一人っ子

連喜

第1話

 俺と妻は大学二年から付き合っていて、当時は半分同棲しているような生活をしていた。お互い初めての大人の付き合いだったから、どちらも手探り状態だったと思う。どうやっていいかわからなかったから、雑誌や本、ビデオで見た知識、友達から聞いた話などを駆使して実践してみたけど、結果として俺はしくじってしまった。最悪なことに妻の方が妊娠してしまったわけだ。こんな話はありふれているけど、当事者にとってはかなり深刻な問題だった。


 俺は就職活動をする時に、子どもがいたら内定取り消しになってしまうだろうから、堕ろしてくれないかと思っていたし、妻の方も大企業に就職してOLをやるはずが、出産なんて冗談じゃないという感じだった。当時からお互い就職して数年経ったら籍を入れようと思っていたが、妻の方は今まで勉強して来たのに、就職しないなんてあり得ないと言っていた。


 それに、昔はでき婚が恥ずかしいという時代だったから、親に言えないような状態だった。しかし、結局は困り果てて親に相談する事態になってしまった。


 俺は妻の両親にこっぴどく怒られて、責任を取れと言われてしまった。結果としては、そのせいで俺は妻と結婚したくなくなってしまった。結婚したらこの両親がついて来るのかというのが重荷だったし、ずっと干渉され続けるのに嫌気が差していた。妻も決してそんなに真面目ないい子ではなく、俺も吸わないのにタバコを吸ったり、未成年のうちから普通に酒を飲んでいた。しかも、中学時代から飲んでいたらしい。


 妻は俺と付き合う前に大学の先輩とも付き合っていて、男の家に泊まったりもしていた。だから、俺は娘を傷物にしやがってという態度の義理両親が大嫌いだった。


 妻は結局中絶手術をしたのだが、義理の両親が水子供養をしろとうるさいので、お寺に行って供養してもらうことになった。


 性別もわからないその子に名前を付けて、位牌まで作った。名前をここに書いても仕様がないから、仮にかおるとする。今は薫なんて名前の新生児はいないだろうし、俺の年代でもちょっと少女漫画チックな名前だった気がする。


 その後、妻は何事もなかったかのように就職活動をしていた。学生が就職したい企業ランキングに入るような大企業に複数内定をもらい、そのうちの一社に入社した。傍から見たら清楚な感じに見えるだろうなと思うと、ちょっと腹立たしかった。


 子どもの位牌はなぜか俺の部屋に置かれていた。妻は実家暮らしだったし、普通は母親の方に置くだろうけど、結局あの家族は現実を見たくなかったのだと思う。娘が避妊もしないで外で男とやっているということが受け入れ難かったのだろう。


 一方の俺は、知名度はあるけど、それほど人気のない会社に就職することになった。新卒の時はお互い都内の勤務だったが、俺が地方に転勤になる時に籍を入れることになった。理由はあっちが仕事を辞めたかったことと、親の目もあり俺以外の男と結婚できる雰囲気ではなかったからだと思う。実際妻は他の男たちと食事に行ったり、合コンに参加したりしていたが、結局は俺との結婚を選ばざるを得なかった。


 俺たちが結婚したのはお互い25歳くらいの頃で、四大卒の男女としては早い方だった。俺は大して好きでもない女と一生一緒にいなくてはならないなんて、まるで奴隷の気分だった。一生足首を鎖に繋がれているみたいに。それでも、そのうち子どもができて別の楽しみが見つかるという期待もあった。


 俺は会社から借りてもらった広くて新しいマンションに住み、経済的に余裕ができたので車も買った。俺たちはお互いの気まずさを埋めるために、週末はあちこちに出かけて、後で絶対に見返すことのない仕様もない思い出を作り続けた。


 






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