第23話 草原?

 そうして私達は下へと続く階段を降りて次の階へと来た。その場所は想像していたものと違った。今までの階を例えるなら無機質な何もない部屋。

 対して、ここは広大な草原のようだ。


「こんなに変わるなんて……」


私が驚いていると


「ダンジョンとはそういうものだ」


と、ライオスが言った。

 他のダンジョンのこともライオスはよく知っている。だから、様子が変わるということも知っていたのだろう。


「そうなんだね〜っい⁈」


痛い。その言葉が口から出なかった。

 なにかに足を刺されたような衝撃があったのだ。痛すぎて上手く声を出せなかったというのが正しい。

 ヴォルフから降りて、歩いていた。

 会話していて注意力が散漫していた。

 理由を並べればキリがない。


「だから慎重に進めた言ったはずだ」


ライオスが呆れたように私を見る。

 その手は剣を持っていたので、私の足を刺したモンスターを倒したのかもしれない。

 倒さないでほしかった。そんな悠長なことは言えないか。私のせいだしな。


「セリナ様。足をお診せください」


ニコが私に近づいてきた。

 私がしゃがみ込んでいるから目線が合うようにもしてくれている。

 言われた通り、足が良く見えるように伸ばした。

 

「『ヒール』」


ニコが唱えると、痛みがなくなった。

 そして話せるようにもなった。


「ありがとう!」


ニコに頭を下げてお礼を伝える。

 ニコは微笑んだ。


わたくしにできることはこれだけですから」と。

「そんなことないよ」

「そう言っていただけて嬉しいですわ」


卑屈になるニコを見ていると、昔の自分を思い出す。動物のお世話が上手にできなくて、落ち込んでばかりいた自分のことを。

 だからなのかな。なんだってできるよって伝えたくなるのは。


「なあ、さっきのトゲトゲのしたのなんだったんだ?」


ヴォルフがそう言った。

 トゲトゲしたの、とは私の足を刺したモンスターのことだろうか。

 私は姿を見ていないから分からない。

 

「ライオス、どんなのだったの?」

「ここまでのモンスターの形状に似ていて、全身にトゲが生えていたな」


ネズミやハムスターと形状が似ていてトゲが生えている。

 それってもしかして……


「ハリネズミじゃん!見たかった……というか、なんで草原の中にいるの⁈なんでハリネズミのトゲであんなに深い傷がつくの⁈」


私は一気に疑問を叫んだ。

 みんなは不思議そうな顔をしている。


「ハリネズミってなんだ?」


ライオスが首を傾げている。

 

「知らないの?」

「ああ。聞いたことがないな」

わたくしもですわ」

「オレも知らねえ」


 みんな知らないと言った。

 トゲは危ないけれど、丸っこくて可愛いあの動物のことを。

 それなのに、なぜこのダンジョン内にいるのだろうか。

 日本食が出てきたことといい、謎が増えるばかりである。


「それはあとで教えるから、とりあえず気をつけて進もう」

「セリが言えることじゃないぞ」

「分かってるよ!」


ヴォルフにツッコミをされながらも、私は前に進んだ。

 気をつけないと、また刺されるので集中していこうと思う。

 あんなに深い傷を残せるハリネズミをちゃんと見てみたいしなあ。

 

(よしっ、頑張るぞー!)

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