それは滑らかなビロードのような


 それから1時間ほど高速道路を走り、車は住宅街に入った。

そして何の変哲も無い2階建ての一軒家に止まった。

身を潜める、と言うと人里離れた所にあるコンクリートむき出しの殺風景な豆腐みたいな建物をイメージしていたので、拍子抜けしたことを話すと九国さんは吹き出した。

「まあ、お嬢様。そんな所に身を潜めていたら、見つけてくれと言わんばかりではないですか。だってそのような所は真っ先に予想できる場所。最初の場所は機能性重視なのと時間が無かったのであのような形になりましたが」

そんなものなんだろうか。

「でも、ご安心ください。ここは何事かあってもお嬢様の安全を確保するための仕掛けが色々ありますので。それに、頼もしい仲間もいます」

「仲間?」

そうだった、確かに彼女は護衛をつけると言っていた。

「はい。私の養成所の後輩ですが、頼りになります。彼女がいるから私も当初は、役目を変わることまで考えることが出来たのです」

「そんなに?」

「はい。特に彼女が秀でているのは・・・」

そこまで話したところで、急に言葉を切り九国さんは後ろを振り返った。

私も釣られて背後を見たが、そのまま全身が凍り付いたようになった。

「ここにいたんだね。ずいぶん探したよ。蒼ちゃん、ナンバーナイン」

そう、そこには雄大さんが立っていたのだ。

「な、なんで・・・」

「何でってご挨拶だな。追ってきたに決まってるじゃない。君を逃がすとでも・・・」

言葉の途中で雄大さんは素早く銃を抜いた。

九国さんがナイフを構えたのだ。

私は九国さんの後ろに隠れたが、血の気が引き今にも倒れそうなくらいだった。

どうしてここが・・・私、発信器か何か付けられてたのかな?

「お、流石に銃にナイフで立ち向かうほどお馬鹿じゃないね。でも・・・蒼ちゃんは頂くよ」

「それは無理ですね」

「どうして?僕を見くびると・・・」

「あなたはお嬢様を守らなくては」

え?

九国さんの言っている意味が飲み込めず思わず彼女の顔を見ると、薄く笑っている。

「冗談もほどほどに。あなたの本当に悪い癖です」

え?え?

混乱しながら雄大さんを見ると、同じく笑顔で笑いをかみ殺している。

そして・・・

「流石ですね先輩。こうも一瞬で見破られたらマジでショック過ぎますよ」

雄大さんが女性のような高い声でそう言った。

「ゆ、雄大さん?」

九国さんは私を見るとすまなそうに頭を下げた。

「彼女には後でキツく言っときますね。紹介します。彼女が・・・」

「あ~、待ってください!こういうのは本人が言わないとですよ!」

そう言うと雄大さん・・・らしき彼女は、顎に手を当てると、そのまま顔を・・・剥いだ。

九国さんと一緒・・・

突然の事態にまだ理解が追いつかず、ポカンと見守っていると雄大さんは顔を完全に剥いだ。そして、その下から出てきたのはウェーブのかかった黒髪をショートボブにした目鼻立ちのハッキリした、まるでハーフのような女性だった。

「はじめまして、斎木蒼さん。私がナンバーサーティン。ナンバーナイ・・・あ、いや、九国先輩の弟子です!」

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