから携帯式トイレを取り出す。そして、床にそれをおいてから、ズボンを脱ごうとして――
「あの……レナさん。じっと見られると脱げないんですけど……」
「何を言ってるの? ここはダンジョンで戦場なの。常にあなたを見守らなければならない。だから私がちゃんと見ておくから、全て出し切ってしまって」
「ええっ!?」
あたしのズボンにかかる手が止まる。いや、別に相手は女の人、下半身を見せたところで別になんとも――すいません、ちょっと恥ずかしいです。でもダンジョンだし魔物が来るかもしれないから我慢はできるよっ! でも、う、うんこしているところなんて今まで誰にも見せたことなんてないから無理だよー!
「じゃ、じゃあ、レナさんから見えないところに移動しますんで……」
「だめよ。私のいるところでしなさい」
「えー……」
あたしは頭を抱える。この人もしかしてそういう趣味? 伝説の魔法使いって聞いたけど、性癖のほうが狂ってるとか? ちょっと勘弁してほしいんですけど…
ここでレナさんが小さくため息を付き、
「人魔大戦の話は聞いてるわね。私はそこで大きな過ちを犯してしまったのよ……」
しんみり話し出すレナさんだったが、今はそんなことよりトイレに行きたいんですけど……
「あの戦場は悲惨だったわ……緒戦のころに人間と魔物が直接戦闘を繰り広げ、人類側に甚大な被害が出てしまった。そこで人類側は地面に長い穴――塹壕と呼ばれるものを構築し、絶え間なく続く魔王軍の突撃の防御線にしたの」
「はぁ。あのところでウン――」
「塹壕での戦いになってから、私達は魔王軍の侵攻を止められるようになった。でも、この塹壕の中の環境は最悪だった。雨が降れば、水浸しになり、冷たい風が吹き抜け、病気も蔓延したわ」
「そ、そろそろ……」
「特に問題だったのがトイレだった。一応、塹壕の一部にはトイレとも言い難い大きな壺が置かれていたわ。でも、私達からの部隊からは遠く、絶え間ない魔物の突撃の中でトイレまで行くのなんて不可能だった」
「おおおおお……おおおう……」
「私達はもはや生きることを優先するしかなかった。交代で塹壕の隅でみんな出せるものはすべて放出した。もちろん臭いし、衛生状態も最悪。それでも生き延びるためにはこれしかなかったのよ」
「あああああのおのの、もう限界で……」
「その際、私と同い年の戦士がいたの。彼女は少し恥ずかしがり屋で、ウンコをするときは見ないでほしいって言ってたわ。仕方ないと思って私も目を離してしまったの。そして……次に彼女を見たとき、頭がなくなっていた。近くには彼女の頭に突き刺さった大きなモリ。そう魔王軍の遠距離攻撃が彼女に当たったのよ」
「そ、そう……なん……ですかかかか……」
「私は後悔した。泣き叫びたかった! でも魔王軍の突撃はまた強まり、塹壕から魔法攻撃を続けるしかできなかった……彼女の亡骸を供養できたのはそれから1日過ぎた後だった……」
「はひふめほ……なにぬねの……」
「今でも思う。あのとき私がしっかり彼女から目を離さずに見ておけば、こんな悲劇は起きなかった。だからもう私は絶対に目を離さない! たとえそれがウンコをしているときであろうと! もう仲間を失いたくないから!」
レナさんはばっと魔法服を振りかざし、
「さあ! キサラさん! 今のうちにウンコを全部出して! 例え何があっても私があなたを守って見せる!」
なんかウンコ臭い悲しき過去を聞かされたんですけど……これじゃレナさんの前でウンコする以外ないじゃん!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます