こじらせ性格度テスト




 ──あ、あの、も、申し訳ありません。怒らせるつもりなんてなかったのです。ただ、あの、母と年齢が近くて。それで……、わたくしみたいな女に、こんな事でかかわるなんて、コハルさまにとっては災難でしかなくて。ごめんなさい、ごめんなさい。本当にごめんなさい。どうか、許してください。


(もう気にしてないから。そんなことより気にしなきゃならないことが多いから、そこは瑣末なことよ)


 ──ほ、ほんとですか? そんな事をおっしゃって、実は心の奥で刀を研いでいらっしゃるとか。


(無駄に文学的ね。刀なんて研いでないわ)


 ──わたくしなんて川で死ぬ価値もなくて、溺れてはいけないとか、この魔境には、そんな掟とかあるんでしょうか。なぜ、あなたは、わたくしの中にいるんでしょうか?


 いや、そこ、やっと聞いた?

 それを説明できたら楽なんだけど。

 しかし、カグヤと言いそうになっただけで、息が止まりそうな強烈な痛みを心臓に感じた。あれは二度と味わいたくない。


(わたしも理解していないけど。目覚めたら、あなたの中にいたの。このことについては、これ以上、説明ができないわ)


 ──わたくしなんかの内に……、それは、本当に、もう、とてもとてもお気の毒です。


 なんだろう、このイライラ感。ものすごくイライラしてくる。


 そうか、カテリーナの話には、『わたくしなんか』というキーワードが常に入る。あの悪魔が言っていた。天神あまつかみカグヤは性格が弱いとか。

 たしかに、自己肯定感が低そうだが、弱いにも程がある。


 仮にも天神。

 本人に天神だった記憶はないだろうが、もとは神。こんなに人間臭くていいのだろうか。

 欠点丸出しの、いわゆるこじらせ女だなんて、どこでどう道をまちがえた。

 性格が弱いと美しい言葉で彩っているけど、これは……。


 ともかく、彼女は単純なことを複雑にして、更にややこしくする、いわゆる『こじらせ女』にちがいない。


 会話内に多用する『わたくしなんて』という言葉が、まさにその典型だ。


 自己防御体制を完璧に築きあげている。

 そこを矯正できれば、わたしは戻れるって、このミッション自体が無理じゃないか。

 人は性格を他人に言われて変えることなどできない。

 そもそも性格は、生まれもった遺伝子的要因とその後の育ちから成り立つものであって、長い時を経て、こじらせてきたこの天神が、今さら変われるなんて無理だろう。


 思わず、ため息がもれた。


 ──怒ってらっしゃるんですね……。わたくしなんかのせいで、ご、ごめんなさい。


 また、わたくしなんか……、か。


(ねぇ、カテリーナ。あなたが元気にならないと困るの)


 ──も、申し訳ありません! わたくしなんかのために、そんなご迷惑なことに巻き込まれたんですね。


(それでね、あなたの性格を知りたいから、わたしの質問に答えてくれる)


 ──あ、あの、そんな、うまくお答えできるでしょうか。むずかしい質問ですよね。わたくしなんかにできる……。


(ストップ! 黙れ! 今から、簡単な質問するから答えるだけよ)


 ──は、はい。あの、あの。


(自分のこと好き?)


 ──わたくしみたいな優柔不断で、何もできなくて、ご迷惑ばかりかける女なのに。自分のことなんて、どうやったら好きになれるのでしょうか? あのコハルさまだって、こんな女と一緒にいることに、内心ではうんざりなさっているでしょ、だって……。


 うっわ、好きか嫌いかと聞いただけで、なに、これ。

 同じ質問をわたしが答えるなら、そこは一言、「好き」で終わる。


 おおお、これは思った以上にこじらせてるかもしれない。まったく、あの神々とかいう変な人たち、とんでもない女を押し付けてくれたものだ。


(そういう時の返事は、「自分が好き」でいいのよ)


 ──だって、わたくしなんかが、そのような偉そうなことを言えるはずもございませんし。自分のことを好きになれなくて、きっと、わたくし、きっと、あなたにも嫌な思いをさせていますよね。


 この子、常に自分を責めているけど、実際は違うと気づいていない。これは単なる自己防衛本能なのだ。

 ま、いい。次の質問だ。


(何かプレゼントをもらったり、食事をご馳走してもらうのは好きか嫌いか?)


 ──とても恐縮で、申し訳なくって、ご馳走していただくと、申し訳なさに気分が落ち込んでしまいます。


(いやもう、スッキリ嫌いと言って。言葉がないわ。なにか得意なことはあるの?)


 ──わたくしに得意なものなんてございません。本当にゴミのような人間なんです。


 そこまで言うか。完全にイライラしてきた。


(自分をゴミ扱いにして楽しいの?)


 答えがない。

 自殺しようとしたのだから、かなり精神的に参っているのはわかる。

 そうか、わかった。まずはここからだ。


(いい、カテリーナ。不本意なのだけど、あなたの人生につきあうことになったのよ。で、あなたの選択肢はふたつよ)


 ──はい。


(わたしに服従するか。わたしに身体を預けて黙っているか。どちらを選ぶ?)


 ──あの、その選択肢、同じものに思えるのですけど。わたくし、頭が悪いのでしょうか。


(そうよね。わたしだって、この選択肢しか考えられないから、頭が痛いのよ。でも、あなたが愛しているフィヨルと、また出会えるようにしてあげるわ)


 先ほどまでどんよりしていた感情が上向きにあがってくるのを感じた。


 ──ほ、ほんとですか?


(二言はない。『道は全方向に開いている。わたしに解決できない厄介事はない』。これがわたしのモットーよ)


 ──お姉さま! お姉さまにこの身体をお預けします。どうか、あの方と再び会えますように。


 やっと、お姉さまに昇格かい。なんか単純で、本当にこの子、天神だったの?


(それで、ここの王と、すでにあんなことをした?)


 ──ぜったいに、していません!


 つまり、夫とを……、まだしてないのだ。

 これはつまり双方でする気もない。

 政略結婚さえ成立すれば王にとって問題ないのだろう。ここは、そんな女たちがいるハーレムなのか。



 

 (つづく)

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