明晰dreamin'!!
かぺりん
第1話 人は夢を見る…らしいよ?
目覚ましが鳴り響くベッドの上。
私は、少し慌てたように飛び起きた。
遅刻しそうでも、焦ってる訳でもない。
ただ、何か目覚めが悪い。
…目覚めの悪い朝は、悪夢を見ているっぽい。
『ぽい』だなんて曖昧だなぁと思うかもしれないが、実際私はこれっぽっちも夢の内容を覚えてない。本当に、1mmもだ。
ただ、額に乾きかけた汗が、まるで熱が下がった後みたいで、少し気持ちが悪い。
インフルエンザの時に見る夢、なんて表現があるが、さしずめ今は『インフルエンザの時に見る夢の後の起きた時の気怠さ』とでも言おうか。
そうでもしないと形容できないような、得体の知れない違和感が、私のシックスセンス(なんて無いかもしれないが)に呼び掛ける。
〝やはり何かがおかしい〟と。
何もおかしくなんてないのに───
「そうだね、確かに何もおかしくない。」
「あぁ、だよね……って。お前は誰だよ。」
何かが、ドアの付近に立っている。
人では無さそうだ。だって、頭に輪っかがあるんだから。天使か、イカれたコスプレイヤーが私の家に不法侵入したかの2択であり、そのいずれも人と言うには憚られる。
「私は名を名乗るほどでもないよ」
「名乗れと言ってるんだよ!」
その謎の天使(或いは異常者)は、なにか澄ました顔して会話を破綻させてきた。
どうなってるんだ。
「じゃあ私から名を名乗るよ。そしたら名乗ってくれるよな?なぁ?」
「それは必要ない。君の名前が夏瀬 夢であることは既に知っているし、私の名前を君が知る必要のないこともまた知っている。」
なんで私の名前を知ってるんだよ。
と、ツッコミを入れようとしたが。
この超次元的な論理の飛躍に私のスピードでは着いていけないことを悟った。
「じゃあもういいよ。お前、天使だからてんちゃんね。名乗るまで変えないからな」
「それで、なんで君はそんなに名前を気にするんだ?別に会話が出来ればいいだろう。」
「社交辞令だよ。ってか関わりにくいし。名前知らない天使と円滑に話せる訳ないでしょ。」
「現に君は私をてんちゃんと呼んでないし、私も君を君としか呼んでいない。これのどこに名前の必要性を感じるのか甚だ疑問で───」
うわ、こいつめんどいわ。
閑話休題とでもさせてもらうか…
「わーったよ、てんちゃん。で、お前何しに来たの?人間の朝はそこそこ大事なんだけど。」
「君に夢を見せてあげようと思って」
「は?」
私に夢を見せる?どういう事だよ。
夢なんて別に見なくても───
「君の夢は、人間のキャパシティを遥かに超越した神話のようなものだ。その夢の根源を君には探って欲しい。」
「えっと、たんま。どういうこと?」
「君の夢はとんでもない物語を構築してるってことだ。無意識なのか、誰かの意図なのか。それを確かめて欲しい。少なくとも、君の今の脳では夢を見ることが不可能なんだ。だから私が君に力を与える。」
あぁ、だから夢を覚えてない…どころか見れてないのか。ふーん。
「…でも、それをやって何になるのよ。」
結局、私のメリットを今のところ感じない。
だって、わざわざ人間に理解できない場所に自分から向かうって、1億もらっても───
「私たちの世界でその情報を欲しているやつがいる。情報提供料として1,000,000,000円。」
「やらせて頂きます。」
やっぱ世の中、金だよな。
10億ありゃ何が出来るかなぁ、はは。
「え、でもなんでお前らは私の夢にそんな情報が含まれてるって知ってるの?ってかお前らが私を色々して盗ればよくない?」
「あいにく、そこまで万能な種族じゃないんだ。君の脳から有り得ないほどのドリームスペルを感知しただけで。」
「夢に魔力とかあるんだ…」
「そりゃそうだ、だって君はこれからそのドリームスペルを使って夢を見るんだから。」
「夢を見る…」
私は、夢を見た事がない。
てか、見れなかったんだね。初めて知ったわ。
ただ、私はこれから夢を見る。
この気怠さも、何か世界の命運を担ってるような気分も、少し微睡んだ気分も、好奇心も。
それら全てを持って、私は夢に潜る。
しかも、初めて見る夢が明晰夢なんてね。
私は、きっと、世界で最も夢を見た事のない人で、世界で最も夢を夢と思っている人かもしれない。
「急激に眠くなってきただろう?一気に今、君にドリームスペルを送っている。」
視界が眩く、そして目眩く。
私の瞼は重くなっていく。
そして、消えかかる意識と、多少の浮遊感に、熱が出る時のような感覚を覚えながら。
次夢が覚めた時に、また熱が冷めた時のような感覚に陥るのだろうな、なんて感慨深く思ったりして。全てが夢という無に帰していく。
「夢を見る時の合言葉は…」
『"明晰dreamin' "!』
天使のその声で、私は
1話 [完]
明晰dreamin'!! かぺりん @if-
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