ブラック企業に勤めていた俺が、ひょうんなことから最強の酒飲み料理配信者になった

morio

第1話:助かるん…だよね?

なんで!なんで!なんで…どうしてこうなるの!

吐き出したい、叫びだしたい気持ちを抑えて足を動かす。


「ハァハァハァ…」

息を切らしながらも、立ち止まるわけにはいかず全力で走る。


「ハァハァハァ…」

とめどなくあふれてくる汗を右手でぬぐい、地面にたたきつける。


口の中が乾きのどが痛い、水はさっき飲み切った。

ポーションももうない。視界がぼやけてくる。

限界が近いのかもしれない。


「誰か…誰か…助けて…!」


奮い立たせるために声をあげ、しかし走るしか選択肢は残っていない。

だって立ち止まったら…アイツに追いつかれる。




~話は少し前に遡る~


チャンネル登録者100万人越え「姫ちゃんねる」のCランク探索者、阿佐ヶ谷姫路あさがやひめじは、次の配信でDランクダンジョンのソロ踏破する瞬間を配信したいと考え、近所にいいダンジョンがないものかと情報サイトを調べていた。


魔法攻撃を行うモンスターが出現せずに、短剣をメインに扱う自分と相性の良いモンスターのみ出現するダンジョン…そして見つかった。


【攻略記録あり】

・全5階層

 上層:3層

 中層:2層

・出現モンスター

 上層:スライム、ゴブリン

 中層:上層モンスター+ホブゴブリン、リザードマン

 フロアボス:ミノタウロス


出現するモンスターは基本倒した経験あり、これならいけると気分上々、ツイッターでダンジョン探索の配信連絡をするのであった。



ダンジョン探索の出だしは好調だった。

上層のスライムやゴブリンは言わずもがな、中層に入ってからもホブゴブリンを一撃で葬り、リザードマンと切りあうシーンは視聴者の応援コメントやスパチャをたくさん貰えた。


ただ中層2層に入ったところで異変が訪れた。

ホブゴブリンかゴブリンぐらいはいそうなものだが、中層2層に入ってからモンスターが一匹もいない。

<こんな静かなダンジョン初めて見たかも?>

<イレギュラーとか発生してないよね…:500円>

<姫!ここは撤退したほうが良いかもですぞ!:1000円>


イレギュラー?引き返す?


コメントを見つつ、どう判断するか悩んだ一瞬の時間を後悔した。

開けたフロアに出た瞬間、そいつはいた。


ゴァアアアア!!!


一つ目の大男、Bランクモンスターサイクロプス

Dランクダンジョンに存在しないはずのサイクロプスは、ゆっくりこちらを向き歓喜の声を上げる。


<姫!にげてー!>

<なんでDランクダンジョンにサイクロプスがいるんだよ!>

<勝てない逃げて!>


荒れるコメント、相対し一つ目にジロリと見られて冷汗が止まらない。

いやらしい笑みが脳裏にこびりつく。

絶対…勝てない!!

震える足にこぶしをたたき込み、踵を返し走り出した。




~時は戻り~


ダンジョンの壁を木の棍棒でガンガン叩く音が辺り一面に響き渡る。

おもちゃで遊ぶ無邪気な子供の用に、サイクロプスがこちらを追いかけてきている。


Cランク探索者になって強化された体力も、無尽蔵の体力を持つと言われるサイクロプスには遠く及ばない。


それよりなにより、体力より精神が持たない。

木の棍棒で叩かれただけで人生終了。

コンティニューのない世界。

急に現実味を帯びて今にも吐きそうだった。


「誰か…誰か…助けて!」

チャット欄もコメントが乱立している。目を通している暇はない。

誰か…。



タッタッタッと前方から足音が近づいてくる。

ゴブリンやリザードマンのような足音ではない。

あっ…あ…。

探し求めた探索者、張り詰めていた緊張の糸が解けそうになる。


「大丈夫ですか!って全身ボロボロですよ?…って、うわっでっか!見てください皆さん。おっきいのがこっち来ましたよー!」

ビール片手にダンジョン配信する男がそこにいた。


武器らしいものは持ってないし緊張感も全くない。


えと、大丈夫…かな?

自殺志願者だったり…しないよね?

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