3 社長の日課

商談が終わるのを待ちながら、来客対応をしていた間に溜まっていた今日の分の仕事と書類整理を進める。


「本郷さん、こちらの書類もお願いしていいですか?今日は社長に目を通していただかなくちゃいけない案件が多くて…」

「畏まりました。私の方で仕分けしておきますね」


事務職員によって新しく持ち込まれた書類を含め、社長室に溜まっていた書類に目を通し、社長が目を通しやすいように仕分けするところまでを終えた。

社長は1時間程度で商談が終わるだろうという見立てだったから、商談が終わるタイミングで新しいお茶をお出しするようにしておきたい。

俺はそろそろ1時間経つかという頃、2人分のお茶と和菓子を準備し会議室の戸を叩いた。

中から返事がして戸を開けると、顔を挙げた社長と目が合う。

どうやら話は済んでいたらしく、右手を挙げて俺を呼んだ。


「丁度良かった。今内線で呼ぼうかと思っていた所だ、ありがとう」

「お話は終わられたのですか?」

「御社と提携をさせて頂くということで、話が決まりました。よろしくお願い致しますね」


長谷川社長も穏やかに微笑み、俺も名刺を交換して握手を交わす。


「こちらこそ、よろしくお願い致します。社長秘書の本郷と申します」

「本郷さんにも何かとご助言を頂くことが多いかと思います、期待しております」


立ち上がった彼は印象通り背が高く、穏やかさの中にも代表取締役としての風格も漂う。

これから一緒に仕事をしていく事が決まり、とても楽しみになってきた。

程なくして長谷川社長は帰られ、社長も自室へと戻られる。


「これからハセガワとの連絡を取ることが多くなると思うから小まめに連絡を頼むな。キャリアアップの講座は次年度の4月から始める予定だから、忙しくなるよ」

「畏まりました、こちらも講師の選定と育成を急がねばなりませんね」

「そうだね。これからが楽しみだ」

「えぇ、俺もそう思います」


社長は少し目を細めて笑うと、さっき俺が仕分けた書類に目を通し始めた。

次の商談が始まるまではあと1時間。

それまでに書類整理を出来るだけ終わらせ、次の会談の準備をしておかなくてはならない。

そのデスクの傍らにそっと珈琲を置けば、ゆっくりと息を吐き口を付ける。

社長の業務はかなり多く、休息の時間すらゆっくり取れないこともざらにあるが、時間がある時には短い時間でも社内を回って社員や重役たちとコミュニケーションを取り、職場環境の整備に務めるのも社長の方針だ。

今日も30分で書類整理を終えると、今日は総務部に行ってくる、と社長室を出て行った。

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