第11話 英雄の町
ここは名前の売れてる勇者の町。魔王を名乗る魔人と対峙している英雄でもある。白のデネブとは俺のことだ! な、英雄がいる。いや、一人称が俺かどうかは知らんが。
なお、魔王は黒のシリウス。一番有名な二人らしいが、当然ながら俺は知らん。
英雄の町は何となく避けたい気がするので、朝一でさっさと町を出るつもりが、魔法陣のある部屋から出るのに手間取った。町中に出る許可がなかなかおりなくてですね。
あやしくないよ! ただの魔王だよ!
「何か忙しそうですね」
「少し前に勇者アサヒ様と魔王ユウヒの戦闘があったんで、バタバタしてるんですよ。今回は勇者アサヒ様の優勢で終わったんですが、後処理で人手をとられていて」
だ、そうだ。
毎度、魔人の領域と町の中間地くらいで戦闘が繰り返されとるらしい。元々双子の兄弟で、お互い譲る気がなく頻繁に戦闘をする――他の英雄と魔王は地力をつける期間というか下っ端同士だけの小競り合い期間が割とあるらしいのだが、この二人は勇者と魔王単独一騎打ちみたいなことが多いと聞いた。
どっちも200年前に目覚めて、200年間戦っているらしい。種族は知らんが、長寿タイプのようだ。
もちろん下っ端同士の戦闘もあるが、ここの魔人は単独行動が好きで、付き従っている魔物はあまり統率がとれていないらしい。ある意味平和? よく分からんが。
道具屋のある町や昨日の町は、昭和初期の銀座や神戸みたいな和洋折衷の街並みだったのだが、ここは完全に洋風。高い壁が取り囲んでるし、城塞都市というやつか?
結局ここに一泊することにする。適当な魔物に首輪をつけて、一時的に乗り物になってもらう予定だったのだが、魔道具――従魔にするための首輪がたぶん2日くらいもてばいい方なんで、夜になる前にたくさん回りたい。夜はちゃんと寝たいし。
宿を確保して、町をぶらぶらする。
高い塀に囲まれた城塞都市なせいか、そう広くはないっぽい。かといって端から端まですぐに移動できるというほどでもなく、路面電車か車が欲しくなる程度には広い。
馬なんですけどね、移動。ここの勇者の趣味なのかと思ったんだが、魔物を阻む結界やらなにやらがあるので、それを遮ったり不安定にしたりと影響を与える魔道具の使用は却下らしい。
雰囲気は少しものものしいか? ここに住むのは、勇者を慕う者たちとその家族がほとんどだ。ついでに魔素も濃い目なので、自身を鍛えることに前向きな人々っぽい。
やたら溌剌としてない? 気のせい?
勇者が何人かの付与者と造った町で、勇者の考えが前面に出ている。デネブが白鳥座にあるせいか白鳥のマークがあちこちにあり、町の造りはなんか几帳面さが滲み出てる気がして、俺はあまり長居したくない感じ。だらだらできなさそう。
魔人の拠点とは距離があるので、あまり実感がわかんが、人VS魔人の最前線の一つ。実感がわかない理由としては、基本的に怪我が『回復薬』で治ってしまうこともあるだろう。
もちろんもっと大きな被害を受けた後ならば、町全体が沈んでいたりするのだろうが、今のところ沈んだ空気は感じられない。今回は勇者のほうが優勢だったって言ってたしな。
門の前に広場があって、噴水があって、尖塔はないけど城はある。路地は綺麗だったが、広場は少し汚い。何かと思えば、ここに戦える者たちが昨夜待機してたそうで掃除前。
いつもは露店でにぎわってるそうです、おのれ……っ!
一応、冒険者ギルドを覗いてみるか。特にやることもないので、どんな雰囲気なのか見に行く。
大抵の町には冒険者ギルドと呼ばれる【聖痕】持ちが集う組織がある。戦闘を伴う何でも屋の集まりで、道具屋のある町では依頼は住人が持ち込んで、素材採取や田畑の近辺をうろつく魔物退治が主な仕事だった。
たまに付与師向けの依頼もあったが、物を作る方はそう多くはない。個人に依頼するのではなく、企業や店に普通に注文する。よほど特殊な一点ものに近い道具の生産なら別だが。
冒険者ギルドは、最初こそ政府が関わっていたが今は独立している。現在は政府より個々の地方機関の方が力をつけている。なぜなら魔素のおかげで地方色豊かすぎて、画一的に対処が難しいから。
『実力があれば、白のデネブ勇者アサヒ様のおそばに!? 城で働く人材を募集』
この冒険者ギルドは勇者というか、町の為政者というかの影響を受けている様子。そのうち勇者アサヒのポスターとかバシバシに張り出しそう。
依頼も城からのものが多い。魔物との戦闘が多いので、戦いに参加して稼ぐ者や、素材を買い付けにくる者がいるようで、人の出入りは多いようだ。
どれ、俺も素材を見てみよう。
……冒険者ギルドで素材を扱っているのかと思ったが、そうではなかった。
魔人と魔物と戦ってるなら、道具屋のあった町よりいい素材があるんじゃないかと期待したのに、ほとんどの素材は一回城に運び込まれ買い上げられるらしい。
「魔王や魔物との戦いに必要なものを確保して、それ以外が売りに出されます。魔素が強い物は、城で使える状態にしてから、ですね」
ギルドの受付嬢が教えてくれる。
「私は【付与者】なので、自分で付与したいんだが」
「それですと、素材が入った時点で申し入れをしておくんですよ。今まさにその作業中だと思いますよ。――ただ、住人でない方ですと強い素材を手に入れるのは難しいかと思います」
見るだけは見られるとのことなので、教えてもらった城の東城門前に向かう。
城門前には広い道があり、その左右に倒された魔物が並んでいる。数はそれほどではない。討伐された魔物がこの数なのか、必要な物は城に運び込まれた後なのか、どっちだかわからん。
強さはそれなりだが、ぽろりする魔素の濃い部位はどこだ? ――ないな、城に運び込まれた後か。
魔物まるまるの加工は明日出て行く旅人には無理だ。町中で空間魔法を使い始めるというのも、色々問題ありだし。魔素を吸ったり、珍しい魔法なんで絡まれたり。特に【英雄】様に絡まれるのは最悪なので、自重。
ぽろりした部位なら持ち歩けると思ったんだが。少々がっかりして、その後は冷やかしただけで宿に戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます