第15話 関係者

 たぬきの食の判断に困っていたら声をかけられた。


 ついでに結界と姿消しの魔道具がバキバキに割れた。まあ、うん、もう少し強い素材で作り直そう。


 振り返れば、狼くんを従えた魔人。


 背はそう高くない、というか13、14の少年くらいの姿、ただし立居振る舞いが落ち着いてるので、見た目だけで中身はたぶん歳がいってる。魔道具がキャパを超えて壊れたということは、結構な強さ。


 もしや、ユウヒとかいう奴か? 


 どうしよう。五年間人が来ないような場所を選んだつもりだったのに。いや、魔人なら別にいいのか? 土地の所有権なんてどう考えても気にしないよな? 狼くん、変なの連れてこないで。


 というかなんでここに戻ってこられたんだ? あ、たぬきか! たぬきを目印にしたな!? 従魔の首輪、そう強いものではなかったので――まだ移動のため以外に従魔を持つつもりがなかったので、適当だったともいう。


 具体的には、首輪をとった後に俺のことは探せなくしたけど、他は対象外ですね!


 いやでも足と人手ゲットのチャンス? 従魔の首輪ないんですけど。5日後くらいに出直さない? ダメ?


「見つけたぞ、ユウヒ!」


 とか思ってたらまた余計なのが来た! 白い鎧にプラチナブロンドを後ろで一本に結んでいる。なんというか白馬の騎士様みたいな男。


 ――声とともに斬撃が俺の方に来たんですよ。酷くない? 避けたけど。


 避けたけどね? 後ろにあった1番状態の良かった古民家がですね?


「く……っ、アサヒ!」

魔人と狼が臨戦態勢に入る。


 アサヒ、アサヒって勇者だよな? 勇者ってことは人間だな? 五年どころか2日目で人に遭遇するってひどくない? まだ整地しかしてない。


「俺の理想の戸建て計画が……」

ひどい。


「戸建て……?」

「戸建て……?」


 魔人と勇者がお互い相手から目を離さないまま、疑問の声を投げてくる。いいんですよ、俺のことは気にしなくて。


 そっちで勝手に戦っていっそ共倒れになってくれれば。狼くんは引き受けるから。


 装備は剥ぎますよ? 古民家代がわりに。魔素をたっぷり吸った素材は馬鹿高いんですからね? 俺も拾っただけだけど。


 勇者アサヒは二十歳前くらいの青年、金髪に翠の瞳、服装の乱れは許しません系のイケメン。魔王ユウヒは――双子だと聞いたが年齢差あるな? まあ、魔素につかってるうちに容姿が変わったんだろう。


 それにしても勇者のほう、なんか見覚えがあるような……? 冒険者ギルドのポスターの印象か? 絵だったが。――絵? 何か引っかかるな。


「どういう経緯でここにいるのか知りませんが、退いてください。私がユウヒを倒した後はお好きに」


 勇者は丁寧に話してくるが、路傍の石くらいにしか思われてなさそうな気配を感じる。


「この魔素の溢れた中でずいぶんと余裕が。貴方も先日の戦いで負傷しているのは承知ですよ」


 勇者に薄く笑って答える魔人。


「あ。終わった後、この土地自由にしていいなら大人しく見てます」

路傍の石扱いだろうと、好きにしていい言質をくれたのでいいとする。


 俺がせっせと整地して平らにした場所が掘り返されそうだけど、戻すのは大した手間じゃないし。魔素にあふれたこの地の景観は、すぐに戻るはず。


 たぬきを回収して、魔人と狼、勇者から離れる。古民家仕舞ったらさすがに目立つかな。諦めるか。


「待て」

「お待ちなさい」


 ん?

 

 おっと、狼くんが回り込んできた。安全地帯まで乗せてってくれる――わけではなさそうだな?


「貴様、人間のようだがユウヒを連れて逃げる気か!」

「我が主人をどこへ連れて行こうと言うのです!」


 ……。


「魔王たぬき? え、お前丸いくせに魔王なのか?」


 ちょっと魔素の影響があるとはいえ、あのイケメン勇者と双子でたぬき!? 魔王名乗ってるのお前? 丸いのに?


 たぬきと魔人と勇者を交互に見る俺。


「このたぬきが魔王のユウヒ? たぬき、いっぱいいるだろう?」

ただのたぬきという線はないか? 


「ユウヒ様の気配、このカサネが間違えるはずがありません」

「私のつけた傷、私自身の気配を追って至った場所、間違いはない」


 自信満々の二人。カサネは丁寧語キャラだが、勇者の方は違うな? 使い分けしとる。


「もうたぬきでいいんじゃないか? たぬきならあんまり迷惑かけないだろうし」

せっかく一晩癒したのに。


「いい。下がっていろ」


 たぬきが口をきいた!? 


 びっくりしている間に簀巻きから抜け出し、姿を変えるたぬき。二十歳前後の青年になった。


「たぬきが化けた!?」

人型になれたのお前!?


「……」


 無言のたぬきの頭に、ひらりと一葉の大きな欅の葉が落ちる。化けるのに葉っぱが必要なんだな、たぬき。


 薄いウォームグレイっぽい色の髪、オレンジ色の瞳、チョコレート色の肌――たぬきのなごりを感じる配色。でもたぬき、その姿は詐欺じゃない?


 アサヒの結んだ髪をといて、ワイルドにしたような姿。白に黒、対のような二人が対峙し――


「って。お前ら、聖女の関係者か。そのイラスト、見覚えがあるぞ?」

俺の魔王の姿と同じく、2人とも小説のイラストからとった姿である。絶対そう。


「イラスト……?」

「聖女……?」


 睨み合ったまま俺の言葉に反応する。結構付き合いいいな?


「聖女じゃわからんか。お前ら、有栖川ありすがわ瑠依るいの関係者だな?」


「瑠依を知っている……?」

眉根を寄せるたぬ……ユウヒ。


「この私が知らない、瑠依の知り合い……?」

プライドかなんかを刺激されてるっぽいアサヒ。


 ちょっとストーカーっぽいんですけど。

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