第2話 賢者サビオ*

 私の頭の中に響いていた声の主は、自分の事を賢者と呼んだ。そして、過去の自分のことを話し始めた。


 それによると、賢者サビオは、自分が使えていた国王に裏切られたという。それにより、今の牢獄に閉じ込められたらしい。


 そして、その国王は、ヘノイ国の国王で、賢者として、勇者を召喚するはずの私を騙して、偽の勇者をでっちあげてしまった。その偽勇者は、ラドロンといって、ヘノイ王国の国王アウトクラシアと共に、私を裏切った。


 それ故、私は、地下牢に幽閉された。魔法で封印された部屋の中に500年、何も出来ずに閉じ込められた。その故、肉体は朽ちたが、復讐心と言う私の魂は残った。


 封印された部屋の中では、魔法が使えない。そして、なにより、魔法の元となるマナが空気中になかった。魂だけの状態ではあったが、長い年月をかけて、何とか、召喚の魔法陣だけは床に描くことができた。


 魔法を発動するためのマナが十分にないこの閉鎖された空間では、効果的な魔法を発動することが出来なかった。長い年月をかけて、魔法陣にマナを流し込んだ。そして、何とか、起動させることが出来たが、やはり、正常には、動作しなかった。


 そのため、私の精神に共鳴する者の魂しか召喚することが出来なかった。封印された魔法が十分に使えないこの地下牢では、肉体を持った人を召喚することは不可能だった。しかし、死者の魂を召喚することだけは、何とか、実行することが出来た。


 また、賢者サビオの魂と共鳴できる者として、私が召喚されたということだ。


 賢者サビオは、私に、今の気持ちを伝えた。


「1000年も経過したので、もはや復讐する気持ちは無い。しかし、せっかく賢者となったのだから、本物の勇者と共に魔王の討伐に参加したい。それが、今の望みだ」


 賢者サビオの居た部屋は単なる地下牢ではなかった。他の者が簡単に侵入できないように、ダンジョンの中に作られているようだ。


 しかも、結界により、賢者サビオは魔法を自由に使うことができないし、外界へ出ることもできない。賢者サビオは魂だけとなっても、自由に外に出ることは出来なかった。


 私が異世界から召喚されるときに、少しだけマナを運ぶことができた。しかし、この結界は賢者サビオに特化したもので、私の魂は自由に外に出ることが出来た。


 私は魂のまま部屋の外に出て、外界の様子を調べることにした。1000年もの時間の経過で、部屋の外は朽ち果て、すでに見張りの気配すらなかった。


 部屋に戻ってきた私は、賢者サビオに見てきたことを報告した。


 部屋の外に出た私の魂は、少しのマナを吸収することが出来た。また、そのマナを持ったまま部屋に戻る事も出来た。これを繰り返すことによって、封印された部屋の中に僅かではあるがマナを増やすことが出来た。


 しかし、部屋の中では、依然として賢者サビオは自由に魔法が使えなかった。この部屋は賢者サビオに特化した結界になっていた。そのため、賢者サビオに部屋の結界を消滅してもらうことは難しい様なので、私が何とかすることになった。


 私は、部屋の中のマナを扱うことが出来た。そこでまず、賢者サビオに魔法を教えてもらうことにした。


 最初は、自分の周りのマナを感じることから始めた。次に、自分の周りのマナを体内に吸収する。最後に、体中にマナを巡らせ、手のひらからマナを放出する。


 はじめは、微小なマナしか扱うことが出来なかったが、徐々に扱うことが出来るマナの量を増やすことができた。マナの扱いに慣れてきたので、魔法を教えてもらうことにした。


 賢者サビオによると、身体のない私は、何色にも染まっていないようで、時間は掛かるがすべての魔法を習得することが出来るようだ。そこで、まずは、魂を何かに定着させたいので、土人形ゴーレムを作れることを目標とした。


