第90話 生きてるって、俺に教えてみろ
どうやらアルギルを怒らせたらしい。しかし、嫉妬なのだと言われると、何かが身体を満たして嬉しさが込み上げてくる。
わ…私、どこかヘンなのかしら?
とにかく話題を変えることにしたロゼリアは、ずっと気になっていた事を聞いてみることにした。
それは、ザナが別れ際に言った最後の言葉。
『アザマがエルトサラに攻め入った理由…それはな、ロゼリア姫、そなたが原因なのだ』
ザナは確かにそう言った。それをアルギルは『言うな!!』と叫んで止めようとした。
アルギルは知っていたのだ。アザマがエルトサラに攻め入った理由を。
…知っていて、私に聞かせたくなかったの?
それなら、なおさら知っておきたい。
「聞かなかったほうが良かったと、後悔するかもしれないぞ? 今更聞いたところで、誰も生きて戻りはしない。それでも聞くか?」
「ええ、教えて。…なぜ、エルトサラが滅ぼされたのか。私は、知っておかなきゃいけないのだと思う」
真剣な顔でロゼリアはアルギルを見上げる。するとアルギルは渋りながらも話しだした。
「二十年近く前になるか…。エルトサラとアザマは協定を結んだ。互いに領土を広げるための戦争は起こさない。それがエルトサラとアザマの結んだ協定だった」
二十年前の戦争。ロゼリアは、まだ生まれてもいない。
それがどうして今回の戦争に至ったの?
なぜ、自分に関わりがあるの?
はやる気持ちを抑えて、じっとアルギルの言葉をまっていた。ただ色々な事を考えすぎて臆病になっていたのかもしれない。
言葉を探しながら話すアルギルは、ベッドの天蓋付から垂れ下がるレースをしっかりと閉め、ロゼリアの寝ていたベッドに潜り込んだ。
「ちょうど一年ほど前か…。子供がいないアザマの王は、養子をとることになったらしい。だが、自分の国から養子を取ればどこぞの貴族が…と何かとうるさい」
ザナは協定を結んだ他国の王家から養子縁組を考えた。諸刃の矢に立ったのが、ロゼリアだった。その美しさはアザマにも知れ渡る。光を編み上げたような金の髪。緑の大地に愛された彗眼。
ロゼリアを養子に迎えれば、アザマにとっても利益しかない。
「だが、おまえの国がおまえを手放すことを拒んだんだ。周辺国は、ザナ王が死ねばアザマが手に入ると思い、次々と戦を仕掛けていた時だ。彼女は自分が女であることで、国そのものを軽視する各国が許せなかったのだろう」
戦が絶えることがなく、ロゼリアの両親やロキセルトもそういった部分で余計にアザマへの養子を渋ったのかもしれない。
「…だから私の国を滅ぼしたと? だから、アザマは悪くないとでも!?」
「…いや、違う」
以前のロゼリアであれば、ザナに刃を向けた瞬間に、斬りつけていただろう。
エルトサラが落城したと聞いたあの時なら。でも今は、戦争というものがどんなものなのか知ってしまった。
アザマの城都に行き交う活気を知り、エレナと知り合い、アザマ城の美しさも知った。
だからあの時のロゼリアは、ザナの首筋にあてた刃をとどめた。
コーエンの存在も大きかったのだと思う。
「アザマから…ザナ陛下からは、何か言って来ていますか?」
「ああ。だが、それは明日、ジョナサンを交えてゆっくりと話そう…。今は、おまえの無事を確認させてくれ」
「…わかりました」
素直に頷いたロゼリアに、今度はアルギルが驚いた。
「…意味がわかって言っているのか?」
暗闇の中でも目を眇めたとわかるアルギルの前で、ロゼリアは改めて座り直す。まるでこれから初夜の儀式でも始めるかのように、ベッドの上で手をついたロゼリアは、アルギルに向かって頭を下げた。
「お礼が遅くなりました。アルギル王子、いえ、ルーゼルの国王陛下。私をアザマの城まで助けに来てくれて、ありがとうございました。アザマ城から出たあと、私はよく覚えていないのですが…足手まといになっていませんでしたか?」
「…いや、なってない。それで、これはなんの真似だ?」
「えーと、正式なお礼のつもりなのですが…。無事を確認って、私は他に、何をすれば良いのですか?」
「はあ、やっぱりわかっていないんだな。ベッドの上で、何をすればいいかなんて…俺以外の男に言ったら、縛り付けて二度と外へは出さないぞ」
「なっ。言いませんよ!」
「じゃあ、おまえが生きてるって、俺に教えてみろ」
「うっ」
…生きてる?
お礼を言っただけじゃ、ダメなの?
何をすればいいかなんて、ロゼリアにわかるわけが無い。
…ダンスを踊って見せるとか、剣を振って見せるとかでは…ないわよね?
色恋沙汰には自信がないロゼリアだったが、精一杯考えて、それがどんなに破廉恥なことでも、他に方法がなければやるしかないと諦める。
…心配をかけたのは確かなのよ。
勇気、勇気!
「えい!」
一声、気合いを入れたロゼリアは、アルギルの頭を自分の胸に抱え込んだ。
「っ」
驚いたアルギルの耳に、確かにロゼリアの心臓が鼓動をうっているのがわかる
そう。ロゼリアの決死の勇気は、ただたんに心臓の音を聞かせるためだったのだが…。
ふにゃと柔らかな胸に顔をうずめたアルギルは、そのままの状態で、身体の熱を吐き出すようにため息をつく。
「まったく、おまえは…どこまで俺を振り回せば気が済むんだ」
ここまでお読みくださった 読者の方々へ
気がつけばこの回で90話!
お話を追いかけてくださる方がいるから、書き続けることができました。
本当にありがとうございます!
次回は少し甘いお話になりました。
『おまえは俺の心を掻き乱す天才』
どうぞよろしくお願いします。
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