君に辿る路

Kiki✩.*˚

第1話 プロローグ

4月

「ほな、行ってくんで」

坂口 光波(さかぐち みなみ)15歳。

光波は今日、10年過ごした大阪を離れ、

1人で東京に帰る。

特に理由はない。

お父さんに東京の高校を勧められたからだ。

「行ってらっしゃい、気をつけてな。本当に見送りしなくていいのか?」

「うん。仕事忙しいやろ?あたしおらんくなっても泣いたあかんで」

父は少し微笑みながら軽く溜息をつくと

光波の目の前までやって来た。

「向こうに着いたら流摩も羽咲もいる。

きっと楽しくなるさ。だから、そんな顔するな。」

(流摩と羽咲て誰やねん)

「うん」

お父さんは、産まれも育ちも東京だった。

お父さんは、こっちに来ても大阪弁を話した事がなかった。スマートにスーツを着こなして、娘の光波から見てもカッコイイと思える程に、お父さんは何一つとして変わらなかった。きっと変わりたくなかったのだろう。

本当はお父さんこそ、帰りたかったんじゃないだろうか。でも、聞けなかった。

「連休なったら顔だすわ。お父さんも体気ぃつけてな」

「あぁ。楽しんでこいよ」

そう言うと光波の背中を軽く叩いた。

いつも無口なお父さんは今日は特に無口だ。

「一緒に行こうや」

そう言いかけてやめた。

きっと子供には分からない理由があるんだろう。

だけど、淋しかった。別に東京に帰りたいなんて思ってなかった。お父さんが行かないのに、光波が1人で行く理由なんてなかったのだ。扉を開けた瞬間、何かを思い出したかの様にお父さんは言った。

「光波。」

「ん?」

「、、、いや、向こうに着いたら連絡するんだぞ」

「うん。何回も聞いたわ」

「母さんにもな」

「わかってる」

お父さんとお母さんは光波が5歳の時に離婚した。でも決して仲が悪い訳でもない。

幼かった光波は訳も分からず父親と共に家を出た。だけど何も聞けなかったのだ。

振り返ってみると、泣き言も怒りもわがままも自分の意見何一つ言ってこなかったな。

「ほな、行ってくる」

そんな事を思いながら光波の上京物語が始まる。


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