 土魔法の初歩として、手のひらの上に砂粒を出すことから始めた。最初は、砂時計の中のような砂しか作れなかったが、次第に大きくすることが出来た。それとともに、体内に蓄えて置けるマナの量も増えていった。


 私は、以前と同じように部屋の外に出て、マナを吸収し、部屋の中に持ち帰った。これを繰り返し、封印された部屋の中のマナを更に増やすことが出来た。


 1週間ほどで、ピンポン玉程度の大きさの石を作ることが出来るようになったので、次の段階に進むことになった。


 石礫サンド・ボールと呼ばれる魔法で、小さな礫を目標に向けて飛ばすことが出来るものである。最初は、1mも飛ばなかったのだが、1カ月ほどで、部屋の端から端に石礫サンド・ボールを飛ばすことが出来るようになった。


 部屋を抜け出し、外壁に描かれていた魔法陣に向けて石礫サンド・ボールを何度もぶつけた。少しずつだが、魔法陣を削り取ることが出来た。


 すると、マナが部屋の中に流れ込むのが見えた。この魔法陣が、マナを遮っていたのだった。


 しかし、賢者サビオは、部屋の中の十分なマナを利用することが出来ないようだ。賢者サビオの魔法を遮っているものは、他にあるようだ。


 私は、今度は部屋の中で、石礫サンド・ボールを壁に向かってぶつけた。暫くすると金属にぶつかったような甲高い音が鳴った。どうも、部屋の壁には金属が埋め込まれているようだ。そして、その金属の働きで、賢者サビオは魔法が阻害されているようだった。また、賢者サビオの魂も外界に出ることが出来なくなっているようだった。


 今の私の魔法では、この金属に穴を開けることは無理だった。3カ月たって、やっと、土魔法LV3の状態だった。


 仕方がないので、次に火魔法を覚えることにした。これも3カ月で、火魔法LV3の状態になり、ソフトボール大の火球ファイア・ボールを壁にぶつけることが出来る様になった。


 次にまた3カ月使って、水魔法LV3の状態になり、バレーボール大の水球ウォーター・ボールを壁にぶつけることが出来る様になった。


 更に3カ月使って、風魔法LV3の状態になり、ウィンドカッターを壁にぶつけることが出来る様になった。しかし、これでも金属に傷一つつけることは出来なかった。


 しかし、これで、土魔法・火魔法・水魔法・風魔法の4魔法の基本を習得することが出来た。


 次に光魔法と闇魔法をそれぞれ3カ月使って、習得した。


 今のままでは、なかなかレベルを上げることが出来ないし、金属の壁を潰す方法もわからないので、一旦賢者サビオと別れて、異世界に旅立つことにした。


 私は、賢者サビオに教えて貰いながら、土魔法で土人形ゴーレムを作ることが出来た。しかし、LV3のため、親指ほどの土人形ゴーレムを作るのが精一杯だった。


 次に、靄のような私の魂を土人形ゴーレムに定着するために、賢者サビオに言われた通りに土人形ゴーレムに魔法陣を描いた。


 すると、魔法陣は青白い炎をあげて私を吸い込んだ。魂を刻印された土人形ゴーレムの私は、賢者サビオを助けるために、動き出すことが出来る様になった。


 大量のマナを使うことになるが、魔法陣から魂を抜け出すことが出来る。


 私は、一度魂だけの状態になり、封鎖された部屋から抜け出し、外界で、教えてもらった土人形ゴーレムを作り、魂を刻印するための魔法陣を描いた。


 すると忽ち私の魂は土人形ゴーレムに定着された。


【ステータス】

 種族:土人形ゴーレム

 職業:無職

 LVレベル:3

 HP(最大体力量):100

 MP(最大魔力量):100

 魔法:土魔法(LV3)、火魔法(LV3)、水魔法(LV3)、風魔法(LV3)、

    光魔法(LV3)、陰魔法(LV3)

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