第14話 罠を張る

 翌日。


 たぬき起きた。


「たぬき、大丈夫そうか?」

弱いとはいえ癒しをほぼ一晩中かけといたんで、悪化してるってことはないと思うが。


「……」

すごい不機嫌そうに俺を見上げるたぬき。


 暴れることは体調と従魔の首輪的にできないぞ。というか、眠いのか? 寝てていいぞ。


 とりあえず邪魔にならないところにタオルで簀巻きにしたたぬきを運ぶ。枕元(?)に水の入った器を置く。


 たぬきの餌ってなんだ? 雑食? いや、コイツ魔物か、ここの魔素でいいのか? 泥に突っ込んでたのも魔素が濃いところだったからだな。


 さて、まず家の確認。


 壁は落ちてるのは塗料が混じった砂壁かな? 白い漆喰は残っている。白いというか、シミつきのくすんだ何かだが。


 畳も残ってるがしらっちゃけて毛羽立ってるし、何かの焦げ跡もある。


 台所だったポイ所は色々ごっそりない。床もたぶんフローリングシートとかだったのかな? まあ、ない。


 床がないとこは板張りに変えて、壁も塗り直しかなあ。畳も変えたい。


 とりあえず足りない素材確保のため、壊れ気味な古民家を出して分解する。分解する――って、壊すとか切るとかならともかく、無理じゃないか? 力はあるから、時間をかければできるけど。


 労働はなるべくしたくない。


 これは魔物を捕まえて、使い魔になってもらうのが先か。その前に従魔の首輪をつくらないと。……足りない素材集めからか。不足してるのは、魔物を倒して手に入れる系なんだよな。


 まずは魔物を倒す罠を作って――設置しに行く足がない。この山奥で手伝いがいないのはなかなかキツイ。たぬきは本調子じゃないし、手足短いし。


 困ります。


 ……予定外に魔道具を使ってしまったのだから仕方ない。たぬきだし。


 諦めて働くことにする俺。やればまあできてしまうから来たんですよ。やりたくないけど。


 まずやるべきことはなんだ? ――目的はここに住める家を作って、移動用の魔道具を設置すること。移動先――町に対となる魔道具を設置すること。


 とりあえず家はあれだ。昨日に引き続き古民家の状態がいいのが仮住まいでよしとする。移動用の魔道具はある。


 問題は町に戻る足である。たぬき、足短いし、俺を乗せられない。


 やっぱり従魔の首輪がネックだな。首輪なだけに。


 魔物の討伐か。倒すほうは元々今ある道具と素材で、罠を作るつもりだったんでいいんだが。従魔の首輪の素材になる魔物が近隣にいるかどうか謎。


 仕掛けといて古民家の手入れしながら気長に待つか。


 アリサから餞別にもらった調剤道具で、魔物寄せと混乱薬を作る。混乱薬は簡単、というか多種多様な素材が揃ってる。魔素の溢れる地は、やばい草が多い。


 魔物寄せも作るのは簡単。だがしかし、魔物が寄ってきてしまうので、場所を選ぶ。結界の魔道具は置いてあるけど、魔物寄せは魔素の濃いこの辺りで採取した素材で作るもの、やばいことこの上ない。


 なので途中まで作り、2つを合わせると効果を発揮するよう調整した。付与者としては優秀なんですよ、働きたくないけど。


 ――さて、問題はたぬきだ。


「たぬき、どうする? 俺と来た方が安全だけど、揺れると痛い? 結界内ここで待ってる?」

たぬきに意思確認、鞄を開いて近くに置く。


 結界の魔道具は俺が離れても動いてるが、とても力が弱る。魔物は魔物同士も戦うというか、種類によっては殺し合うので見つかると危ない。


 一緒に連れ歩いて、姿消しの効果内にくっついていたほうが安全なんだが、どう考えても移動は揺れる。狼君は大きかったからあれだが、たぬきというか鞄くらいは範囲内だ。


 億劫そうにのそのそと動き、鞄に顔を突っ込んだところで動きが止まった。たぬき、最小限しか動かない。


 抱き上げてタオルで包み直して鞄にイン。


 たぬきに回復をかけながら歩く。魔素に満ち満ちているのに周囲は綺麗な風景だ。とりあえず、往復して昼には戻れる時間歩いて、良さげな場所を探す。


 薬の匂いがある程度溜まるよう、浅い谷や窪地のような場所を選択。その中で動物が登れるような地点を探す。


 魔物は身体能力が高くなってるんで、別に急勾配でも登れるんだろうけど、なんとなく。


 魔物寄せを調合して窪みに設置。うっすら霧のようなものが出始めたところで、窪みから出る。


「たぬきも危ないから近づかないようにな」

嗅いでしまうと匂いの濃い発生源に惹かれて近づいてしまう。


 霧のようなものが広がる速度がどんどん速くなり、窪地を満たす。魔物寄せは窪みからはみ出して漂うほどに。重たい煙の如きもので、低い方へ流れていく。


 それを見届けて、窪地に混乱薬を投げ入れて罠の完成。同士討ちに期待です。家の建設予定地には来るなよ〜。


 建設予定地に帰る途中、小川が流れている土手で野蒜のびるを見つける。たぬきはもっさり冬毛だが、この辺りは春から夏に向かう途中のようだ。


 たぬきに水を飲ませて休憩。座ったまま手の届く範囲の野蒜を引っこ抜く。柔らかな少し湿った土は、たやすく野蒜を手放す。


 ……味噌醤油、塩は持ってきたんだが酢はないぞ? 野蒜って酢味噌で食う以外はどうするんだ? 天ぷらも油が足りないぞ? 葱っぽいから炒めてもいけるんだろうか?


 とりあえず収穫はしたものの、疑問だらけのまま持ち帰る。途中、魔物を何匹か見かけたが、特に問題なく帰宅。


 野蒜は流れで洗ってきたが、魔素は抜けていない。【付与者】の能力で野蒜の魔力を抜……かなくていいか。この程度の魔素、俺は平気だった。平気というか最初から魔王ですが。


 味噌味の豚バラの缶詰を開けて野蒜と炒める。黒い実も食うけど、他のものも食いたいんですよ!!! 


 うむ。缶詰だけだとちょっとしつこかった味がいい感じになった。


 たぬきが少しだけ顔を上げる。


「たぬきも食うか? というか食っていいのか? 魔物だから平気?」

たぬきの自己判断で大丈夫か? ダメ?


「そなた、何者だ?」


 いきなりの第三者の声。

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