第三話 今こそ輝く
目が覚めると人質になっていた。ぼんやりとした思考のまま何が起きたかゆっくりと思い出そうとしていた。
しかし、体、主に背中に焼けるような痛みが走って一気に思考が明確にたたき起こされる。
覚醒したのと同時に痛みによってうめき声を漏らし、パラドはようやく思い出した、何があってこうなったのか?
あの時にパラドはユノをかばって斬られたのだ。その後、どうなったのかはよく分からない。
「動くな!こいつがどうなってもいいのか?」
パラドを掴んで人質にしているのは先ほどの鎧の人物だった。既に追い詰められているようで声からは焦りが感じ取られる。
そして、この鎧の人物を囲っているのが勇者パーティー。
昨夜の襲撃から考えると鎧の人物が今回の事件を企てたと推測できる。放っていたオーラも人の物ではないとするなら魔族で間違いない。
周りだけを見れたからこそ、既に自分が助かるかどうか怪しいくらいで生命に危機に陥っているからこそ冷静に周りを見れてしまったのだ。
「くっ、人質を取るなんて!」
「いててっ、今までにない厄日だなぁ…………」
「貴様は黙ってろ!」
ポロリと独り言を漏らすと鎧の人物に叱られた。何という理不尽。
どれほどの時間が経ったのか分からないが。結構な量の血を失い現在進行形で血を失い続けてる。
自分で治療することもできないし、勇者パーティーの一員にシスターが居るのだがパラドが人質にされているままだと治療もできない。
このまま傷を癒してこれ以上失血しなければ助からないのは確かだ。
「こんな、ことやるよりもっと、実用的な事したら?」
「黙っていろと聞こえてなかったのか!」
「やっべ、痛すぎてなんも、聞こえなイダダダッ!?」
「おい!それ以上はやめろ!」
「聞こえないなら直接体に教えるまでだ」
ぐちゅぐちゅと指で傷口をえぐるような嫌な音がしている。文字通りのことをパラドは鎧の人物からされている事に激痛を感じつつ肉体で分かってしまった。
耐えがたい激痛になんとか耐えつつ、かすむ目で自分がどのようなところにいるか把握しようと試みた。
パラドを人質に取ってる村を襲ってきた魔物たちの首謀者である鎧の人物、魔族がほぼ密着状態、たまに牽制として勇者パーティーの足元に魔法を打ち込み威嚇しているため勇者でさえ結構距離をとっていて、村人たちがそれをさらに遠巻きに見ている。
つまり、今現在直接的に命の危険がある人物はパラドのみという状況だった。
「この下等生物がどうなってもいいなら近寄るんじゃない!お前たちの武器を置いて首を差し出しなさい!」
「くっ…………」
「あー、うー、そんなこと、ぐうっ、しなくていい、から」
包帯を巻いている手をひらひらさせて拒否させるように促した。人質なのに、今にも死にそうなのに、何故そんなに余裕を持っているのが不思議でならないという雰囲気があたりを漂う。
それが彼を余計に不気味さを増す原因となった。
「何言っている、命が惜しくないのか?」
「…………もう、あに言ってるは、聞こえない」
「ダメ!気をしっかり保って!必ず助けるから!」
勇者のお供のシスターが何か叫んでいるが、先ほどは意識が痛みにより少しの間だけはっきりしたが、時間が経つにつれてまともに耳が聞こえなくなってきた。
呂律も回らなくなってきている上に、だんだんと目の前がぼんやりとしてきた。一秒一秒が死に進んでいると感じてしまう。
もちろん死ぬのは怖い。死後の世界があるのかは分からない、その先のことも怖い。
けれども、今だからこそユノに一回だけ遊ばれてブチ切れた短気で憎たらしく今この時も何かをわめいている野郎を吹き飛ばせる。
彼にとって、文字通り『最後の時』だ。
「親父ぃ、お袋ぉ、悪ぃ…………」
そう呟いた瞬間だった。パラドを人質に取っている魔族の男だけでなく離れている勇者にすら悪寒が走った。
一瞬でパラドの体内に宿る極僅かであるはずの魔力が明らかに暴走し、膨張する。
あまりにも突然のことに鎧の人物は何が起きたのか理解できなかった。
そして次の瞬間に感じたのは全身に纏う灼熱感と閃光、それ以外は感じられなかった。否、感じる暇すらなかった。
パラドだけでなく周囲の生物にもその熱気と閃光は感じ取られた。
そして轟音。爆風が周囲に解き放たれた。
離れていた勇者ですら踏ん張らなければ倒れそうな爆風が村に吹き荒れた。
幸い、爆風の影響は勇者よりも離れていた村人が転んで怪我をした程度だったので爆発の割に少なく済んだといえる。
閃光で目がくらんだ勇者の視界が戻って真っ先に目に映ったのは、真っ黒に焼け焦げて黒炭になった魔族だった物体とクレーターだった。
そして、パラドの身体はとても、とても小さく散っていた。
〜●〜●〜●〜●〜
「んん…………ここが天国?」
「馬鹿野郎、天国に行くのはまだ早いわ」
パラドが目覚めた矢先に頭を軽く叩かれた。さっきまで寝ていたのにと言いたいが、何が起こったかは覚えている。
「跡形もなく自爆したはずなのになんで俺は生きてんの?」
「よく跡形もなくなったと自覚があるもんだ」
あの時に何をしたのかを瀕死だった筈のパラドは覚えている。
一生使うことはないだろうと思っていたスキル、『自爆』を使用して鎧の人物を巻き込んだ筈だった。
「いやだってさ?真面目に死ぬなら敵を巻き込んで死にたいじゃん。そこまで『役立たず』になった覚えはない。いだっ!親父、また叩くことないだろ!」
「こうして生きてるのも勇者様一行にいた聖女様のおかげなんだぞ。事故や怪我で死んでも一日以内なら蘇生できるらしい」
「ほー、なるほど。真っ先に狙われそうなスキルだな」
明らかに人並みに余る力、十中八九スキルだろうが、だからこそ勇者の仲間として必要なのだろう。
ドタバタと外がうるさくなっているが、親子は気にせず話す。走ってくるのはここにいないパラドの母親なのだろうか。
扉が勢いよく開いた。勢い良すぎてぶっ壊れてパラド父に直撃してピクリとも動かなくなった。
「親父が死んだ!いや、死んでないだろうけど、ぐえっ!?」
「パラド!目が覚めたのね!」
想像以上にきつく抱きしめられて再び死にそうになった。
ちなみにパラド母のスキルをパラドは知らないためスキルのせいで死にそうになったのかは不明である。
こんな阿鼻叫喚の中、まだ来訪者はいた。壊れた扉を見つつ、若干引きながらパラドにも見覚えがある三人が入ってきた。
「やあ、話すのは初めてだね。無事に目覚めてよかったよ」
物腰の柔らかい勇者とパラドを蘇生してくれたシスターの少女、そして今は正体不明の魔法使いの少女だった。
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