彼岸小路

河崎

小路

どうやら、道に迷ってしまったようだ。太陽が空の端まで傾いて、間接照明のように雲を朱色に染めている。足から延びる影はだんだんと薄くなって、地面からふわふわと浮いていってしまいそうに感じた。

彼女と非道い言い合いをしてしまい彼女の家から逃げるように飛び出て、私は自宅に戻った。彼女に言ってしまったこと、彼女に言われたことが耳から漏れ出て部屋にこだまするように頭に響く。そのうち、自室にも居心地の悪さを感じてアパートの外に出たが、なぜこんな訳の分からない遭難をしなくてはならないのか、自分の無鉄砲さに後悔をしているうちに反響していた言葉がなんだったのかもも忘れてしまった。

しかし、携帯すら持たずに道に迷ってしまうとは。持ち物といえばジーンズのピスポケットに差し込んだ安物の財布くらいである。財布の中はいやに小銭が多く、歩くたびにポケットの突っ張りが不快感を与える。不快感から逃げるように足取り重く歩を進めていると車一台がなんとか通行できるくらいの道幅の小路に突き当たった。なにやらこの小路には見覚えがある気がする。以前も通ったことがあるのか。いや、このように民家のブロック塀に囲まれた路地なんて日本各地に幾らでもあるだろうし、生まれ育った町でも、大学のために下宿をしていた町でも幾らでも目にしてきた。しかし、夕焼けの下に延びるこの小路にどこか懐かしさを感じた私は、帰路に就くようにぬるりとその小路へと入り込んでしまった。

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