休日風景(あさ)

さなこばと

休日風景(あさ)

 休日早朝のバスはいつも閑散としているから、今日は珍しいこともあるものだと思った。

 一番後部の細長い座席の隅に、朝から用事を抱えた私は座っていた。

 そこに二人の小さな女の子が乗車してきた。お揃いのパーカーを着た二人は、くすくすと笑い合い、なぜか後部座席ど真ん中に腰を下ろしたのだった。

 その座る勢いのよさたるや、お出かけに向けた随分なはしゃぎようがうかがえた。私は見るともなしに、ちらちらと視線を向けてしまった。

 二人のお喋りが聞こえてきた。

「お金、ちゃんと持った?」

「持ってるよ!」

「見せて。足りてるか確かめてあげる!」

「うん」

 幼い姉妹なのかもしれない、と思っていると、

「あ!」

 と小声で叫ぶような声がした。

 妹と思えるほうの子が手を滑らせてしまい、硬貨を座席に落としてしまったようだった。床には落ちず、私のすぐ横に転がってきてぱたんと倒れた。百円玉だった。

 私は拾い上げ、渡そうとして顔をあげる。そこで異なものを見た。

 きょとんとしてこちらを見やる女の子の、その頭に三角の柔らかそうな何かが、二つほど確認できたのだ。

 思わず固まる私に、「……?」と不思議そうな女の子。その傍で姉らしきほうの子が、口に両手を当てて目を見開いていた。

 私はとっさに、

「今日は眼鏡がないから、視界がぼやけているな……。お金を落としたのは君だよね、ごめん、目が悪くてよく見えないから手のひらを出してもらえるかな?」

 と嘘をついた。

 すると、女の子二人はぱっと笑顔に戻り、可愛らしく弾んだ声で、少しだけ体の距離を縮めてきた。

「は、はい! ここに置いてください!」「ありがとうございます!」

 妹の女の子の頭にある三角は、すっと消えていく。

 ほっと一安心だった。


 降りるバス停に着いたので、私は腰を上げた。

 下車してすぐ、ふと思いたち、過ぎ去るバスを見送ることにした。

 バスの後ろの大きな窓越しに、女の子二人の並んだ後頭部が小さく見えた。

 二人の頭の上には、お揃いのパーカーのフードがかぶさっていた。

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休日風景(あさ) さなこばと @kobato37

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