異世界転生した双子の兄は大好きなあの子を守りたいので最強の魔術師を目指します。

虻川岐津州

プロローグ



得てして自分の人生何が起こるかわからない、


きっかけは、些細な事のはずだった。


何故か運命がその時決まったように、


中学3年生、高校受験の前日それは起きた。






葛城康介かつらぎこうすけ君、生徒手帳落としてたよ」


「あ、有り難うございます」


塾帰りに寄ったコンビニで落した生徒手帳を拾ってくれた女の子に俺は恋をした。


生徒手帳を受け取りながら指が少し触れただけでドキッとした。


(自分のことながら実に単純で情けないくらいチョロい)


「君も、明日、高校受験?お互い頑張ろうね」微笑みながら彼女は去っていった。


(なんで受験ってわかったんだろう。あっ生徒手帳に学校名と学年書いてあったか)


名前も知らないその子との出合いが僕の高校生活を大きく変えようとは、

その時、誰が想像しただろうか。



コンビニで買い物を済ませ外に出た僕は駐車場の方からさっきの彼女の声を聴いた


「やめてください」


見てみるとさっきの女の子を3人の男が下卑た笑みを浮かべて囲んでいる。


(あいつら高校生ぐらいか)嫌がっているのは間違いないので僕は助けに行く。


女の子と男たちの前に入ってちょっと強気に

「何してるんですか。この子嫌がってるじゃないですか」と言うと

「お前には関係ないだろ」「今から俺たちこの子と遊びに行くんだよ」


「ガキはさっさと帰って寝ろ」と怒気を含めて言いながら胸倉を掴まれた。


「ガキって、お前らもあまり変わんないだろ。さっさと帰って寝ろ!!」

売り言葉に買い言葉で口論していたのだが、ふと女の子が気になって


「今のうちに逃げて。んっ…いない?」


男達ともめている間に女の子は逃げたようで「ふぅ」と息を吐く。


男たちも女の子がいなくなったことに気づいて

胸倉を捕まえていたやつに突き飛ばされ僕は尻もちをついた。


「てめえのせいで逃げられたじゃないか!」「覚えてやがれ!!」

と定番の捨て台詞をはいて男たちは去っていった。


とりあえず帰るか。コンビニから家までは距離が近い。


なのでどうってことは無いがなんか居なくなったあの子のことが心配で

暫く、コンビニの駐車場で時間を潰していたが3月の半ばまだまだ寒い。


(何してんだろ、待っていても戻ってくることなんてないのに何を期待してんだろ)


「本当、馬鹿だな。あした、受験だし帰って寝るか」




次の日、高校受験。家から近いという理由で選んだ学校は徒歩10分。


それでも一応はこの地域では毎年、有名大学に合格者を出す進学校に名を連ねてる有名校らしい。当然、それなりに受験者がいて今年も定員の5倍の受験者がいる。


(メンタルは弱くはないがさすがにこの人数は…ってくらいいるんだよね)


昨日のこともあったので少し気が動揺していたが、『君も、明日高校受験?お互い頑張ろうね』って微笑んだ彼女の顔を思い出して、いつもの調子に戻った。





4月のはじめ、真新しい制服に身を包んで髪型を整える。


志望校に合格した僕は入学式に向けて準備をしていた。


いざ出陣なんて気合い入れたところでなんかある訳もなく

普通に通学 普通に学校に着いた。


クラス表を見て自分のクラスが1-Bと確認する。


教室に向かう途中で事件が起きた。


「おいっ!お前この前コンビニで俺たちの出会いのイベントを邪魔した奴じゃないか」


振り向けば2年の学年証を付けた見覚えのある3人がそこにいた。


1人がなれなれしく肩に腕をかけてきて


「同じ高校って運命感じるねぇ。楽しい学校生活できそうだわ」


「しかも新入生とか。礼儀作法、教えてやんないとな先輩として」


「お前、名前なんていうの?お友達リストにのせっからおしえてよ」


(最悪、なんでこいつらが同じ学校に居んだよ。)と思いつつ無視して逃げた。


幸い追いかけて来る様子もなかったのでB組の教室に入って自分の席に着いた。


体育館で入学式を終え教室に戻る途中

隣のA組の生徒の中にコンビニで見かけたあの子がいた。


(あの子も同じ学校って、運命の赤い糸っていうより神様の悪意とか?もう嫌な予感しかしないんですけど)


