第8話 候補地決定

「ザッハは一周回って近年はゲテモノが多いって聞くわよ?」

「あそこは珍味だねぇ。ごくたまに行って食べる方がいいんじゃないかい? 毎日食べるとなるとちょっとね……」


 第一候補、ダメ。


「ダリムは?」

「魔牛の料理は絶品だが――アンタ、獣の臭いに耐えられるかい?」

「ああ。あそこ、解体場所が町の中にも外にもあちこちあって、周辺が臭うのよね」


 第二候補、ダメ。


「京都、金沢――でも日本名がつく市内は大抵人の出入りに厳しい。無難なのはラーダかな?」

「そこそこの発展していて、そこそこの素材も集まる町ね?」

「満遍なく集まるからね、暮らすにはいい町のようだよ。中心地はここより発展してるし」


 二人の中で合意したらしい雰囲気。


「なるほど、ラーダですね」

心の中でメモを取る。


 町に持つ家はラーダが第一候補。


「町の管理者は冒険者ギルドと議会が共同でやってるから、魔物に町が襲われるような時は別として、何か義務があるってこともなかったはずだよ」

マディが言う。


 町によっては役務提供の義務がある。普段の警戒、戦闘への強制参加、【付与者】の場合は『回復薬』や魔道具の納入が多い。


 町は冒険者ギルドや議会――政府関連だったり、市民から選ばれた人たち――が管理していることがほとんどだが、個人で町を持っている場合もある。


 個人で町を持つ者は大抵強い【聖痕】持ち。特に魔人と戦う【英雄】と呼ばれる者たちだ。


 【英雄】の元に人々が集まり、同じ目的を持って町を造っている。一攫千金的要素と、「壊れなければ」の但し書きがつくものの、魔素も素材も豊富での快適ライフで集う者は多いらしい。


 同じ目的に向かって全員で邁進するのはやりがいもありそうだが、俺の趣味じゃない。面倒くさそう。


 ところでこの世界、魔王が複数存在している。黒のシリウス、黒のカノープス、黒のリギル、黒のアルクトゥールス――一等星の名前を持つ11人が有名どころ。ちなみに一等星は21で、残りは白のポルックスとか【英雄】が名乗ってる。


 7つの大罪名乗ってるのもいるらしいんだけどね? なにせ聖女がハマっていた小説によく出てきてたのが星の名前だったからね? 星の名前カッコいいムーブが蔓延している世界なんだけど、どうしたらいい?


 21個言えないと九九の八の段言えない子みたいな扱いされるんだけど。


 ついでにどう考えても自称魔王なんだけどね? 魔人の強いのが、魔王と名乗っている、もしくはそう呼ばれているそうです。魔王がいる世の中、コワイネー(棒)。


「町に出入りして、気の合う【勇者】や【魔法使い】を見つけて、素材の採取を依頼するのもありだな。ああ、【補助魔法使い】として魔素深い土地に行くと言うのもありだよ」


「戦闘はパス。素材はギルドから買うつもりだったけれど、直接依頼もありか」

「お互い気に入ったら専属になるのもありだよ」


 対人スキル自信ないです、と陽キャっぽいマディに心の中で言う。


「君は倉庫をもらうのかい?」

マディが俺を見る。


「いや、いっぱいだろう?」

俺はアリサを見る。


 道具屋の建物は強力な付与がかけられている。先先代の道具屋の主人が自分と知り合いの【付与者】とで造ったものらしい。


 魔物と最初から害意を持つ者を避ける結界、ほんのちょっと扱う魔道具にふさわしい者を寄せる効果。そして、建物の外から見た広さに似合わぬ部屋数。具体的には倉庫の扉を開け閉めすると、十の部屋とつながる。


 アリサも【付与者】として力を持つ方なのだが、この魔道具である『道具屋』を維持するために力を注いでおり、出かけることも、自分で他の魔道具を造ることも滅多にない。


 で、マディが言う倉庫は、その開け閉めすると部屋が変わる場所のこと。1部屋めは普通の広い倉庫、2部屋目以降は一畳ほどの広さで棚があり、奥の床に魔法陣が描いてある。


 この魔法陣に対応した魔道具を使うことによって、魔法陣の上に外から移動できる。マディも道具屋の入り口から入って来たのではなく、倉庫から出て来たのだ。


「コンテン老師が拾って来るから、倉庫はいっぱいなのよ。マディでもセンツイでもいいから、早く移動の魔道具を作ってちょうだい」

アリサがため息混じりに言う。


 実は移動の付与はすでに覚えた。アリサが素材を集めてくれていたので、魔道具としても一つはできている。が、それは魔素溢れた家から町の家に移動するためのもの。もう一つ魔道具を作るには、自力で素材を集めねばならない。


 寄るべない身の上、アリサを始めここに来るだろうコンテン老師たちとの関わりを切りたくはないので、頑張るつもりだ。


 しかし、アリサでさえ素材を集めるのに一年かかっている。俺がツテのない状態で集めるのに、どれくらいの時間がかかるか謎だ。


 俺が倉庫をもらえないのは、すでに移動の魔道具を作れるからもあるんじゃないかな? 多分、きっと。違ったら先着順とはいえ、ちょっと寂しいぞ。


「僕からも選別をやろう。あとで預けておくからアリサからうけとるがいい!」

「ありがとう」

割といいやつである。


 ちょっと相談したら、近日中にこの町を出ていくことが確定してしまったようだが。


 どうもこの町の魔素がちょっと不安定なようだ。アリサはいつ町に影響が出るのかドキドキしていたっぽい。


 ちなみに町への影響は、魔道具の不具合から始まる。魔素不足による人の不調に気づくのは少しかかるらしい。人間は少しくらい足らなくても動けるけど、魔道具は規定量の魔素に足りないと、すぐに止まる。


 貯めておける量にある程度遊びがある魔道具ならともかく、毎日補充が必要な魔道具の類は、やばいらしい。具体的なところで、路面電車が途中で止まる可能性があるそうだ。


 それは確かにどきどきする。


 そう言うわけで、準備不足なままだがさっさと出発――は、明日だな。今日は帰ってごろごろします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る