第19話両親
「かわいいのね〜玲奈ちゃん」
「いえいえ、お母様こそお綺麗ですね」
…まずい。
初詣から帰ってきた俺の前に立ちはだかったのは他ならぬ俺の両親だった。
どうやら俺のことを心配して来てくれたようで、スマホには既に連絡が入っていた。見逃していたのが悔やまれる。
とりあえず部屋へと上がらせたのだが…まずい。
何がまずいのかと言えば、俺は隣にいる彼女のこともあの女のことも両親に伝えていないからだ。
このことが何を意味するのか。それは母さん達はこいつが失恋の隙につけ込んで懐に潜り込んできたストーカーということを知らないということだ。
なぜ言わなかったかと言われたら、気恥ずかしいという理由もあったが、基本的に自分の恋愛には親は関わってほしくない。
彼女ができたなんて言ったら父さんはともかく、母さんは干渉してくる。絶対に。それを見越しての黙秘だったのだが、まさか裏目に出るとは。
「月凪凛月よ。よろしくね」
「月凪絢斗です。…まさか湊がこんな可愛い子を捕まえてるとは…」
父さん、俺は捕まえられた側だよ。今も逃げ出せなくて絶賛苦悩中だよ。
「も〜湊!どうして玲奈ちゃんのこと私に言ってくれなかったの?」
「母さんに言ったら絶っっっ対余計なことしかしかないからだよ」
「なっ、、そんな言い方ないでしょ!?」
「うん、まぁ確かに余計なことしかしないな…」
「絢斗くんまでそんなこと言わないで!」
父さんの肩を母さんがポカポカと叩く。この感じはいつになっても変わらないようだ。見てるこっちが恥ずかしいからやめてほしい。
「ふふっ、湊くんのご両親は仲が良いのね」
「良すぎて困りますけどね…玲奈の方も仲がいいんですか?」
「うちは…ママが一方的にって感じね。パパはいつも受け身役よ」
…やっぱ子供って親に似るんだな。きっと玲奈のお父様も苦労されているのだろう。
「ふふ、二人とも仲が良いのね〜」
「…仲良くなきゃ同棲なんてしてないよ」
「照れちゃって〜玲奈ちゃんは湊と暮らしてて困ったこととか無い?」
「私にとっては湊くんが全てなので。どんな湊くんでも受け入れますよ」
迷う素ぶりなど一切見せずに玲奈は言い切った。その狂気的な愛が僅かに垣間見えたが、母さんにはそんなことを気にする脳は無い。この人は人の色恋沙汰になると脳が溶ける。
「あら〜もうラブラブなのね二人共〜!家事は玲奈ちゃんがやってるの?」
「料理全般は私ですけど、他は湊くんにも手伝ってもらってます」
「玲奈ちゃん料理できるのね!若いのに偉いわ〜!」
「いえいえ、これも湊くんのお嫁さんになるためなので」
「ねぇ絢斗くん聞いた?お嫁さんだって!きゃ〜!」
「まぁまぁ、凛月さん落ち着いて…」
一人で騒ぐ母さんを父さんが宥める。…まったくこの人は変わらないな。話してるだけなのにこっちが疲れてくるんだが…
「ねぇねぇ、二人の出会いはどんな感じだったの?学校で?それとも他の所?」
予想はしていたが、一番答えにくい質問が飛んできた。ここで堂々と不法侵入されたなんて言えば今夜は眠れないことが確定する。それは嫌だ。
さぁストーカーさんよ、ここをどう切り抜ける…
「私達の出会いは幼少期まで遡ります…」
…ちょっと待て。この人めっちゃ堂々と嘘つくじゃん。この人は躊躇うということを知らないのか。何幼少期って?
「幼稚園で出会った私は一目惚れしてしまったんです。かっこよくてかわいらしい湊くんに」
「え〜!?もしかして幼馴染だったの!?高校生になった今でも愛してるなんて、素敵ね〜!」
…そんなわけないだろう母さん。記憶は鮮明ではないけど、こんな奴見た覚えは無いぞ。頼むから気づいてくれ。
「も〜こんな子がいたのに隠してるなんて、うちの子も隅に置けないわね〜」
「…そう言ってる暇があったら自分の行いを振り返ったほうがいいよ」
まったくこの人は…はぁ。
話していて疲れるとはまさにこのことだろう。久しぶりの感覚に俺は鬱陶しさまで覚えていた。
一言二言交わすだけでもかなり疲れるのだが、玲奈はその笑顔を崩さずに談笑を続けている。…よくできるな。
「湊ったら高校生になったら一人暮らしするって張り切るから何かと思ったら玲奈ちゃんのためだったのね〜」
「…まぁ、そうだね」
いきなり振られたから咄嗟に肯定してしまったが、そんなわけない。単にこっちの学校に行きたかっただけだ。
「湊くん、私のこと大好きだものね」
「な"っ、…」
「も〜湊ったら素直じゃないんだから〜」
戸惑う俺を玲奈は張り付いたような作り笑いを浮かべながら見ている。…ハメやがったなこの野郎。
てかまずい。このままだと母さんを経由して外堀を埋められる。そうなった場合、俺は正真正銘彼女から離れられなくなる…でもどうすれば…
「あ!そういえば今日はお土産沢山持ってきたの〜!ちょっと待ってて」
「凛月さん、私も手伝いますよ」
母さんが別室に置いた荷物を取りに行くのと同時に玲奈が席を外そうとする。
これなら父さんだけにでも伝えられる。こいつの本性を…!
「湊くん?」
「…はい?」
「逃がさないからね?」
…いや待て諦めるな。言って知らんふりすれば…
「湊くん、襟元」
彼女の囁きに俺は襟元を見た。そこには小型の黒いバッジのようなものが。
「盗聴器、ついてるから」
…抜かりなし、かよ。
彼女の囁きに俺は人知れず絶望した。
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