次の日、先輩たちが1年の教室に僕を探しに来た。


最悪なことに1-Aの教室にいたコンビニのあの子に気づいてしまった。


(1年生の中ではかなり可愛いので目立つ)


先輩たちはまるで友達のように誘っていたが、流石に教室内では誘えなかったのか悔しそうにしていたらしい。


隣(1-B)の教室で、お目当ての生徒を見つけて丁寧に名前まで調べて俺の席までやってきた。


「葛城君、昨日ぶり元気してた?」「葛城康介君、さっき隣の教室で彼女とお話してきたんだけどなんか冷たくってさぁ君から先輩には優しくするように言っといてよ」


「康介君、放課後、俺らが学校案内してやるから彼女連れておいでよ。校舎裏で待ってるから、か・な・ら・ず・来てね♡」そう言って3人は教室から出て行った。


(まともに話したこともない女の子を連れて行けるわけないじゃないか、ふざけんな!)



「葛城君、今の2年生だよな、お前何やったん?」「ねえねえ、隣の教室に彼女いるの?誰?誰?」「入学2日目で上級生に呼ばれるって何者?」「葛城康介恐るべし」「リア充撲滅!」「リア充爆発しろ‼」先輩のおかげで1-Bの有名人になった。


放課後、当然校舎裏に彼女を連れていけるわけもなく。


無視して帰っても後が、ややこしい気がするので行く事にした。


校舎裏に行くと誰が見てもイケメンと思われる男子が1人いたので、軽く挨拶だけ交わした。(互いに誰だこいつと思っているはず)



無言で待つのも退屈なので話しをすることにした。


「あの~、俺は、1年B組の葛城康介。君は?」


「えっと俺は、酒井藤四郎さかいとうしろう、1年C組。はじめまして」


「藤四郎ってすごい名前だね」


「よく言われる。みんなトーシって呼んでる」


「トーシか。っでトーシはなんでここに居んの?先輩に呼ばれたわけじゃないよね」


「なんで先輩に呼ばれんだよ。校舎裏って言えば告白っしょ!俺、中学の時から好きな子が居てさ、同じ高校合格したら絶対に告白しようと思ってたんだわ」


「おぉ青春してるね!応援するわ。がんばれぇ~」


「心こもってないなぁ」


二人で他愛もないことを話してると、後ろから声がした


「え~と」


二人同時に振り返ってみると1-Aのあの子がそこにいた。


(告白ってこの子にか)


「酒井君と葛城?君、二人共、私に何か用?」


(俺の名前覚えててくれたんだ)


「康介。ちょっとあっち行っててもらっていい?」「あっおう。がんばれよトーシ!!」


俺は、二人が見えないところまで行こうと立ち上がったところで、あの子に止められた。


「葛城康介君、この前はありがとう、それとごめんなさい。怖くなって逃げちゃって。今日、あの人たちが教室に来たんだよ。同じ学校って最悪だよね。また、声かけてくるのかな」本当に嫌そうに言うと「あっ私、A組の木野崎恋きのさきれん。よろしくね」


「俺はB組。あいつらは何とかするから心配すんな。じゃあな」


(何とかするとは言ったもののどうするかな?木野崎恋を連れて行くわけにいかないだろうし、とりあえず誠心誠意で謝るしかないかなぁ)


考え事をしながら、移動して校舎に戻ろうとしたところで先輩に見つかった。


「おいおい、待てもできないのか後輩」「でっ彼女どうしたよ、いねえじゃん」


俺は即行、土下座して「彼女に手を出さないでください。俺、なんでもしますから」

と懇切丁寧にお願いした。


その日から僕はいじめられっ子にジョブチェンジしていた。

(ついでに一人称が俺から僕にかわった)



校舎裏の一件からC組の酒井藤四郎ことトーシとは友達になった。


トーシの木野崎恋への告白だが「気になる人がいる」ってことで断られたらしい。


イケメンのトーシのことだからすぐに彼女ぐらい出来るだろう


それより、僕自身のことなんだが先輩が教室に乱入してきた時から“彼女持ち”ってことになっているらしい。


(他の男子からは紹介しろってうるさいのだが。偽の彼女どころか当の本人の了解さえ取ってない状態なのだが)


