第28話 十階越え

 寝て疲れをなくしてから下に続く階段を降りた。

 寝る時にはずっとヴォルフを抱き抱えていた。両手に収まる大きさではないのだけれど、暖かくてよく寝ることができるのだ。

 さて、やってきた十一階の話をしようか。

 十一階それは……また景色が変わった。

 歩くとチャプチャプと音がする。


「これって、水?」

「そうだろうな」


 ライオスが答える。

 ここからは水。水ということは転んでしまったらびしょ濡れになる。気をつけて歩かなければならない。


「あっ、ヴォルフの毛は無事⁈」

「足は水に浸かってっけど、問題はねえ」

「そんなあ……」


 せっかくのもふもふで気持ちいい毛が水のせいで濡れてしまった。

 このダンジョンを作った人に抗議したい。

 人が作ったのかは定かではないのだが。

 足の毛だけだとしても一大事なんだよ。ヴォルフのもふもふ感が少しでも薄れるのは私が嫌だ。

 例えヴォルフが気にしなかったとしてもね。


「水が多いと歩くのが大変ですわね」


 ニコが言った。

 ふと思ったのだが、ネコは水が苦手なはず。

 人の姿になっているから大丈夫なのだろうか。まあ、わざわざ聞くことはしない。

 今歩けているのだから大丈夫だろう。


「そうだね。こけないように気をつけてね」


 私は笑って返した。

 二コも微笑む。


「はい」


 私達は水の中を気をつけながら歩いている。いつどこでなにが襲ってくるか分からないから。周りにはなにもないので、なにかがいるとしても水の中。

 しかし、今のところなにも現れない。

 警戒するのをやめてはいけない。そもそも、水の中からなにかがくるってなにがくるのだろうか。

 今までダンジョン内で出てきたものからすると、次も動物だとは思うのだが。

 水の中にいても平気なのって……


 その時だった。

 こちらに向かってくる影を見たのは。

 私より遥かに大きいなにかが向かってくる。それが分かったのだ。


「セリナ!」


 ライオスが私の前に出てきた。

 激しい音と共にライオスは倒れた。

 

「ライオス⁈」

「無事だ。ただ突進されただけのようだしな。それに、俺の身体は頑丈になった。心配することはない。ニコもそんな泣きそうな顔をするな」


 ライオスは笑って言った。

 頑丈になったとはいえ、後ろに倒れ込んだら痛いだろうにな。

 ニコが泣きそうな顔をしているのを察知して、苦しそうな顔をしてはいけないと思ったのだろうか。

 まあ、やせ我慢の笑顔ではないから良しとするか。


「本当に大丈夫ですの?」

「ああ。だからスキルも使わなくていいぞ」


 ライオスはそう言いながら立った。

 びしょ濡れではあるが、傷は一つもない。

 この分なら心配はいらないなと私は思った。


「しっかし、さっきの奴はなんだったんだ?」


 ヴォルフが言う。

 私も考えていた。私に見えたのは影。

 けれど、あの大きさで速さ。そして、水の中にいても不思議ではない。


「きっと、サメだね」


 私は答えた。

 サメは血の匂いに反応する。血を流している人がいなくて良かった。それでなくとも、凶暴で人を襲ってくるからな。

 先程も私を狙っていた。それをライオスが庇ってくれたのだ。


「サメ、か。伝承で聞いたことはあるような気はするが……」

「いまいちピンときませんわね」


 ライオスとニコは首を傾げている。

 また詳しくは知らないのか。

 いったい、このダンジョンを作ったのは誰なのだろうか。

 この世界で生きている子達が知らないという動物を出す。

 それができるのは、果たして……


 今考えるのはよそう。

 最後の場所まで辿り着けばきっと分かること。今はただ、目の前のことに集中しよう。

 

 それが、今大事なことだ。

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