それは驚きと戸惑いのような

 当初転校生役は九国さんが行うと言い張って居たのだが、いかんせん彼女はあまりに大人びていて、私と同学年と言うには無理がありすぎていたのだ。

そのため、一二三さんの強い反対によって、本当に・・・渋々引き下がっていた。

「サーティン、この役目は譲りましょう。で、あれば死ぬ気でお嬢様を守りなさい。あと、私に逐一お嬢様と周囲の動向の報告も。あと、万一僅かでも手落ちがあれば翌日から私がお嬢様のクラスメイト役に代わります。あと、もしお嬢様に悪口や陰口等精神的攻撃を加える者があれば始末を許可します」

「い、いや!九国さん、そこまではいいよ」

「ご安心を。証拠は残しませんし、自発的失踪と言う事にしますので」

「そういう事じゃなくて・・・」

「ね、私で良かったですよね。先輩じゃ無くて」

「サーティン、何か?」

「いえいえいえ!何でも無いっす」

そんなやり取りがあったので、確かに気にはなっていた。

「ま、でも正直先輩のあのノリだと、何しでかすか分からないから蒼さんも息詰まっちゃうでしょ?蒼さん命!みたいな人だし。ね~蒼さん、あの人の事はほっといて私と楽しい学園生活を送っちゃいましょう!」

「い、いや・・・それは・・・」

「誰をほっとくのですか?」

突然木陰から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

これって・・・

目の前の一二三さんは箸を落として、全身を硬直させた。

「え?せ、先輩・・・」

それを合図にするかのように、木陰から出てきたのはまさに九国さんだった。

だが・・・服装がいつものTシャツではなく、白いブラウスとスカートだった。

これはまるで・・・

「お嬢様、私実は2週間前よりこの学校のスクールカウンセラーとして勤務する事になりました。そして、学校より『事件の影響で心を痛められているお嬢様に対して、特に重点的に関わるように』と」

そう言って九国さんは穏やかにニッコリと微笑んだ。

それで最近居ないことが多かったのか。

でもそれって、本当に学校の指示なのかな・・・

「それ、絶対嘘ですよね!E・A2通したでしょ」

「口の利き方に気をつけなさい、サーティン。さて、そのため学校からの指示で、私が良いと思うまでは放課後までに一日3回はカウンセリングルームに顔を出してください。もちろん、北大路さんも一緒に。そこでメンタル面のセッションを行いましょう」

そう言うやいなや「あ!先生」と、男子生徒の声が聞こえてきた。

「ああ、どうしました?」

「あの・・・勉強で悩みがあって」

「分かりました。ではまた時間を取るので」

「僕は部活の大会のプレッシャーが・・・」

「では、あなたも時間を取って・・・」

「先生!私・・・好きな人が出来て・・・」

「では、そちらも・・・」

「先生。今彼氏とかって・・・」

「おりません。ただ、それはカウンセリングとは関係が・・・」

一人一人律儀に対応しているが、その間も生徒の数は増えている。

分かっては居たが・・・何という人気。

って言うか、本気でメンタル面の相談しようとする人って、いるのかな?

「蒼さん、コソッと行っちゃいましょ」

一二三さんはそっと耳打ちすると、私の手を取り立ち上がった。

九国さん、大丈夫かな・・・

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