第19話 道具屋での出会い

 普通の道具屋の店員の女性は、樹奈 曲ジュナ マガリという、ちょっと変わった名前だった。


 「ここに座っていてね」


 ジュナに言われたまま、私は、ソファに座った。


 「はい」


 暫くすると、ジュナはいくつかのアイテムボックスを持って来た。


 「取り敢えず、3個持って来たよ。どうかな?」


 私は、スキル鑑定で、3個のアイテムボックスを調べてみた。すると、左から、中級、上級、特級とレベルが分かった。

 

 更に、調べると、特級は、家1件分のアイテムを入れることが出来ることが分かった。そして、それを実現しているのが、刻印された魔法陣の働きだった。でも、その刻印は、闇魔法の結界で隠されていた。


 私は、何とかして、その魔方陣を覚えようとしたが、複雑で、何かにメモでも書かないと無理だった。でも、ここで、写すわけにはいかない。


 「この右端のアイテムボックスは、いくらですか?」


 「これね。金貨500枚ね」


 「うーん、今は、ないですね」


 「そうか、残念ね。でも、次は、金貨1000枚になっているよ」


 「えっ、何故ですか?」


 「これはね。買い手がいるのよ。でも、面白そうだから、あなたに買って貰おうかと思ったんだ」


 「そうですか。残念ですが、今、手持ちがありません」


 「じゃー、ダメだね」


 「ジュナさんは、こういった商品をいつも扱っているのですか?」


 「そうね。月1回ぐらい、流れてくるね」


 「また、入りそうですか?」


 「ん、欲しいの?」


 「欲しいです」


 「どうしても?」


 「はい、どうしても」


 「ちょっと、聞きたいんだけど、このアイテムボックスの価値って、わかってる?」


 「どういうことですか?」


 「詳しくは、言いにくいんだけどね。

 まあ、いいか。聞いちゃうね。

 あなた、鑑定のスキル持っている?」


 「うーん、どうしよう」


 「そうか。持っているのか」


 「え、何も言っていませんよ」


 「それで、いいの。わかったから」


 「ジュナさんは、相手の頭の中が見えるのですか?」


 「そんなわけないよ。あなたの顔に書いていたの」


 「そんな。ジュナさん、内緒ですよ」


 「わかってるわよ。だから、どうしようか、迷っていたの。

 端的に聞くけど、これと同じものって、作れる?」


 「やってみないと、分かりません」


 「何日で、わかる?」


 「1日で大丈夫ですよ」


 「そうか、1日か、それなら、ここでやってみてよ」


 「ここで、ですか?」


 「そうよ。嫌かしら。でも、もし出来たら、それを持って帰ってもいいわよ」


 「うーん、やります」


 「それじゃ、始めて。お腹空いてない?」


 「大丈夫です」


 「それじゃ、私は何か、食べるね」


 ジュナは、近くの椅子に座り、アイテムボックスから食事を出して、食べ始めた。


 私は、まず、土魔法で、特級のアイテムボックスと同じ材質の同じ大きさの箱を作った。表面を硬化してあるので、それも行った。


 二つの箱を見比べたが、ほぼ同じだった。一見しただけでは、見分けがつかない。


 次に、魔法陣のコピーだ。でも、実物があるので、それをゆっくりと正確に写していくだけなので、特に問題はない。


 私は、魔法陣にマナを流してみた。一瞬起動したが、すぐに、魔法陣は、元に戻ってしまった。


 どうも、持続させるための仕組みがあるようだ。もう一度よく見ると、この特級アイテムボックスには、魔石が組み込まれていた。そして、もう一つの魔法陣が魔石に繋がっており、更に、その魔方陣から、今模写して魔法陣へと繋がっていた。その部分が闇魔法の結界で隠されていた。


 私は、今分かったことを踏まえて、もう一度、チャレンジしてみた。魔石は、手元にある物を使った。魔石を組み込む前に、魔石に十分なマナを流しておいた。


 これで、完成したはずだ。私は、もう一度、スキル鑑定で、調べてみた。無事、完成したようだ。


 「ジュナ、出来たよ」


 「ちょっと、試してみるね」


 ジュナは、私が作ったアイテムボックスに、ガラクタをどんどん入れ始めた。気が付くと、店の中はすっかり綺麗になっていた。


 さらに、店の裏口から、外に出て、何やら彫り込んでいる。暫くして、VIP室に戻って来た。


 「良いみたいね」


 「良かった。でも、どうして?」


 「どうして? って、どういうこと」


 「ジュナは、鑑定を使わないの」


 「あれ、テラは、私を鑑定していないの? 私は、鑑定が使えないよ」


 「そうなんだ。勝手に人を鑑定するのは、失礼だから、出来るだけ使わないようにしているの」


 「へぇ、真面目なんだな」


 「そうでも、ないです」


 「それじゃ、これから、商売の話だよ」


 「これで、終わりじゃなかったの?」


 「そりゃ、そうでしょ。こんな特級アイテムボックスが簡単に作れるのだから」


 「そうか、ジュナは、これを売るつもりんだ」


 「もちろんだよ。その為に、テラをテストしたんだよ」

 

 「いつ、テストしたの?」


 「さっき、3個のアイテムボックスを持って来たよね。

 あれは、外見はすべて同じに見える様にしていたんだよ」


 「えっ、気が付かなかった」


 「そりゃ、そうだろ。鑑定ができるのに、外見を気にする奴なんかいやしないよ」


 「そうか。あの時に、迷っていたり、同じだと、文句を言ったら、テストは不合格ということね」


 「正解。そのとおり」


 「それで、私に、同じものが作れないかと、次のテストを出してきたのね」


 「テラは、欲しそうにしてたからね」


 「えっ、また、顔に書いていたのね」


 「そうだね。顔に書いていたよ」


 私は、定期的に特級アイテムボックスを納入して、その代金を貰うことになった。

 

 ジュナは、貴族に顔が利くそうで、1個金貨500枚で捌いていくようだ。


 私の取り分は、1個金貨400枚となった。私としては、魔石の分だけが材料なので、特に問題はない。


 月に10個納入することで、ジュナとの契約は成立した。それと、今後、手に入った特殊な商品を優先的に見ることが出来る様になった。といっても、また、コピー商品を創れということよね。

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