第7話 土地の条件

 マディにガン無視される理由、俺が何かしたのではなく、単にマディがアリサに惚れているだけだ。アリサは一人暮らしだし、俺がこの道具屋に頻繁に出入りしているのが嫌なようだ。


 客や仕事相手として会っているだけならともかく、右も左もわからん男が生活自体を頼ってるようなもんだからな。


 マディ自身も過去に同じ保護を受けていたせいか、嫌だとか出ていけなど口にしない程度の気遣いはあったので、俺の方にそう悪い印象はない。


 あまり他人に興味がないとも言う。


「センツイ、何を聞きたいの?」

会話を戻すアリサ。


 ちなみにアリサのマディへの評価は、「世話焼きで落ち着きがない」だ。無視しつつも後輩である俺のことは気に掛けているそうで――道具屋でやたら会うのはそのせいでもあるらしい。


 複雑すぎるだろう男心。いいんですよ、様子見しに来なくて。


「今って、家というか土地の売買ってどうなっているんですか?」


 不動産屋があることは知っているので、町の家の買い方は学んだ。が、魔素溢れる土地ってどうなんだ?


「おお、君もようやくアリサから離れる気になったか! さっさと遠くに越したまえ!」

ものすごく嬉しそうな顔でマディ。


「力のある【付与者】のパターンは2つ。町の外に家を構える、ある程度力を持つ管理者のいる町に家を構える、だね。魔素が濃い素材を扱うならそうなる」


 それはアリサから聞いた。


 管理者というのは町長だったり領主だったり、冒険者ギルドだったり。一応、日本政府も存在を残しているけれど、魔物や魔人が襲ってくる世の中で、直ぐに対応できるよう自治色が強くなっている。


 魔素がないと強くなれないが、強すぎる魔素は取り込めないというか取り込むと魔人化する。町の住人は弱い。


 まるきり無いと、今度は『回復薬』や、魔道具がうまく効果を発しない。在っても無くても困るのが魔素だ。


 強い素材を置いておくだけでも魔素は広まるし、生産工程のロスでも周囲に散る。あまりそれを繰り返すと、小さな魔素溜まりができてしまい、魔物が生まれることもある。


 割と強めの素材を使うが、『回復薬』は住人にとってもありがたい物なことと、さっさと作って製品――『よきもの』にしてしまえるので、苦情らしいものは受けなかった。


 そのあたりの機微は俺にはまだよくわからんけども、そういうことも考えてアリサは俺に素材を回していたのだろうと、今思い至った。


 ついでに俺の場合、【聖痕】が強力で、周囲に拡散された魔素は無意識に吸ってしまうので、逆に魔素を吸いすぎてしまう危険が危ないので一番先にアリサに忠告を受けている。


 が、俺がそこまでだとは目の前のこの男も、町の住人も知らない。バレるとやばそうなので黙っている。


 強くしすぎたんですよ! いやでも、抑えているとはいえ魔王としても集めてしまいがちなんで、どうしようもないんですけどね! 魔素の放出もするけど人間によくないタイプだからね!


 魔王だし!


「この町は道具屋ここやギルドに持ち込まれる素材で、許容は新しく力の強い【付与者】が色々始めるには条件が悪い。魔素を漏らさない結界もあるが、周囲の思い込みや不安からの悪意はバカにできないよ」

マディが真面目な顔で言う。


 もしかしたら本人が言った同じ理由で、アリサのいるこの町から離れたのかもしれない。コンテン老子がまた【付与者】を連れてくるかもしれず、周囲への影響が大きい者が居座るのはよくない。


 ――何の準備もなく魔王がいるのもよくないですね、はい。なので早急に魔素の溢れる山奥に引っ込む所存。


「僕は城に部屋を頂いているけど、在野の【付与者】は程よく街から離れた場所に一軒家を構えている。従魔を使うならなおさらだ」


 マディが言う従魔は、人に従属する付与を施した魔道具をつけた魔物のこと。移動用の馬の魔物とか、手紙を運ぶ魔鳥など色々いる。魔物の種類で使役獣や使い魔と呼ばれることもある。


 【付与者】は薬草を育てたり、何かを作るための下準備をさせるため、人型に近い魔物を従魔とすることが多い。


 馬や鳥と違い知能も比較的高いことが多く、もし使役のための魔道具がとれたら? など、町の住人が不安がることがあるらしい。


「城に勤めるには、実績が足りないし、町の外を勧めておくよ」


 引っ越しを匂わせたことで、マディからその微妙な気遣いはなくなったようだが、代わりに本来の世話焼きな面が顔を覗かせたようだ。無視から一転、たくさん喋っている。


 マディから言われるまでもなく、すでにアリサから外を勧められている。それに城勤めなんてどう考えても面倒だし、選択肢にない。まあ、マディの言う外は、魔素溢れる地のことではなく、町からほどよく離れた場所のことだろうけど。


 だが、従魔に働かせてごろごろする生活いいな。魔素とかご飯ははずむんでぜひ。


「外は、建てて五年の間苦情が出なければその人の物。住人が薪を拾いにくる範囲より、もう少し離れておくことね。魔物避けの付与ができればタダよ」

アリサが笑う。


 なるほど。魔物がいるような土地は、管理できるものの土地になるのかと、大雑把な理解をする。


 整備した後に、そこを拠点に管理するから寄越せとか言い出されるのは嫌なので、人が近づくには難所がいいかな。


「この町の傍はやめておいた方がいい。割と魔素溜まりが発生していないかの調査がマメで、そういう意味では面倒なのだ。僕もそれで引っ越してる」


 経験者は語る。


「食材が豊富で飯が美味い町ってどこです? 一応調べたんですが、ザッハですか?」

この町で毎度の外食は飽きた。


 外食はどうしても手に入りやすい肉が中心になる。野生化した豚や牛の魔物、猪の魔物、鹿の魔物の肉など結構バラエティ豊か。だが肉だ。


 普通の豚肉ならいけたかもしれないが、やはりどこか獣臭くてそれぞれ癖がある。強い魔物の肉は美味しいそうなんだけどね? 


 強い魔物は、皮やら牙やらの素材ごと、一般の流通に乗る前に大抵誰かが買い上げてしまう。回ってくるのは稀だ。


 野菜類は保存がしやすいものが多く、豆や芋類が幅をきかせている。冷蔵庫もあるんだが、一般家庭というか大衆食堂にまで普及していない。


 飯屋のメニューが種類が豊富で美味しければ! もしくは自炊をさせてくれ。いざとなったら野菜だって作る所存!

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