第一話 村に勇者がやってくる

 

「最近、よく畑が荒らされてるなぁ」


「ああ、どうやったら防げるっぺ」


「わかっちゃいるが、あいつ・・・のとこだけは荒らされねえのが気に食わねえ」


「魔物でも本能であいつ・・・のスキルのやばさが分かるっぽいもんな。普段は全く役に立たないけど一日くらいオラ達の畑を見回ったら魔物も来ないかなぁ」


「だったら今頼んでみろよ。ちょうどあそこにいるし」


 そんな農家のおっさんの話題に上がっている青年は自分の家の畑の作物を見ていた。


 じっと野菜を見つめて考えているそぶりをするが、実のところは何も考えていない。


 いくら畑に携わる父に農業を教わり続けているが所詮は凡人、野菜の良し悪しを見極める目はできていないのだ。


 もう少しで食べごろと言ったくらいにしか分からない彼の元に一人の幼女が歩いてくる。自分の身長くらいの丈がある鍬を引きずりながら。


「おにーたーん!まーたさぼってる!」


 どっかん、と身の丈に合わない鍬を難なく振り回して彼の近くに振り下ろした。


「おぉぉぉっ!?ゆ、ユノ!?お前俺を殺す気か!?人に向けて鍬を振り回しちゃダメだってお兄ちゃん何回も言ったでしょう!?」


「だっておばさんがいいっていったもん!ユノ、わるくないもん!」


「何言ってんだぁ…………お袋ぉ…………」


 ユノと呼ばれた少女は男の母親に死刑執行許可を承っていてことに数秒くらい絶望した。


 この天真爛漫な幼女は自分が何をしたのか理解していない。だって幼女だもの。


 この世にはすべての人間にスキルという神の恩恵が備わっている。


 ある者は料理が無条件で上達するスキルを、ある者は魔法を補助するためのスキルを、そしてある者は人を殺害することに特化したスキル等々、千差万別なのだ。


 その中でユノのスキルは『超怪力』である。文字通り超人的な怪力を持ち、まだ一桁の年齢でありながら遊びで木を丸々一本、根元から引っこ抜いてしまうほどである。


 さらに恐ろしいのが年齢に合わせてスキルが成長すること。まだ幼女のユノが大人になるまで『超怪力』がどうなるか、高頻度で殺されかける彼は常に心配していた。


「はいはい、ちゃんと畑見てるって。ほら、このナスとか虫食いされてんのちゃんと見たぞ」


「えー、ほんとー?」


「やれやれ、判断するのが早いっての。このせっかちさんめ」


「むー!ユノおこったもん!」


「だから鍬を振り回すんじゃありません!」


 幼女と茶番を繰り広げているのがこの村で最も『役立たず』と呼ばれているパラドという名前の青年だ。


 村の中でも両親とユノ、その両親以外からは良くない感情を向けられることが常である生活を送り続けている。ついでに言うとユノとの関係は一方的に絡まられるだけである。


 その理由は村の中で生活どころか戦闘にさえ本当に役立たないスキルを持っているからだ。


 村人たちがが言うなら『役に立たないが敵に回すといざという時だけある意味恐ろしい男』である。


 なにせ彼のスキルは、


「おーいみんな!勇者様が村にきたっぺよお!」


「ゆーしゃ?おにーたん、ゆーしゃって何?」


「世界中から無理難題を押し付けられてる苦労人さ。モテるのだけは気に食わないけど」


『自爆』なのだから。








 〜●〜●〜●〜●〜








「いやはや、よくお越しになってくださいました。誠に感謝しています」


「感謝するにはまだ早いですよ。僕は来ただけでまだ何もしていません」


 にこやかに村長と話す青年こそ勇者として選出された者である。


『勇者』というスキルはたった二文字で漠然としたものでありながら、それだけで大体の戦闘はこなせる上に運が良くなる、勘が鋭くなる、モテるなど多くの意味を含んでいるチート性能である。


 ただ、まだ本人が未熟なため苦戦するかもしばしば。


 そんな勇者がここにやって来ることは村にとって大変喜ばしい事だ。印象に残れば歴史に残るかもしれないし、今後10年くらいは勇者が来てくれた村と自慢できる。


「それで被害はどれくらいか聞かせてくれますか?」


「ええ、はい。外ではなんですので私の家にお上がりください」


 始終にこやかに話す2人。勇者のお供の女性二人は村に何があるかキョロキョロしているくらいで勇者が村長の家に案内されるのについていくくらいだった。


「おにーたん、あれがゆーしゃ?」


「あれって言っちゃいけません。女を侍らせてるけど勇者でしょ、多分」


「そっか、ゆうしゃってハーレムなんだね!」


「…………どこでその言葉聞いた?」


「おじさんからきいた!」


「どうしよう、どのおじさんなのか心当たりがありすぎる」


 幼い子供に誰から吹き込まれたか気になるが、犯人は後で見つけ出そうと決めた。流石にこれはいただけない。


 そもそもこの村にエロオヤジが多すぎる、というのが彼の見解である。農業スキルを持った人間が生まれやすいためか野菜の収穫で税金も稼げているくらいの、割と成功している村だが、外から入ってくる人間が出稼ぎから帰ってきた人が連れてきたパートナーくらいしかいないのでかなり封鎖的な村だとパラドは思った。


 こんなことを考えるパラドも外へ出たことは数えるくらいしかない。親父と共に野菜を売りに出す時くらいで他の人間を観察する時間は少ないながらも悪知恵を付けつつ観察眼を磨いていった。


「おにーたん、なんでゆーしゃがきたの?」


「最近は村を困らせてる魔物がいるからでしょ。ささ、向こうの方で遊んどけ」


「おにーたんと一緒に遊ぶ!」


「うん、それなら仕方ない」


 サボる口実を得たパラドだったが夕方までユノの遊び無茶振りに答え、ボロボロになって家に帰ってから両親に叱られつつ同情された。


 単純に『超怪力』というスキルが強力すぎる上に幼いこともあって手加減がほとんどできないため、遊びに付き合う人間は大抵ただでは済まない。


 少々怪我はしても日常生活には何も影響がでないように被害を抑えられるのは村の中ではパラドくらいで、それでも物的被害は免れないが、被害の矛先を向けられる程度の存在。


 いつもの飯を食いながら勇者が来てどうなるんだろうかと明日のことを考えるのだった。

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