第7話

 007



 始まりは、やはり変換炉の再生だ。



 当時、学会からの発表と伝説のスピーチを聞いた貴族たちは動揺を隠せなかった。

 何故なら、金で成り上がり代々守ることで存続しているという、ある種のコンプレックスを刺激される事よりも強く、彼の過去と未来を見る力への欲望が強いと気が付かされてしまったからだ。



 ……誰かが言った。



「あの男が欲しいな」



 その貴族の男が社交界で呟いた一言は、場に居合わせた貴族たちの焦燥感を著しく駆り立てた。

 クロード・カミュは、自らが王へ成り上がる為の最も効率的な人材であると理解、というのが正しかったのかもしれない。



 故に、貴族たちは自分たちの娘に『彼を篭絡出来るよう手籠にせよ』と命を下した。彼が不自然なほどに女からアプローチされる背景には、そんな理由があったのだ。



 本来であれば、平民の出身である男が貴族の女に集られて断れるハズがなかった。見た目も魔法も優れた女たちが、たった一人の落ちこぼれを手に入れる事など難しいワケがなかったのだ。



 ……大人たちにとって誤算だったのは、クロードが真に学問の信徒であった事と、彼らの娘たちが尽く本気でクロードに惚れてしまった事だろう。



「わたくしと、お付き合いしていただけませんか? あなたとなら、例え僻地で慎ましく暮らす事になっても……」



 彼は、すべての公女の告白を断った。自分に告白する貴族など、何かしらの謀があると思い当たるのはそう難しくなかったからだ。



 それに、不敬罪により投獄されたとしても、歴史を思い返し夢想する事は叶うと信じていたのも彼に拒む勇気を与えていただろう。



 学ぼうと思えば、人はどこでだって学べる。



 彼は、10歳で士官学校への入る決め手となった父の偉大な遺言を、いつだって胸に秘めて生きている。権力や自由の剥奪など、何一つ怖くないと本気で思っているのだ。



 しかし、彼から学問を奪えば魔法の可能性を潰した粗忽者として自らが国から追放されるというジレンマに、貴族たちは業を煮やしていた。勢いや感情のままに、彼を断罪する事が出来ない理由はそれだ。



 だから、彼は今日も孤独に歴史を読む事が出来る。文字の背景に浮かぶ世界を想い、耽って茫漠な幸せをただ享受するのだ。



 誰のモノにもならない、マロニエの貴公子として。

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