第六話 不審の目
勇者とは歓迎される者である。世界を救うために働き、そこにいるだけで抑止力となる希望となるからだ。
また、そのお供も重要な戦力であり優秀なのは明白である。
たった一人を除けばの話になるが。
「ではお三方、どうぞこちらへ!」
「あら、俺まさかただついてきた人と思われてる?」
「待ってくれ、彼も僕たちの仲間なんだ。決して勝手についてきたとかじゃないんだよ」
「は、はあ、この男がですか」
あからさまに怪しんでパラドをじっくり見ている。
服装もどこにでもありそうな、安物の質素なもの。覇気も気迫もなくどう見ても一般人。
どこからどう見てもどこにでもいそうな村人だ。
何度も何度も確認をとって、なぜ勇者パーティーに入ることになった経緯まで説明して認めてくれた。
ただ、納得はいっていなさそうだった。
「では、こちらからどうぞ」
説得に十分かかって町に入ることができた。やはり自分は必要ないんじゃないかと思うが、ここはあえて何も言うまいと口を固く閉ざす。
断じて僧侶のにらみが怖かったわけではない。なんなんだあの眼光は、喋ろうとしたら身が震えあがって何も言えなかった。
と、一応入ることはできたのでここからはパラドはギルドに行って宿をとり、それ以外の三人は町長と何か話した後にどこかへ寄るそうだ。
「つーかさ、俺だけじゃ信じてもらえるか分からないんだけど。魔法使いさんついてきてくんない?」
「えー、なんで私がお守りをしなきゃいけないのよ。自分でとりなさい」
「無茶言うなよ。もう、取れなくても恨むなよ」
「パラド君、できれば二部屋とってくれないかな」
「はいはい、分かりましたよー」
ここでギルドの説明をしておこう。一般的に荒くれ者と実力者の差が激しいイメージを持たれているが、荒くれ者なんてこのご時世いないのだ。
魔物を狩る狩人の集団に料金や素材を払って特定の魔物を狩ってくれる組織という認識でよい。
さすがに勇者より劣るがプロの仕事なのであらかじめ危険因子を排除するという点でとても優れている。
もっとも、規律が厳しいため詐欺や誇張を行うと罰則を加えられる。
また、もう一つの面では格安の宿屋と飲み屋という商売も行っている。安く泊まることができるし飲み食いもそれなりにできるので居座るものも多い。
「えーと、確かこれを見せたら部屋をとれるって聞いたけど、あの、なんでそんな目で見るんですかね?」
「皆さん!この人を確保!」
「ちょっといきなり何をぬわあぁ!?」
パラドがあらかじめ勇者から渡されていたペンダントらしいものを受け付けの人に見せたら捕獲された。
まさに理不尽なため抗議の声を上げる。
「いくら何でも偽物判定はひどくないんですかぁ?ちゃんと頼まれてきたのに」
「あなたのようなみすぼらしい人間が勇者様と関係があるわけありません。どうやって盗んだかは知りませんが犯罪者に貸す部屋はありません」
「いやいやいや、いくらなんでも確かめずに」
まだ喋っている最中だがパラドを押さえている者に殴られてこれ以上何も言えなかった。腕っぷしが強いおっさんに殴られて村育ちのパラドが耐えられるはずもなく、情けなく意識を失った。
荷物を没収され、意識がないまま運ばれる。行先はもちろん牢獄だ。
勇者に害をなし者のは即日で死刑が執行される場合もある。今勇者がいるのにこんなことをしでかしたと認識されたら即日死刑コースだろう。
パラドが捕まってから二時間が経過した。町長との話し合いが少し長くなってしまった勇者一行は本来パラドが部屋をとっているはずのギルドへ来た。
「勇者様だ!生きてるうちに生で見れたのは幸運だ!」
「それはどうも。ところで私たちは今日ここで寝泊まりするんだけど」
「はい、部屋はいくつも空いてます。まずこちらの物をお返しします」
「代理人が部屋を…………あれ、なぜこれを?」
「不届き者が勇者様の紋章を盗み、あまつさえ使おうとしたので没収しました。そのものは今日中に首をさらされるでしょう」
「パラドの奴なくしたの。まったく、今頃どこで探してるんだろ」
「荷物も預けてるんですけど、あの人はそこまで不誠実じゃないはずです」
パラドが部屋をとれてないことに魔法使いは不満顔になり僧侶はパラドがどこにいるか心配する。
しかし、紋章を受け取った勇者は何かに気づいたような顔になる。
「本当に確認したのか?その者が預けていた紋章が私から盗んだということを」
「いえ、あんなみすぼらしい者が勇者様の信頼を得られるわけがありません。盗人なのは間違いないです」
「…………あー、なんとなくオチが分かっちゃった」
「奇遇ですね、私もです!」
何度か寄ったことがある街なので牢屋がある場所を知っている僧侶はその方面へ駆け出す。法衣なのに思った以上に早くてそこにいた者のほとんどは驚いていた。
気絶し続けていたおかげで処刑が延ばされていたためまだ生きていたパラドに何とか会い、ようやくパラドは解放されたのだった。
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