第2話
普通のカップルなら旅行に行った時の写真を一緒に見たりするだろうけど、俺たちはそういうことを一切しなかった。結婚式のビデオでさえ見たことがない。新婚当時から仮面夫婦のようなものだったのかもしれない。時々、妻は「何のために生きているのかわからない」と言っていた。俺も同感だった。よその夫婦が精神的に結びついているのと比べて、俺たちは世間体を考えて形式上一緒になっただけだった。しかし、俺も妻も即物的で、誰も俺たちのような人間を本気で愛さないだろうというのは共通していたと思う。
一通り海外旅行などに行った後、妻が熱中したのは妊活だった。俺は子どもなんて自然にできると思っていたが、妻は基礎体温を測るようになり、子どもができやすい日に行為をするということで、予定表に書いて俺に見せるようになった。
「別にそこまでしなくてよくない?まだ若いんだし」
「でも、子ども三人欲しいから一人目は二十八くらいまでに産んでおきたいんだ。舞も結婚してすぐ子どもできたし。結婚して一年以上経つのに子どもいないって肩身が狭いんだもん」
「肩身が狭いって誰に対して?」俺は苛々して聞き返した。
「友達とか。親とか」
その後、妻は子どもを三人産むなら、今後二年おきに出産しないと高齢出産になってしまうと力説するようになった。
この女に子どもに対する愛情なんてあるのかと不思議だった。何のために子どもが欲しいのか全くわからなかった。自分を輝かせるためのアクセサリーのようなものなのかもしれない。将来子どもにはピアノと英会話を習わせて、インターナショナルスクールに通わせたいと目を輝かせていた。普通の日系企業に勤める俺にそんな稼ぎはなかった。
しかし、俺の能力に関係なく、一生家族のために、回し車の上を走り続けなくてはいけない運命にあったようだ。
俺は「子どもができませんように」と祈っていたが、妊活に協力しないと妻が怒るから、俺は仕方なく合わせていた。もちろん、妊活のスケジュール以外で妻と交わることは一切なかった。妻に対しての性欲もなくなっていた。妻の人間性が嫌だったからでもある。
俺は一人で家にいる時は、いつも水子の位牌に話しかけていた。俺の設定では男の子だった。妻は週末もプールや茶道などの習い事や、友達とのお茶会などで出かけていた。家にいても半日くらいだった。妻はアクティブな女性だった訳だ。
「お前、生まれて来なくてよかったかもな。あんなお母さんだったらお前も大変だったと思うよ。毎日習い事で遊ぶ時間もなくてさ。それでも、生まれ変わってうちに来たいか?」
もし、生きていたら8歳くらいで小学生か…。俺はその子がいたらどうなっていたかと考えていた。シングルファザーで育ててみるのも面白いかもしれない。俺は男兄弟はいなかったけど、妹は幼い頃、素直でとてもかわいかった。
「もう一回うちに生まれてくればどうだ?習い事は一個だけにしようって言うからさ」
俺もあのキツイ奥さんとずっと二人でいるのが耐えられなかった。子どもがいたら緩衝材になってくれるかもしれない。
そうしているうちに、常に家に誰かがいるような気がするようになっていた。
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