それからの日常はというと、先輩の命令で同じ部活、剣道部に入部させられ

昼休みは使いっぱしり、放課後の部活では集中稽古という名のいじめ。


休日に先輩のバイトの手伝いをさせられる事もあった。


先輩たちのせいでハードモードの高校生活を送ることとなったが、これも木野崎恋を守る為だ頑張ろう。


木野崎恋はというと何故か僕の行動を監視して要るっぽいので、先輩のとばっちりが行かない様になるべく知らないふりをしている。






1年間、先輩の生活指導という名のいじめに耐えた結果


部活の剣道は必要以上にしごかれたのが良かったのか、誰よりも強くなった。


日々の使いっパシリで足は速くなり、持久力も付いた。


先輩のバイトの手伝いはいつの間にか僕のほうが接客が上手くなり、人当たりもよくなった。


そのせいかどうか知らないけど、いつの間にか先輩はバイトを辞めてしまった。


なんだかんだと悪いことばかりでもなく高校2年になった。


クラス発表で僕は木野崎恋と同じ2-Aになった。


おまけに席がとなりという奇跡が重なった。


(流石に知らないふりは出来ないから話をすることにした)


「久しぶり木野崎さん。1年間同じクラスだね。よろしく」


「葛城君、こちらこそよろしく。それとありがとう!あの先輩たちから守ってくれて」

「いいよ、たいしたことしてないし、何やかんや楽しんでるから」


彼女と校舎裏以来の会話(ただの挨拶)をして、改めて顔を見たけど至近距離で見る彼女はすごく可愛かった。最近もよく告白されるらしいけど決まって「気になる人がいる」って断っているとか。


(誰だろう気になる人って気にはなるけど聞けないな)




クラスでの活動も慣れてきた頃、木野崎恋がいつもと違う調子で話しかけてきた。


「葛城君って、彼女いるって噂だけど本当?」突然、何言ってんだこいつって思ったけど顔が真剣でいつもの会話じゃないことは分かったので真剣に答える事にした。


「いないよ。その噂だけど、1年の時に先輩が木野崎の教室に来たことあっただろ。あの時、お前に誘い断られてから俺んとこ来て、その時に先輩が“彼女に先輩には優しくしろって言っとけ”って言ったのが事の始まり、つまり木野崎が俺の彼女って事になってるんだ。そもそもみんなの勘違いだな」

そう言って木野崎を見たら顔を真っ赤にしてわなわな震えていた。


「そんなに怒んなよ。みんなは誰が彼女かなんて知んないし、トーシにもそこまで言ってないから」


そこまで言うと木野崎は俯いたまま立ち上がって教室を出て行った。



(やっぱあの時もっと強く否定しとくべきだったかな木野崎にしたら好きでもない男が彼氏ってことになるもんな。後であやまらないとだな)




それから暫くして、教室に忘れ物をしたので部活前に教室に取りに戻ると木野崎と友達何人かで話している声がした。


教室に入りずらくなったので入口で聞き耳を立てていたら罰ゲームで嘘告をする。

その相手が僕だという事を聞いてしまった。


次の日、靴入れに手紙を見つけてこれが嘘告なんだなと悲しくなった。


そのまま朝練に行き部室で手紙を見たらやっぱり嘘告で

「放課後、校舎裏に来てください」と木野崎恋の名前が書いてあった。


その日、1日の授業は何をしたか覚えてない。


何度か、隣の木野崎を見ようとしたが泣きそうな気がして見れなかった。


それでも放課後、教室を出て校舎裏に向おうとしたけど先輩3人組につかまって

屋上に連れてこられた。


うちの学校の屋上は解放されているわけでもないが、誰かがカギを壊して自由に入れるようになっていた。


当然、安全柵なんて無い。


先輩の誰かが嘘告の手紙を見て僕を屋上に連れてきたらしい。


「お前、最近生意気じゃねえ」「調子乗ってんじゃねえぞ」

「あの手紙は何だよ、お前ばっかいい思いして」

今までのうっぷんが溜まってたのか口々に文句を言う。


「手紙は嘘告だ」と言っても信じてもらえず

逆に、お前のせいでレギュラーから外れたとか

バイト辞めさせられたとか、マネージャーもお前のことが好きだとか

散々、好き勝手言うし、こっちの言い分は聞かないしで終いに殴りかかって来たんだが場所が悪く屋上の端っこでこの下は“校舎裏″


僕は殴られた拍子に足を滑らせてそのまま落下してしまった。



人生の終わりはこうもあっさりしているものかと思った。


最後は、最悪なことに校舎裏で嘘告のために僕を待っていた木野崎さんの上に落ちる


瞬間、瞬間がコマ送りのように流れていく、何とか木野崎恋との衝突を避けたいと願ったら眩しい光に包まれて僕の思考は止まった。



………これで人生、終わった。






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