それは華やかな香りのような

「ねえ、斎木さん本当に無理しないでね」

「何かあったら力になるから」

「良かったら、放課後気晴らしにクレープ食べに行かない?」

最初の授業が終わるやいなや、矢継ぎ早にやってくるクラスメイトの言葉に私は曖昧に頷くのが精一杯だった。

だが、日常に戻ってきたんだと言う嬉しさも、心の奥から滲んでくるのを感じ思わず笑顔になってしまう。

そんな私の隣の一二三さんの席は負けずに・・・いや、私より遙かに熱気に満ちていた。

「ねえ、前はどんな学校に居たの?」

「好きな部活とかある?紹介するよ」

「趣味とかってある?」

「学校、案内してあげようか」

まるで、有名人のインタビューみたいな混雑ぶりだ、と呆れながら一二三さんの方を見ると、彼女も私をチラッと見てウインクをすると、先ほどの質問に一つ一つ丁寧に答えていた。

彼女らしい明るさとユーモアを混ぜて。

それに対して、みんな顔を上気させてさらに話しかける。

九国さんもうちのみんなをあっという間に、夢中にさせていたけど方向性が全然違うな・・・

九国さんは屋敷に来る人や両親に対して上品な物腰や口調、洗練された受け答え・・・そして溢れるカリスマ性で、気付いたら心引かれるようになっていた。

それに対して一二三さんは、そのお日様のような明るさやユーモア。そしてその圧倒的なルックスによって周囲の心を鷲掴みにしていた。

タイプは異なるが、どちらも本当に羨ましい。


「いやいやいや~、学校ってメチャ疲れますね。斎木さん、ずっと通ってたんですよね。尊敬しますよ、もう」

お昼休みになり、中庭でお弁当を食べながら一二三さんはしみじみと言った。

「ううん、一二三さんが人気ありすぎるからだよ。落ち着けばもっと静かに過ごせるはずだけど、あんなにモテてたら難しいかも」

からかうように言う私に一二三さんは、手を顔の前でブンブン振った。

「いやいや、勘弁です!もう結構体力持って行かれちゃってるんで」

「でも・・・有り難う。私の我が儘聞いてくれて」

「それは気にしないでください。嫌な言い方しちゃってすいませんけど、実際斎木さんが・・・あ、そろそろ『蒼さん』って呼んでもいいです?有り難うございます。蒼さんがああ言ってもらえて、E・A2の目的にも合致してるんですよ。こういう開けたところの方が、確かにラビットも近づきやすいので。だから、逆に感謝してます。それに・・・私も学校ってずっと憧れてたから」

「一二三さんは学校とか・・・」

「無いです!あ、それ以上言わせるのは勘弁で」

そう言ってまた招き猫のような仕草をする一二三さんを見て、急に申し訳なくなった。

「・・・ごめんなさい」

「ああ!いいですよ、お気になさらず。物心ついたときからそんな環境だから、それが普通なんで。だからそこまでシリアスな物じゃないっすよ」

「うん・・・」

「しかし、驚きましたよね。まさか先輩がおとなしく引き下がるなんて」

私も小さく頷いた。

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