愛とか恋とか、くだらない。
雲雀湯@てんびんアニメ化企画進行中
1
第1話 最近色気づき始めた親友
あちらこちらに植わっている街路樹が、瑞々しい若葉に覆われる5月の初め。
ゴールデンウィーク明けともなれば昼間は汗ばむ陽気になるものの、朝ともなればまだまだ肌寒いとある日、その通学路。
「晃成、どうしたんだその頭?」
祐真の問いかけに晃成は少し照れ臭そうに、しかしドヤ顔で応える。
「へへっ、
「
「そっか……変じゃないよな?」
「あぁ、見た目だけなら全然イケてる。見た目だけなら」
「ははっ、うっせ!」
素っ気なくも感じる祐真の返答に、しかし満更でもない晃成。
つい先日遊んだ時には伸びるに任せたボサボサだった親友の頭は、短く刈り込まれ明るい色に染められている。
元から体格に恵まれていたこともあり中々どうして、爽やかな男前になったと言ってもいいだろう。
ここ最近、今日に限らず晃成は色付き始めた。少し前からせっせと筋トレをし始めたし、女子受けするスポット調べにも余念がない。
理由はわかっている。
どうやら嵌ってるソシャゲに課金したくて始めたバイト先の女子大生の先輩を、好きになってしまったらしい。本人は決して口にしないし、認めていないが、あからさまなその変化が全てを物語っていた。
まぁそれでも親友が恋に浮かれる姿というのは、自分のことじゃないものの、見ていて気恥ずかしいものがある。
むず痒そうに「はぁ」とため息を吐く祐真。すると晃成の背後から、祐真と同じような表情をしている女の子が現れた。長い黒髪を野暮ったく2つに纏めておさげにした洒落っ気のない、少しばかり地味な子だ。
晃成の妹であり、兄同様長い付き合いの
「お兄ちゃん、昨日からずっとあの調子なの」
「完全に浮かれてるな」
「何度もどうかって聞かされてさ、乙女かってーの!」
「あははっ、あの晃成がねぇ」
その晃成へと目をやれば、やけに周囲の目を気にしてか落ち着かない様子。
せっかく見違えたのだから、もっと胸を張ればいいと思うものの、どうにも自身が持てないでいるらしい。
顔を見合わせ苦笑した後、涼香は「あ、そうだ!」と声を上げ、スマホのとある画面を見せてきた。
「ねね、ところでこれ気にならない? 特盛レインボー生クリームの激甘ハニートーストだって!」
「うわ、なにこれ見てるだけで胸焼けしてくるんだけど! なんだよ、この挑戦者求むって言葉は」
「いっやー、これは行ってみないとでしょ! ゆーくん、万全の状態で
色恋に熱を上げる兄と違って、花より団子な様子の涼香。瞳を爛々と輝かせながら、甘味の明らかな地雷へと誘ってくる。
涼香は昔から好奇心が強く、こうしてよくわからないことに振り回されることが多い。
祐真は、こめかみに手を当てながら答える。
「なぁ、そんな感じでこないだ行ったホルモン専門店での悲劇、忘れてねーぞ」
「あはは……いっやー、はちのすやせんまいだっけ? 見た目が凄くて中々口に運ぶの、苦労したよね~」
「あと、どこまで焼いていいかわからなくて黒焦げにしちゃったり」
「でも不思議と怖いもの見たさというか、また食べたくなってたり! まぁその前にハニトーだよ、ハニトー!」
そんなことを言って、にししと笑う涼香。
また、なんだかんだと付き合ってしまうだろう未来を想像し、苦笑を零す祐真。
すると、何を話しているのか気になった晃成が、口を挟んできた。
「なぁ、何の話をしてるんだ?」
「いや、晃成が例のバイトの先輩にカッコイイと思ってもらえるといいなって」
「お兄ちゃん、そわそわし過ぎて先輩の前で挙動不審にならないようにね」
「なっ!? べ、べつにそれはその、先輩は関係ないし……っ!」
「はいはい」
「……はぁ」
「おい、聞いてるのか祐真! 涼香も!」
咄嗟に先輩のことへと話題転換、晃成に口を揃えて揶揄うように言えば、顔を真っ赤にして躍起になって否定する。
そんな親友の姿に、祐真と涼香は眉を寄せ肩を竦めた。
◇
いつもの時間、いつもの場所から電車に乗り、揺られること3駅。
ドアが開くと示し合わせたかのように、1人の女の子が片手を上げ挨拶しながら乗り込んでくる。
同じ制服を着崩した小柄で派手なイメージの彼女は、すっかり様変わりした晃成の見るなりみるみる目を大きくし、そして悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「おっはろ~ん……ってうわヤバッ、晃成先輩ホントにイメチェンしてる!」
「おぅ、早速莉子に紹介してもらった美容院、行ってきたぜ」
「あそこ、腕いいっしょー。うんうん、あの晃成先輩が見られるようになりましたもん、見た目は!」
「うるせぇ、祐真と同じこと言うなし!」
「きゃはっ」
じゃれるように晃成にからむのは、油長莉子。
1つ年下で涼香の中学以来の親友ということもあり、祐真たちともよく一緒になる気安い仲だ。
晃成は莉子に揶揄われつつも、イメチェンの結果に悪くない手ごたえを感じニヤニヤすれば、それを余計に莉子に弄られるということを繰り返している。
そんなお馴染みとも微笑ましいともいえる毎度の光景に、祐真と涼香も顔を見合わせ苦笑い。
(油長は……)
祐真が彼女の心境を慮って眉を寄せていると、ひとしきり晃成を構い終えた莉子が肌をツヤツヤさせながらやってきた。
「ね、ね、涼香、なんだかんだで晃成先輩って素材はよかったし、イケてるようになったっしょー」
「そだねー、我が兄のことながらビックリだし」
「涼香もさー、同じところ紹介しようか? てか行こうよ。絶対可愛くなるって!」
「ん~、あたしは別にいっかなー。なんか色々
「うわ出た。相変わらずの女捨ててます発言っ! 河合先輩も何か言ってくださいよー」
話の水を向けられた祐真は、ちらりと涼香の姿を見やる。
制服もきっちり着こなし、全体的に地味な印象はあるものの、スラリと均整のとれたスタイルをしているし、目鼻立ちも整っている。
確かに莉子の言う通り、素材として良いものを持っているのだろう。しっかり手入れすれば、晃成の様に化けるに違いない。
その涼香はといえば、あぁまたかと困ったような顔をしていた。
きっと、事あるごとに似たようなことを言われているのだろう。
祐真は苦笑と共に言葉を返す。
「そうかもな。でも結局決めるのは本人だし」
「えぇ~、もったいない! 晃成先輩でさえこうなんだし!」
「うんうん、中学時代モサモサだった莉子でさえ、今はこうだもんな」
「っ! ~~~~っ、晃成先輩っ!」
「おぉ、こわいこわい!」
「あはは」
「……はぁ」
そこへ晃成がやってきて茶々を入れれば、高校デビューした莉子はそのことに触れるなとばかりに拳を振り上げる。
再び始まるいつもの光景に皆の笑い声が上がり、しかし祐真は鼻白んだ目をそっと2人から逸らした。
※※※※※※
次回、12時に更新します
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます