それは一筋の光のような

デューク・・・一二三さんが居なくなった後、雄大さんはどこかに電話をかけていた。

「君たちの保護と現場の処理を依頼した。ホーク・・・山岡さんには済まないことをしたが。結果として足止めのための生け贄にしてしまった」

俯いて力なく話す雄大さんに、私は何も言えなかった。

ただ、この現状において知らないことが多すぎた事も理由だった。

「雄大さん。言える範囲でいいんだけど・・・教えて欲しいの。今の状態を」

「そうだね。確かにそうだ。君には聞く権利がある」

「ラビット、私が話します。あなたは傷ついている。あまりしゃべりすぎてはいけない」

九国さんはそう言うと、私の方に下半身を引きずるように這いずってきた。

「お嬢様、私と彼は・・・協定を結んだのです」

「協定・・・?」


そこからの九国さんの話は驚くことばかりだった。

事の発端は、雄大さんからの接触だった。

雄大さんの組織は元々私の持つ、薬物流通ルートの情報を求めていたが、他の国の組織との関係でその動きを停止させたらしい。

その動きというのは、ある大国の組織が別の薬物を日本に流入させようとしており、そのシェアを取るにあたってそれまで主流を占めていた薬・・・私の身体にある「バタフライ」の流通ルートが認知され、広がることはその大国の組織にとって都合が悪い事だったようだ。

そのため、雄大さんの組織は「上の方」から方針変更。

つまり、私の体内のバタフライの情報をそのまま世に出すこと無く保存する、と言う指示に変わったのだ。

そうなると、私が死ぬことで体内からその情報を取り出されることも避けなくてはいけないことになる。

そのため、雄大さんは一転、私を守る事になったのだ。


「でも、彼はあなたに恐怖心を持たれてしまった。普通に接近しても信用を得ることは難しい。そのため私に接近し、事実を話した上でお嬢様をお守りするため協定を結んだのです」

「最初は信じてもらえないかと思ったけど、流石だね。現状把握が素晴らしい。予想外にスムーズに信じてもらえたよ」

「じゃあ・・・橘さん達は?『男性に依頼された』って。それに九国さんと私を狙ったバイクの人たちは・・・」

「あれはどちらも『デューク』によるものだよ・・・。橘さん達は、いざという時に切り捨てられる手足を探していた・・・ため。E・A2の工作員だと、ナンバーナインに知られたら事だからね。無関係な道具が必要だった」

「そんな・・・」

「お嬢様の目の前で倒したのは、想像以上に使えないことが分かり、お嬢様のラビット・・・雄大様への疑惑の目を向けさせるように方向転換したのでしょう。そのために万一を考え、雄大様へ変装し接触した。私たちを襲ったのは、単純に邪魔な私を排除するのと、お嬢様を連れ去る事」

「じゃあ、九国さん達の組織は・・・本当に敵になっちゃったの?」

「はい。そもそもE・A2は今回介入してきた大国の組織とは対立関係にあった。そのため、この国で広いシェアを取られることは好しとせず、方針転換したのでしょう」

「そんな事で・・・」

「お嬢様。こんな事は言いたくありませんが・・・これが現実なんです」

「で、デュークの正体やE・A2の方針変換を教えたのは・・・僕だ。君を守るのに彼女の協力は不可欠だからね」

「それは感謝しています。あなたの情報が無ければ、私はお嬢様共々遠からず殺されていたでしょう。私では正面からぶつかったらデュークには勝てない」

そこまで聞いたところでハッと気付いた。

「九国さん・・・怪我!ご免なさい、ボーッとしてて!」


私は慌てて九国さんに駆け寄った。

彼女は顔面蒼白だったが、痛みは感じていないようだった。

「大丈夫です、お嬢様・・・ただ・・・すいません。痛みも無いですが・・・下半身の感覚もありません。もはや・・・お嬢様をお守り・・・」

「もういいよ!いいって!ずっと・・・守ってくれていた。初めて会ったときからずっと・・・これからは私が守る」

そう言うと私は泣きながら九国さんに抱きついた。

「その怪我だって私のために・・・」

「いいのです。私の命でお嬢様を守れるなら・・・安い取引・・・」

「そんなこと言わないで!今度言ったら怒るからね!」

「・・・もう・・・怒ってるじゃないか・・・蒼ちゃん」

途切れ途切れに言いながら雄大さんは薄く笑った。

「組織の・・・方針が変わって・・・良かった。やっぱり君は君・・・だ。君は・・・似ているんだ・・・僕の、妹に」

私は雄大さんを見ながら、微笑んだ。

「私も、雄大さんがお兄ちゃんみたいってずっと・・・思ってた」

「嬉しいね・・・生きて帰ったら・・・また」

そう言うと雄大さんはゆっくりと目を閉じた。

また・・・何?

そう言おうとしたとき、部屋の中にサラリーマンの様なスーツを着た、3名の男性が入ってきた。

それは言われなければ教職員と間違えそうな身なりだったが、彼らは私たちに言った。

「斎木蒼様、そして他2名の保護に参りました。人払いはしてありますが、念のため急いで」

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