シャロームの哀歌
古堂 素央
1
土地や人、家畜を奪われ、ときにまた奪い返す。果ての見えない争いに、民も物資も限界まで疲弊していった。
やがて若き
被害は最小限に
またたく間に国を勝利に導いた王は神の使いとして讃えられ、側近たちもまた語り継がれるべき英雄となった。
ようやく訪れた
そして一年の時が過ぎ――。
◇
「さぁ、早く取り込まなくちゃ」
乾燥した風に舞い踊る洗濯物と格闘しながら、ミリは手早く籠に収めていった。
山盛りになった洗濯籠を、古傷の傷みを無視して運びだす。これが終わったら、次は夕食の準備が待っている。
流れ着いた孤児院で、衣食住の対価として始めた生活だ。やることに追われる日々は、足が不自由なミリにとってそれは過酷なものだった。
だが子供たちの笑顔が
育ち盛りの子供たちは驚くほどの量をあっという間に平らげる。先日買ってきたばかりの食材は、もう残りわずかとなっていた。
(明日はイザク様が来られる日)
失礼があってはならない大事な方だ。きちんと出迎えるためにも、午前のうちに買い出しを済ませておかなければ。
癒え切らない片足を引きずりながら、重い籠を抱え急ぎ建物へと向かった。
「ミリ」
「イザク様……!」
たった今、心を占めていた人物の登場にミリの鼓動が跳ね踊る。
「来られるのは明日ではなかったのですか!?」
「ミリの顔が見たくて一日早めたんだ」
「そんな……! あ、いけません、イザク様にそんなものを運ばせるわけにはっ」
イザクは寄付を定期的に施してくれる王都に住まう役人だ。ここだけでなく、私財を投げ打ち各地の孤児院を援助するほどの人格者だった。
そんな彼に奪われた籠を取り戻そうと、ミリは慌ててその背を追いかけた。途中痛みが走り、ミリの足がもつれそうになる。
「危ない、ミリ!」
「きゃあっ」
転ぶ寸前で抱き留められた。大きな籠を抱えてなお、力強く支えてくる片腕。細身に見えるイザクの肢体は思った以上に筋肉質だ。
胸板に縋りつき、密着したままミリの頬が瞬時に真っ赤になった。
「おっと!」
風にあおられたシーツが一枚、籠から宙に舞い上げられる。器用に
太陽の匂いを
熱のこもった瞳に捉えられ、動揺で離れようとした瞬間イザクに口づけられる。
「イザク様……」
濡れた唇を親指でなぞられて、ミリの心も同時に大きく震えた。
「ミリ、明日の予定は?」
「明日は……買い出しに行かないと……」
「分かった。わたしも付き合おう」
子供たちの近づく声に、イザクの体が離される。
そのあとどうやって過ごしたのか記憶になくて、ミリは夢見心地で翌朝を迎えた。
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