2 商談~ハセガワ
俺の名は本郷脩矢(ホンゴウナオヤ)、普段は大楠家で理人様付きの執事をしている。
会社では、執事としてではなく社長秘書としての仕事を行う。
仕事場にいる時は、俺も『理人様』ではなく『社長』とお呼びし、理人様も普段屋敷にいる時の『シュウ』ではなく『脩矢(ナオヤ)』と呼び方を変えられる。
『シュウ』という呼名は、脩矢の脩という字から親しみを込めて理人様が呼んで下さっている愛称のようなもの。
その呼び方一つ変わるだけで、俺達の気持ちもしっかりと仕事モードに切り替わるのだ。
「社長、長谷川様がいらっしゃいましたので、会議室にお通ししております。長谷川様は日本茶がお好きでしたね?」
「そうそう、お茶と和菓子をお出ししてくれ。準備ができたら俺もすぐ向かう。話自体は1時間程で終わると思うよ」
「畏まりました」
長谷川様は、今回提携を結びたいと申し出てきた企業の一つ、ハセガワの代表取締役社長だ。
そもそも、大楠グループというのは国内外のIT機器を取り扱っている企業グループで、機器の受注生産、下請け業者と生産ラインの繋ぎ役、IT機器を用いた実技講座など、様々なジャンルで展開を行っている。
一方、ハセガワは資格取得や生涯学習のための講座『キャリアアップ』を開設、運営しており、最近その会員数を伸ばしてきている企業だ。
今回の会談内容は、理人様が社長として経営しておられるこの子会社と提携し、IT機器の実技講座を行いたいという申し出だった。
ハセガワ側も、自分のところで講師を雇い育てて講座を行うよりも、専門的な知識を持つ大楠グループの技術者を講師として雇いたいというところだろう。
キャリアアップ講座の面ではまだまだ手狭な大楠グループだが、社長はどう考えられるだろうか。
「失礼致します」
会議室に入りお茶と和菓子をお出しすると、長谷川様は、ありがとうございますと穏やかに微笑まれた。
長谷川様は40代後半くらいの男性で、すらっとした手足にぴったりとしたストライプの黒スーツを着ている。
立ち上がり一礼をしたところで、ノック音がして社長が入ってきた。
双方握手をして挨拶と名刺交換を済ませると、早速席について会談が始まる。
と、ちらりとこちらを向いた社長に目で促され、俺は一礼して会議室を出た。
ここからは1対1で話がしたいということだ。
会議が終わった頃に休息が取れるように、俺は準備しておかなければいけない。
社長室に溜まっている仕事も済ませておこうと、俺は準備のために社長室に向かった。
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